パルミチン酸レチノールは夜だけでなく朝も使用できます:サンスクリーンも併用しましょう | 青山ヒフ科クリニック院長Dr.亀山のオフィシャルブログ

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表参道にある青山ヒフ科クリニック 院長 亀山孝一郎のブログです。

レチノールはアンチエイジング作用を発揮するとして最近人気の成分です。

ここで問題になるのがレチノールは朝使用できるのかという事です。

これについて世界の趨勢について解説します。

 

レチノールはアンチエイジング、毛穴縮小、抗にきび、美白作用を発揮するとして使用されてきました。

2003年に Jouranal of Investigative Dermatologyという皮膚科で一番権威ある雑誌に

 華々しく登場した論文が下の論文です。

Vitamin A exerts a photoprotective action in skin by absorbing ultraviolet B radiation

(ビタミンAはUVBを吸収して皮膚保護機能を発揮する)

パルミチン酸レチノールは皮膚に貯蔵され、300から350nm のUVB、UVAを吸収するがその最大吸収波長は325nmである。我はレチノールエステルのUV吸収効果を調べた。ヘアレスマウスにレチノールエステル(パルミチン酸レチノール)を外用し1J/cm2のUVBを照射し、2時間後にthymine dimer(遺伝子障害のサイン)の形成を調べた。また人の皮膚にパルミチン酸レチノールをがいようして OMC(紫外線吸収剤、octylmethoxycinnamate)の効果を比較した。この時MED(紅斑を生じる最小量)を生じるUVBを照射して2時間後のthymine dimerと24時間後の紅斑を調べた。パルミチン酸レチノールはOMCを含むサンスクリーン同様にtyimine dimer 紅斑形成を抑えた。この効果はsun protection factor 20のサンスクリーンに相当する(2MEDくらいまで4MEDだと抑制効果はサンスクリーンより落ちる)。皮膚にレチノールエステルを外用することはレチノールの本来の効果を期待すること以外に、紫外線を吸収して皮膚のダメージを低下させることが期待される。

この実験では上の図に示すようにサンスクリーンなしでは、最小紅斑量の4倍の紫外線を照射すると皮膚は赤くなります。

左から1番目と2番目それぞれ紅斑を生じる最小量の2倍と4倍の紫外線を照射して赤くなっています。

SPF20のサンスクリーンを塗ってから同じ量の紫外線を照射しても皮膚は赤くなりません(左から3番目、4番目)。

パルミチン酸レチノールを外用した場合でも皮膚はほとんど赤くなりません(一番右と右から2番目)。

すなわちパルミチン酸レチノール(PR)は抗酸化力を発揮して、紫外線が生じる活性酸素を消去することで

皮膚に炎症が起こるのを防止することが可能であることが実験で報告されたのです。

その後、化粧品メーカーはサンスクリーンにパルミチン酸レチノールをどんどん配合するようになったのです。

 

その後化粧品メーカーに冷水を浴びせる報告が出現しました。

それはメラニンと毛を持たないSKHへアレスマウスを用いて行われた実験でした。

パルミチン酸レチノールを外用してUVAを照射すると、レチノールを外用しない場合に比べて、遺伝子の変異が多く出現して

発癌を引き起こす可能性があるという論文です。

 

世界中が大騒ぎになりました。サンスクリーンに配合していたPRが発癌を早期に引き起こすようになったのですから。

現在PRは多くの化粧品で使用されています。

食品にも添加されています。

トレチノインなどのビタミンA酸は乾癬、ニキビなどの治療に外用や内服で使用されています。

一体こうしたらいいの? と大論争になったのです。

 

2013年に米国の大手医薬品メーカーであるジョンソンアンドジョンソンが

Vitamin A and its derivatives in experimental photocarcinogenesis: preventive effects and  relevance to

humans   という論文で反論しました。

論文の骨子は以下のようになります。

 

早期に光発癌を起こす可能性があるといわれた実験に使用されたマウスは

メラニンを持たない、皮膚が薄い、皮膚にビタミンCなどの抗酸化物をあまり持たないという性質があります。

メラニンは紫外線を吸収するだけでなく、活性酸素を消去する作用もあります。

メラニンを持たないマウスは紫外線に対して非常に敏感になるだけでなく、

活性酸素を生じにくい可視光線に対しても非常に敏感になります。

 

上左はメラニンを持っていないマウスの背部の皮膚です。

皮膚は非常に薄く、表皮細胞は2,3層しかありません。

上右は20代の女性の人の顔の皮膚です。皮膚は厚く、表皮細胞は10層以上あります。

 

 

上は僕がメラニンを持たないマウスを用いて、アレキサンドライトレーザー、ビタミンCやレチノールの

アンチエイジング効果を調べた実験です。

右上は何も処理していないマウスの背部の皮膚ですが、表皮が非常に薄いということがわかります。

一番表面のやや紫色の部分が表皮ですがほんの数層しか表皮角化細胞が並んでいません。

これにアレキサンドライトレーザーを微弱出力で照射したり、ビタミンCやレチノールを外用すると

表皮が厚くなり、真皮のピンクのコラーゲンが増加します。

レーザーと外用を併用すると皮膚のキメも増加しています。

このようにメラニンがないマウスでは紫外線やレーザー照射の効果を極めてあざやかに示すことが可能になります。

おそらくSKHマウスを使用してPRの効果を見た方たちは、紫外線の効果を鮮やかに示すために

メラニンを持っていないマウスを選択したのでしょう。

この実験に用いたマウスの皮膚の特徴は

 

