おさげ髪の少女が誘います。「わたしは本の子。物語の世界から想像力のいかだに乗って、ことばの海を旅してきた。いっしょに行こう。」少年は、彼女に手を引かれ、ことばの道を、空想の山を、宝を見つけに、おとぎばなしの森へ、のろわれた城の怪物から逃れ、雲に乗り、宇宙へ。。。
宇宙は原子ではなく、物語で出来ている。
ミュリエル・ル―カイザー
『沈黙から――ル―カイザー選詩集』
という献辞から始まるこの絵本。
遊び心満載で、超有名な物語の文章を使って、海や山や道、洞窟に森、怪物や雲や宇宙までがデザインされています。
ちょっと解りずらいですが、表紙絵の本の影もです。
例えば、穏やかな海は、『ドリトル先生航海記』や『ガリバー旅行記』の一節が使われています。
荒れ狂う波には同じ『ガリバー旅行記』でも、嵐の場面の一節や『ピノッキオの冒険』が。
ことばの道は『ふしぎの国のアリス』、怪物には「フランケンシュタイン』や『ドラキュラ』が、使われています。
ステキな選択ですね。
アスキーアートに似てるけど、活字は、縦横斜めはもちろん、大きくなったり小さくなったり(まるで食べたり飲んだりした後の”ふしぎの国のアリス”だね)、ときには裏返ったり、さかさまになったり、バラバラになったかと思うと、重なったり(読めないくらい真っ黒)と変幻自在。
『赤ずきんちゃん』や『ヘンゼルとグレーテル』の森には、小口をこちらに見せた本が木のように立っているという凝りようですし、最後には、ひしめき合ったビルが、右端では立てかけられた本に変化してたりと、本とほんとに楽しい絵本です。
そして、見返しは、使われた物語のタイトルと著者の名前の数々で埋め尽くされていて、その景観にクラクラします。
ラストページ(裏表紙にも)には、ご丁寧にも、表紙の絵の本の鍵が描かれています。
本当は、鍵なんて必要ではないんだけどね。
鍵穴はあっても、本には鍵なんかかかってないからね。
強いて言うなら、あんなことやこんなことを思い浮かべることができる想像力こそが、鍵なんでしょう。
でも、とりあえず、貰っとこうかな。
その力が、万が一すり減ってしまったときのために。
予備、予備、備えあれば患いなし。
わたしは 本の子。
物語の国からやって来た
わたしたちの世界を
わたしたちは 物語から作った。
そして わたしたちの家は
あたらしいものが生まれる家
だれでも みんな来られる
なぜなら
想像力は 自由だから。