テナーは五歳になると、喰らわれしものとして名前を奪われ、アチュアンの墓所の闇の者である名なき者に仕える大巫女:アルハとなった。墓所の地下には迷宮が広がっており、大宝庫には宝物が眠っているという。迷宮に地図はなく、代々口伝えで大巫女に伝えられ、記憶のみが残されてきた。その大迷宮に、男が忍び込み……。
ゲド戦記Ⅱです。
しかし、ゲドが、なかなか登場しません。
やっと登場したと思ったら、なんと宝物を狙う盗人です。
しかも、さっそうととは言い難く、ほどなく地下の迷宮に閉じ込められてしまいます。
アカンや~ん。
この巻では、大巫女:アルハことテナーが主役です。
そして、こちらでも「名前」が関わっています。
大巫女:アルハが死ぬと、彼女の死んだ日に生まれた女の子を探しだし、生まれ変わりと称し、五歳になると名前を奪い、代々アルハという名前を継がせて巫女教育を施します。
このアルハが、自分の名前:テナーを取り戻すお話がメインになっています。
幼くして外の世界と隔絶されたアルハは、大巫女という格上の巫女であるため、他の巫女たちとは扱いが違います。
とは言え、若さゆえ微妙な立ち位置にあり、教育係でもある大王の第一巫女をつとめるコシルとの確執に、大巫女ゆえの自尊心も加わり、ここはちょっと若き日のゲドを彷彿とさせます。
前巻のアーキペラゴ(多島海)をめぐる冒険にあたるのが、こちらでは地下迷宮からの脱出です。
地図もなく迷路のように入り組んだ道を覚えるのは、私には絶対ムリ。
テナーの記憶力にはびっくりです。
ゲドと共に墓所の地下迷宮から脱出し自由を得るテナーですが、一時的に自分の決断を後悔し、行動に躊躇します。
未来への不安ゆえに、安全な過去に執着するのは、誰しも思うところです。
その葛藤に胸が熱くなりました。
しかし、きちんと自分と向き合って、しっかり前進するところは、ゲド先輩と同じです。
ゲドはゲドで、そんな彼女が自ら選択することを待ってあげられるのは、かつて自分が”沈黙の人”:オジオンの弟子としての経験があるからでしょう。
今度は、ゲドがテナーを見守る番です。
彼も師匠の跡を歩んでいるんやなぁ。
タイトルになっている腕輪は、エレス・アクベの腕輪と呼ばれ平和をもたらすもので、『影との戦い』でゲドが旅の途中、老婆から譲り受けた半分に欠けた腕輪のことでした。
そう言えば、そんなことあったなぁ。
また、ゲドが闇の者たちを否定も肯定もせず、崇拝されるべきものでもないが、また忘れ去られるべきでもないとテナーに語るのですが、これも、彼が影を受け容れたことを知っているだけに、納得できる考えです。
そして、大魔法使いと言えども、古い精霊の支配するところでは、その力も弱まり、ゲドといえども万能ではないところがミソですね。
時に気弱になるテナーを励ましながらの脱出は、なかなかの見せ場です。
また、彼がテナーに”真の名”を教えるシーンには、やはりドキドキしました。
あまりにもさりげないシーンだけど、「信頼」なしでは行えないことを、これまた知っているからです。
しかし、一つ疑問が。
彼は、どうやってテナーの名前を知ったんかな。
気になる、気になる。
やっぱり魔法なんかな?
次の巻も楽しみです。
自由は、それを担おうとする者にとって、実に重い荷物である。勝手のわからない大きな荷物である。それは、決して気楽なものではない。自由は与えられるものではなくて、選択すべきものであり、しかもその選択は、かならずしも容易なものではないのだ。坂道をのぼった先に光があることはわかっていても、重い荷を負った旅人は、ついにその坂道をのぼりきれずに終わるかもしれない。