メラニンなし

皮膚が薄い

皮膚にビタミンCなどの抗酸化物質が少ない

 

これら3つの特徴を持っています。これは人の皮膚とは異なり非常に光により発癌をきたしやすいのです。

ヒトの皮膚は紫外線を吸収するメラニンを持ち、皮膚が厚く、ビタミンCなどの抗酸化剤を豊富に持っています。

下の皮膚は10代の女性の前腕部位ですが、角層や表皮が上のマウスの図に比して非常に厚いのがわかります。

上はメラニンを持たないマウスに紫外線を照射した場合の模式図です。

紫外線は皮膚に活性酸素を生じ、活性酸素は蛋白にダメージを与え過酸化脂質も形成して

DNAに変異を起こし、発癌を引き起こします。

パルミチン酸レチノールは紫外線だけでなく活性酸素を吸収してその発癌効果を抑制しようと頑張るのですが、

紫外線により光変性物を生じ遺伝子の変異を引き起こしてしまうのです。

皮膚に蓄えられたパルミチン酸レチノールは紫外線を吸収し、

活性酸素を消去して変性にて皮膚に悪影響が起こるのを防ごうとします。

これが当初報告されたパルミチン酸レチノールがSPF20程度の紫外線に対するサンスクリーン作用につながるのです。

ですが、大量の活性酸素やパルミチン酸レチノールの光変性物が遺伝子に変異を起こしてしまい光発癌を引きおこします。

 

一方人の皮膚にPRを外用して紫外線を照射した場合を上にしまします。

紫外線はメラニンにより吸収され少量の活性酸素を生じます。

活性酸素は皮膚に豊富に存在するビタミンCなどの抗酸化剤で消去されます。

抗酸化物質はレチノール光変性物や過酸化脂質の産生も抑制して遺伝子の変異を抑制して光発癌を抑制します。

ダクターケイではパルミチン酸レチノールにビタミンC、ビタミンB3、グルタチオンを

配合した外用剤を2023年2月に発表します。

青山ヒフ科クリニックではパルミチン酸レチノールを配合したレチノールセラムに

ビタミンBCとグルタチオンを配合した毛穴レス美白ローションを一緒に使用することをお勧めしています。

そのような場合の模式図が上のようになります。

皮膚表面や吸収されたレチノールやビタミンC、ビタミンB3、グルタチオン

が、皮膚にもともとあるビタミンCなどの抗酸化物質やSODやCatalaseなどの活性酸素を消去する酵素とともに

紫外線による活性酸素をほぼ完全に消去してレチノール光変性物やDNAのダメージを抑制して

紫外線による皮膚のダメージや発がんの可能性を抑制するのです。

これにサンスクリーンも併用すればさらに完璧です。

2%相当の外用するという事が、すでにSPF20 相当のサンスクリーンを塗るということになるのですから。 

 

レチノールが登場して約40年になりますが、PRはミルクはシリアルなどの食品にも配合されています。

食品を摂取して皮膚癌が生じたという報告はありません。

皮膚癌の治療や乾癬、ニキビの治療にビタミンAは内服や外用で使用されてきました。

これらの患者さんで発癌が誘導されたという報告もありません。

 

青山ヒフ科クリニックのレチノールセラムにはパルミチン酸レチノールが配合されています。

近い将来ドクターケイからもパルミチン酸レチノール入りのコスメが登場します。

どうぞ安心して夜だけでなく、朝も使用してください。

パルミチン酸レチノール入りのスキンケアを使用するという事はSPF20相当の

サンスクリーンを使用するという事につながります。

パルミチン酸レチノールと一緒にビタミンCやグルタチオンなどの抗酸化剤配合のスキンケアを使用して   

光発癌を防ぐという意味だけでなく、光老化を防ぐという意味で

毎日朝は紫外線対策をするようにしてください。

そうすれば完璧です。

青山ヒフ科クリニックでは毛穴レス美白ローションにビタミンB群、ビタミンC、グルタチオンなどの抗酸化剤を

配合しています。 抗酸化剤は紫外線による活性酸素を消去します。

レチノールセラムにはパルミチン酸レチノールを高濃度配合しています。

使用による刺激性、いわゆるA反応が出にくい設計になっています。

 

騒ぎを起こしたヘアレスマウスをした実験で大騒ぎになりましたが、

ヒトの皮膚の優れた面、紫外線対策、抗酸化剤、光老化などについてじっくり学ぶことができました。

ヘアレスマウスで紫外線により発がんを起こす可能性があるとされた実験系に使用したパルミチン酸レチノールは

非常に高濃度で毒性を発揮します。

メラニンを持つマウスにおいては低濃度の毒性を発揮しないパルミチン酸レチノールは

期待道理に紫外線による発がんを抑制したことが報告されています。

この実験を人に当てはめることが合理的な解釈でしょう。 

 

2022年10月にEU消費者安全科学委員会(Scientific Committee on Consumer Safety)は

パルミチン酸レチノールを含有するスキンケア製品についてsafe と再評価しました。 

 

青山ヒフ科クリニック、ドクターケイではパルミチン酸レチノールを使用したスキンケア製品を皆様に提供いたします。