最近恒例の週末の大雨、加えて風邪気味です。こんな日は研究室行きです…
さて、本業の研究ではありませんが、前からちょっとずつデータを集めていた釣り糸のノットテスト(結束強度評価)の記事を書きたいと思います。
始めに言っておきますが、興味の無い人にとっては全く面白いものではありませんので無視して下さい…
今回はまずやってみたかった、ヘラブナ釣りのハリスと金具(サルカンやマルカン)との接続について少し検証してみました。
その前にまずノットテストについて…
ノットテストや、釣り糸の強度チェックをきちんとした方法でやろうとしたら、結構手間が掛かるものです。
まず、この手のテストをするにあたり必要な技術は、「100%強度」の結びが出来ることです。
これが出来ないと、試したいノット以外の場所で切れたり、ましてや糸そのものの強度を測ることなど当然出来ません。
「100%強度」が出せる結びをご存じでしょうか?
モノフィラメントの糸だと2つ、「ビミニツイスト」と「三つ編み」しかないとされています。これで作ったダブルラインを「ダブルクリンチ・ノット」等で結んだものがほぼ100%強度の結びですが糸の種類によっては強度低下を起こします。
PEの場合、上の方法でダブルラインを作ると必ず強度低下を起こしますので、「MIDノット」や「PRノット」でモノフィラメントと接続することで、ほぼ100%の強度が得られ、ライン自体の強度チェックが可能になります。
この100%ノットを1回1回組まなければならないため、非常に手間が掛かるのです。
そのため、休み時間等にコツコツやった以下の試験では評価をするために十分な回数のデータ数がとれていないことを、先に書いておきます。
さて、本題のヘラブナ釣りのハリスと金具の接続についてです。
まず、私が現在使っているのは、八の字結びでコブを作り、本結びをしてそのコブで止める方法です。

ヘラ釣りでは、ハリスをとりかえる回数が多く、あらかじめ必要な長さのハリスを結んでから現場に持参することが多いです。
数センチのズレが釣果を分ける世界ですので、ハリスをキッチリ同じ長さに揃えて結ぶことが大切です。
そのため、クリンチ・ノットやパロマー・ノットなどはほとんど使われていないと思います。
おそらく、ほとんどの方が、上記の「こぶ結び」もしくは「8の字チチワ結び」を使っていると思います。この結び方により、現地で用意したハリスを素早く交換することが出来ます。
私は最初は「8の字チチワ」を使っていたのですが、野本名人の動画を観てこぶ結びに変えました。
私がこの結び方に変えた理由として
1.1㎜の誤差も出さずハリス長さを揃えるのが容易(以前キス釣りの仕掛け作り用ジグをご紹介しましたが、同じ原理で板に細い釘を打ったジグで、簡単にコブの位置をピッタリ揃えることが可能です。私の場合、8の字だとどうしても誤差が出て、また小さなチチワを作るのが苦手なのです。)
2.チチワを用いると8の字部分でハリスが折れて水中でわずかな誤差を生じる。
3.8の字チチワよりも結束強度が強い。(野本名人曰く)
の3点が挙げられます。1の理由が一番大きいのですが、これで強度も8の字より強いのなら言うこと無しだと思ったのです。
…しかし、3の強度に関しては疑問に思いました。個人的な感覚では、8の字チチワ結びの方が強度があるような気がしてならないのです。
そこで、その疑問を確かめるため、上記の2つに加えて、野本名人が8の字チチワより強いと勧められrている、8の字3回ヒネリ(「24の字結び」)の3つの結びの強度を比較することとしました。

試験に使う糸は、私が普段使用しているヘラ用ナイロンハリス0.4号です。
この糸自体の強度ですが、極細ラインでは私の技術では、上記の「100%強度」のノットがなかなか得られず、正確なデータが得られませんでしたが、参考強度はおよそ1000gちょっとというところです(思ったより強い)。
実験1
ヘラブナ釣り用ハリス0.4号とサルカンの結束方法3つの破断強度を、以下の条件で比較します。
・引張速度は1㎜/秒
・はじめにある程度結束部分に負荷が掛かった状態から引張を開始し、破断直前と破断後のロードセルに掛かった荷重の差をとって結束強度とする
・試験片の全長は約50㎜でビミニツイスト側のダブルライン部分20㎜
・サルカンとの結束部分で切れた時の強度を3回ずつ測定し、それ以外の箇所でで破断した場合は無効とする。
・3回のデータを得るまでにハリスの単線部分で切れて無効としたデータ数も記録する
ごくゆっくりと負荷を掛けていき、結束部分の純粋な強度を得ることが目的です。
ハリスの伸びの大きさによって結果が変わることを想定し、試験片の長さは出来るだけ揃えています。当然1回ごとに新品の糸を結び直します。
結果は以下のようになりました。(単位はグラム)

