こわれた腕輪 ゲド戦記Ⅱ  アーシュラ・K.ル=グウィン | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

 

 

 

 

テナーは五歳になると、喰らわれしものとして名前を奪われ、アチュアンの墓所の闇の者である名なき者に仕える大巫女:アルハとなった。墓所の地下には迷宮が広がっており、大宝庫には宝物が眠っているという。迷宮に地図はなく、代々口伝えで大巫女に伝えられ、記憶のみが残されてきた。その大迷宮に、男が忍び込み……。

 

 

 

 

ゲド戦記Ⅱです。

 

しかし、ゲドが、なかなか登場しません。

やっと登場したと思ったら、なんと宝物を狙う盗人です。驚き

しかも、さっそうととは言い難く、ほどなく地下の迷宮に閉じ込められてしまいます。

アカンや~ん。ゲッソリ

 

 

この巻では、大巫女:アルハことテナーがキラキラ主役です。

そして、こちらでも「名前」が関わっています。

 

大巫女:アルハが死ぬと、彼女の死んだ日に生まれた女の子を探しだし、生まれ変わりと称し、五歳になると名前を奪い、代々アルハという名前を継がせて巫女教育を施します。

このアルハが、自分の名前:テナーを取り戻すお話がメインになっています。

 

 

幼くして外の世界と隔絶されたアルハは、大巫女という格上の巫女であるため、他の巫女たちとは扱いが違います。

とは言え、若さゆえ微妙な立ち位置にあり、教育係でもある大王の第一巫女をつとめるコシルとの確執に、大巫女ゆえの自尊心も加わり、ここはちょっと若き日のゲドを彷彿とさせます。

 

 

前巻のアーキペラゴ(多島海)をめぐる冒険にあたるのが、こちらでは地下迷宮からの脱出です。

地図もなく迷路のように入り組んだ道を覚えるのは、私には絶対ムリ。

テナーの記憶力脳みそにはびっくりです。

 

 

ゲドと共に墓所の地下迷宮から脱出しダッシュ自由を得るテナーですが、一時的に自分の決断を後悔し、行動に躊躇します。

未来への不安ゆえに、安全な過去に執着するのは、誰しも思うところです。

その葛藤に胸が熱くなりました。

 

しかし、きちんと自分と向き合って、しっかり前進するところは、ゲド先輩と同じチョキです。

 

 

ゲドはゲドで、そんな彼女が自ら選択することを待ってあげられるのは、かつて自分が”沈黙の人”:オジオンの弟子としての経験があるからでしょう。

今度は、ゲドがテナーを見守る番です。

彼も師匠の跡を歩んでいるんやなぁ。

 

 

タイトルになっている腕輪は、エレス・アクベの腕輪と呼ばれ平和をもたらすもので、『影との戦い』でゲドが旅の途中、老婆から譲り受けた半分に欠けた腕輪のことでした。

そう言えば、そんなことあったなぁ。ニコニコ

 

また、ゲドが闇の者たちを否定も肯定もせず、崇拝されるべきものでもないが、また忘れ去られるべきでもないとテナーに語るのですが、これも、彼が影を受け容れたことを知っているだけに、納得できる考えです。

そして、大魔法使いと言えども、古い精霊の支配するところでは、その力も弱まり、ゲドといえども万能ではないところがミソですね。

時に気弱になるテナーを励ましながらの脱出は、なかなかの見せ場です。

 

 

また、彼がテナーに”真の名”を教えるシーンには、やはりドキドキドキドキしました。

あまりにもさりげないシーンだけど、「信頼」ハートなしでは行えないことを、これまた知っているからです。

しかし、一つ疑問が。

彼は、どうやってテナーの名前を知ったんかな。

気になる、気になる。

やっぱり魔法スターなんかな?

 

次の巻も楽しみです。うさぎラブラブ

 

 

 

 

   

 

本 自由は、それを担おうとする者にとって、実に重い荷物である。勝手のわからない大きな荷物である。それは、決して気楽なものではない。自由は与えられるものではなくて、選択すべきものであり、しかもその選択は、かならずしも容易なものではないのだ。坂道をのぼった先に光があることはわかっていても、重い荷を負った旅人は、ついにその坂道をのぼりきれずに終わるかもしれない。

ピンク薔薇