私は、あなたのお手紙で、K君の溺死を知り、大層おどろきました。そして、「K君はとうとう月世界へ行った」と思ったのです。なぜなら……。
「乙女の本棚」シリーズです。
書簡体で書かれた短編です。
「K」繋がりで読んでみました。
こちらの「K」君も、とんだ「K」君でした。
「K」とは、やはり「梶井」の「K」でしょうか。
過失なのか自殺なのかと悩んだ末、一面識もない「私」に、「K」の死を悼んで手紙を出した「あなた」とは、誰なのでしょう。
それ以前に、手紙をもらった「私」も、また謎。
偶然、療養地であるN海岸で、「K」と知り合った「私」ですが、健康を取り戻した「私」に対して、「K」は病気が進行していきます。
どうしても、作者本人と「K」を重ねてしまいます。
そして、「私」は、まるで「K」の影、ドッペルゲンガーであるかのように、「K」に代わって彼の死の情景を語ります。
それゆえ、「あなた」とは、読者も含めて、彼を囲む知人・友人・家族へ向けた、メッセージのようにも思えて。。。
ハイネの詩にシューベルトが曲を付けた「海辺にて」&「ドッペルゲンゲル」、シラノの月へ行く方法、ジュール・ラフォルグ(フランスの詩人で27歳で夭折)の詩、イカルスの失墜。
どれも、乙女が好みそうです。
なるほど、「乙女の本棚」やわ。
そして、月齢十五・二の満月の南中する時刻に、何人ものイカルスを嘲笑するかのように、月へと飛翔し去った「K」の魂に、自らの死を予言したのかなぁと思います。
イカルスも太陽ではなく、月を目指せばよかったのかもね。
哀れなる哉、
イカルスが幾人も来ては落っこちる。
私も何遍やってもおっこちるんですよ」
そう言ってK君は笑いました。
【おまけ】