永冬生活…色彩 | 腹回り鏡餅に浮輪ネガポジ部屋

腹回り鏡餅に浮輪ネガポジ部屋

光と闇は表裏一体。
2017年末に 脳梗塞で倒れ 糖尿病も併発、軽い右側麻痺、言葉がたどたどしい。
LDH系、特に三代目JSB、特に登坂広臣(臣ちゃ)好き♡♡♡
斎藤工(工ちゃん)好き♡♡♡
《いいね》は生存確認、内容に関わらずしてます。
(記事に無関係、無神経な※ 無言削除)

C店で、一番印象に残っているのは市ちゃん。

元893屋さんだったらしいが、本人が言っているだけなので、本当のところは解らない。
酒やけとお酒の飲みすぎで肝臓をやられたせいで、どす黒い顔だった。

いつも最初から酔っ払った状態で現れるので、帰る頃には、完璧に泥酔状態になっていた。

だから気を付けないと、ドコにあるか解らぬ地雷を踏んでしまう、ということになりかねず。
従業員でも、バイトでも、少なからず1度はトラブルを経験することになった。

やれ、目付きが気に入らないだの、物の置き方が気に入らないだの、些細なことでも噛み付くので、誰もが皆、敬遠したがった。

でも何故か最初から、私に対して怒ったことはなかった。
拗ねることはあっても(笑)、怒ることはなかった。

いつも、相手が誰であろうと、鋭い目で睨み付けていた市ちゃん。
そんな風なので、自然と相手をするのは私だけになってしまったのだ。

市ちゃんは酔うと目がすわる。

かなり、どっしりと。

私が側にいても、常にバカみたいに笑っている訳ではないので、普段は結構鋭い目付きだったが

《市ちゃん♪駄目だよ?お目々の下に座布団敷いてぇ。》

「あーっ!?」

《ほらぁ。目がすわってる♪》

と言うと、途端に表情が一変する。

目がなくなるくらいの満面の笑みで、ニッカーと笑ってくれたのだ。
ごっつぃ顔だったけど、屈託のないあの笑顔が好きだったりした。

あまりにも目が恐い時は

《あらっ。今日は座布団じゃなく、お布団敷いちゃったのね♪》

と言って笑わせたものだ。
(そのままでは、他のお客さまも怖がるので)

「チビちゃんには、ほんとにかなわないなぁ。」

なんて言ってくれたっけ。

「今でもなー、俺が一声掛ければ、鉄砲玉の1人や2人…いや、3人やよ…いや、7~8人は飛んで来るんだぞっ!!」

というのが口癖だった。

もちろん

《市ちゃん!!どんどん増えてますよっ?》

って突っ込みは、忘れなかった(笑)。

新さんは、C店の常連さんにしてはごく普通の人だった。

奥様とは随分前に離婚され、息子さんと暮らしてらっしゃった。
その元奥様の名前が、私と全く同じ名前で、ビックリした覚えがある。

その元奥様。
ガンで余命いくばくもなく、他に面倒を見てくれる人もいなかったようで、新さんに連絡が入り

「放ってはおけないもんなぁ…。」

と、お見舞いがてら身の回りの世話もしてあげていたらしい。
結局、元奥様は亡くなられ、暫くは少し淋しげだった。

新さんは非常にお酒が強く、皆にもよく飲ませてくれた。

はっきり物を言うタイプの人で、口は悪いが、多少嫌いな相手でも皆に平等に飲ませてくれる、オトナな人だった。

ただ、以前出てきたマンキーは、どうにも好きじゃなかったらしく

「おぃ、チビちゃんっ。なんだ、あのババァはっ!うるさいババァだなぁっ。喋るなっ!て、言っておいてくれよ!」

と、いつも目が無表情な笑顔で言ってた。
(コワイ;)

新さんといつも連んでいたマッちゃんは、比較的無口だったが、結構独特な、マニアックともいえる視点を持っていて面白かった。

そういえば、甘エビの頭を焼いて食べるのが至福の喜びだったようで、よく、焼いて貰って嬉しそうに食べていた。
もちろん、メニューにはないので、特別に。
(いわゆる裏メニュー)

ごく稀にしか来ないイカちゃんも、市ちゃん同様、かなり酔っ払ってから来る人だった。

彼の場合は、お店に来ると、まず、所持金を確認するところから始まる。
オケラ(無一文)なのに、来ることが多かったかららしい。

そのイカちゃんは、私がC店に来てから、以前の数倍、頻繁に来るようになったらしい。
(他の従業員に言われた)
ちゃんと相手をしてくれる、私の存在がそうさせたようだ。
相手をするのは苦痛じゃなかったが、なんせほぼ泥酔状態なので、何を言っているか聞き取るのが大変だった。

そういえば、ご近所の集まりだかなんかで一度シラフで来たことがあったが、いつもと全く様子が違い、まさに借りてきたネコのようだった。
なんだか妙に恥ずかしがって、ろくに目も合わせてくれなかった(苦笑)。

こんなお客さまもいらっしゃった。

その人は、屠殺業(トサツギョウ、豚を食肉に加工)で、その自分の職業を恥だと思っていた。

「俺はなぁっ!!豚を殺してるんだぞっ!!毎日、毎日、豚を殺して金を貰ってるんだっ。悪いかっ!!俺は…皆の嫌われもんなんだよっ!」

吐き捨てるようにそう言って虚勢を張っている彼の目は、悲しみや寂しさを必死で隠そうとしているようだった。
恐らくドコへ行っても、好奇の目、蔑みの目にさらされて来たのだろう。

《それ…おかしいですよ。》

なにぃっ!と言いたげな彼の目を見ながら、更に続ける。

《だって、豚肉ってだいたいの人が食べる物でしょ?屠殺業(トサツギョウ)の人がいなかったら、皆、食べられないんですよ?貴方のように人が嫌がる仕事をしてる人って、凄いと思いますよ。もっと…自信持って、胸張って生きるべきなんじゃないですか?》

最初は、そう言った私を、とんでもない珍種でも発見したかのような顔で見ていた彼。
その驚きは、すぐに疑念に変わる。

【適当なこと言いやがって】的な、疑いの目で睨み付けるように見る。

その彼も、話しをするうちに変わってきた。

そして、急に泣きそうな顔になると、弱音を吐き始めた。
あまりに一生懸命に擁護するみたいな私に、ふと、気を許してくれたのかもしれない。
今まで虚勢を張っていた分、本当の彼は、弱く、もろかった。

自分の心の内を吐き出し、スッキリしたのだろう。
やがて、穏やかな飲み方になっていた。

帰る時には

「ありがとぉ。アンタのお陰で、楽しい酒が飲めたよ。」

というお言葉をいただいた。

私の言葉ぐらいで、劇的にどうこうってことはないだろうが、少しは…砂漠の中のほんの一粒くらいでも、彼のココロに光を届けられていたら…と、思う出来事だった。