ここで、これだけ極細の糸でノットテストをしたことがなかったのですが、ノット部以外の単線部分で切れてしまうことが何度か起きてしまい、3回のデータを得る過程で無効としたデータ数を「途中切れ回数」としました。こぶ結びや8の字結びが「100%強度」となることはまずないはずですが、一応記録することとしました。
この結果から見るに、やはり私の思った通り、こぶ結びより8の字結びの方が単純な結束強度は強いことが分かります。また24の字結びと8の字結びの強度はほとんど変わりません。
実験2
ヘラブナ釣り用ハリス0.4号とサルカンの結束方法3つの破断強度を、以下の条件で比較します。
・引張速度は10㎜/秒(この装置の最大)
・結束部分に負荷が掛かっていない、ややたわんだ状態から引張を開始し、破断直前のロードセルに掛かった荷重をもって結束強度とする
・試験片の全長は約50㎜でビミニツイスト側のダブルライン部分20㎜
・サルカンとの結束部分で切れた時の強度を3回ずつ測定し、それ以外の箇所でで破断した場合は無効とする。
・3回のデータを得るまでにハリスの単線部分で切れて無効としたデータ数も記録する
実際の釣りでは、ハリス切れは合わせた瞬間や魚が突っ込んだ瞬間などの、「瞬間的な負荷」が掛かった場合に起きます。実際、根がかりを引っ張ってもなかなか切れないのに、魚が掛かったら簡単に(根ズレや歯ズレではなく)…ということがよくあります。
「耐ショック性」とでも言いましょうか、この試験はそれを想定してみました。
本当はもっと早いスピードで引っ張れればいいのですが、この速さが装置の限界でした。
実験1と同じく、ハリスの伸びの大きさによって結果が変わることを想定し、試験片の長さは出来るだけ揃えています。当然1回ごとに新品の糸を結び直します。
結果は以下の通り。(単位はグラム)

こぶ結びの3回目が随分弱くなり、こぶ結びの平均強度を大きく下げてしまいましたが、やはり8の字や24の字結びの方が強いような気がします。こぶ結びでは、単線部で破断することはありませんでした。
結果と考察
・データ数が少なく、信頼性は十分ではない。
・結び目ではなく途中切れ(単線部の破断)が多かったのは、ラインが極端に細かったこと、ライン自体に問題があった可能性があると考えられる。
・どちらの条件においても、こぶ結びの強度は8の字結びおよび24の字結びにおよぶむのではない。
・いずれもシンプルなノットのため、強度のばらつきは比較的少ない。
・実験2の結果より、24の字結びでは、巻きつけ部でラインが重なる場合があり、それが瞬間的な負荷に対する強度低下を生む可能性がある。
・実験2において、さらに引張速度を速くすれば、異なる傾向の結果が得られる可能性がある。
実験2でさらに引張速度を速くし、実釣りでのアワセや魚のつっこみなどに近い瞬間的な負荷を再現出来れば、野本名人のおっしゃるようにこぶ結びや24の字結びの方が8の字結びより強い-という結果になるのかもしれません。
データ数を増やすことと、上記のような負荷を与えたテストの方法を考えることを今後の課題とします。
ただし、今回のデータを見た限りでは、こぶ結びの方が8の字や24の字結びより弱く、このままこぶ結びを使いつづけようか迷います。(実際に今まで結び目でアワセ切れしたこともあったし…)
これからの時期、さらにハリスの号数を落として(0.3号や0.2号)、大型のヘラブナを狙うことが考えられ、その場合に100gの強度の違いというのは大きなものとなると考えます。
上記の課題や、針とハリスの接続法による強度の違いを、また時間がある時に試してみようと思います。
オマケ
以前、ナイロン同士の「ブラッド・ノット」と「サー・ジョンズ・ノット」はどちらが強いか?―という質問を頂いたので、こちらも検証してみました。こちらもデータ数が少なく信頼性には欠けることを先に断っておきます。
使う糸は実験1および実験2と同じもの。実験条件は実験2とほぼ同じで、両端にビミニツイストを作り、単線部の中央の結束部の破断強度を調べます。
上記の2つの結びに加え、私がフカセ釣りのハリスと道糸の直結や、管釣りのナイロンメインラインとショックリーダーの接続に用いている「8の字2回ひねり(藤原結び)」の3つを比較してみました。

こちらが8の字2回ひねり結びです。
8の字結びの絡ませる回数を2回にしたものです。
ちなみに「ブラッド・ノット」の巻きつけ回数はお互い5回ずつです。
「サー・ジョンズ・ノット」は「サージェンス」、「サージャンズ」、「サージェント」など色々な呼び方をする方が居ますが、2本の糸をまとめて本結びに3回絡める結び方です。
結果は以下の通り(単位はグラム)。

すみません。ブラッドの平均が間違っています。510くらいですね。
0.4号のナイロンライン同士の接続では、「8の字2回ひねり」>「サー・ジョンズ・ノット」>「ブラッド・ノット」の強度が出るということが読み取れます。
糸の太さが変わったり、違う太さ同士の糸だと傾向が変わるかもしれません。
サー・ジョンズは巻きつけ部分の糸が重なったり、締め込みの時に強度低下を起こす場合があるのか、ずいぶんばらつきました。私の結び方が下手なのでしょう。
サー・ジョンズが出来る場合(糸の両端を結びに通せる場合)には8の字2回ひねりを用いた方が、早くムラのない強度が得られると思い、8の字2回ひねりを使用しています。

蛇足ですが、8の字2回ひねりを図のように2か所作ると少し強度が上がる気がします。めんどくさいのであまりやりませんが…
ご参考までに…
またやる気がおきれば他のノットテストもしてみたいと思いますので、何か希望があればお申しつけください。
「そんなことせずに、本業の研究をしろ」というお叱りはやめてください(笑)