歌の終わりは海 Song End Sea  森博嗣 | 青子の本棚

青子の本棚

「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

 

 

 

小川令子は、大日向聖美(おびなたきよみ)から、浮気調査の依頼を受けた。彼女の夫:大日向慎太郎は、有名な作詞家だが、人付き合いが嫌いで、マスコミからも距離を置いており、情報が極めて少ない。妻と大学生の息子:星一郎と豪邸で暮らしている。部下の加部谷と張り込みをはじめるが、慎太郎は二匹の犬の散歩以外、外出をせず浮気の徴候は一向に見つからない。しかし、ある夜、見張り用に設置したカメラの交換にでかけた小川は、一人で出かける慎太郎を見つけ尾行する。タクシーを降りると、彼は、橋の上で泣いていた。確たる証拠を掴めないまま調査は継続依頼され、ほどなく離れに住む慎太郎の実姉:沙絵子の死体が発見された。沙絵子の死体は、天井からぶら下がっており、自殺のように見えた。しかし、吹き抜けのように高い天井までは四メートルほどあり、車椅子の彼女が一人で実行するのは難しいと思われた。

 

 

 

 

 

『馬鹿と嘘の弓』の小川さんと加部谷の探偵コンビの第二弾です。

が、シリーズ化は、まだ決定していないようです。

時間の問題かとは思うのですが。。。ドクロ

 

 

 

 

 

英語タイトルから判るように、今回のテーマは「尊厳死」。

 

 

大日向慎太郎は早くに両親を亡くし、子ども時代を姉:沙絵子の庇護のもとに暮らした。

作詞家になったきっかけも、売れっ子になり豪邸に住めるようなったのも、すべて姉の献身的な支え合ってこそ。

六十歳を過ぎた今も、はた目からは、「姉が恋人」と思われるほど、姉を慕っています。

 

そんな沙絵子に、呼び出された探偵:鷹知佑一郎が、第一発見者となります。

他の家族や二人の家政婦は皆外出しており、畢竟、鷹知が自殺幇助の容疑者の第一候補と見なされることに……。

 

果たして、沙絵子は、自殺or他殺?

また、自殺であるなら、それは一体どのようになされたのか?

アシストした者がいたのか?

 

 

答えは、森作品のいつものやつ。

ふっふっふっ、藪の中でございますよ。

 

その引導を渡すのに登場するのが、西之園萌絵。

うわっ、久しぶり。

めっちゃ、大人になっとうやん。

今や、西之園乙女のトキメキ先生ですからね。

ちょこっと登場して、さっそうと去っていく。

なんかねぇ、犀川先生か紅子サンハートかって感じ。

 

 

本 真実というものは、たぶんどこにもないの。そういうものがあると信じて、みんながそれぞれに異なる虚像を追っているだけ

 

うーん、いつの間にそんなにクールになったの?

そして、感じたのが、加部谷って若かりし頃の萌絵にそっくりやん。ポーン

なーんて言うと、加部谷喜ぶやろなー。

 

萌絵はまた、<好奇心が子供の良い部分ですし、全然悪いことではない>なんて言葉を加部谷に投げて去っていくのですが、若き日の萌絵を知ってる読者からすれば、どの口がゆうとんやですね。

 

と、この辺りは、読者サービスプレゼントでしょうか。

 

 

他にも、加部谷の親友:雨宮純ちゃんも拍手登場です。

地方の放送局のレポーターだったはずが、安藤順子名でジャーナリストとして独立し上京してきたようです。

たしか、Xシリーズでは、ラジオパーソナリティだったよね。

 

 

 

 

 

出版社の記者になりすました小川さんに、取材嫌いなはずの大日向慎太郎からのまさかの取材依頼が来て、面がわれてる小川さんに代わり、純ちゃんと加部谷が大日向邸にインタビューに出向きます。

 

そこで慎太郎が語るのが、この作品のテーマ:自死についてです。

 

ふんわり風船ハート命というのは個人が自由にできるものなのか、それとも社会的に守らなければならないものなのか

 

 

正解なんかないよね。

だから、みんなに問いかけてるんだと思います。

もっとガンガン話し合うべきだって。

 

 

前半部分では、<生きることは、死ぬことより本当に「まし」なのか?>と、自問していた小川さんが、エピローグでは、<みんな死へ向かって生きている>と言う加部谷に、<生きることを諦めちゃ駄目>と窘めていて、なんかいいハートコンビだなと思いました。

 

思えば二人とも、ちょっと痛い過去持ちだしね。

小川さんが思うように、この二人、ケーキ屋ショートケーキかパン屋食パンを開いた方が幸せだよなとも思わないでもないです。

でも、二人なら、大丈夫。

なような気がするんだな、なぜか。

 

 

 

 

本人間というのは、過去について素晴らしいスピードで忘却する能力を持っているのだ。この能力のおかげで、毎日がまあまあ安穏と過ごせるのではないか

 

 

 

 

【おまけ】

高い所で死体が発見される森博嗣の作品。

 

 

 

 

 

 

実は、この二作品も、あんまり憶えてないねん。

そして、人間だと証明するかのごとく、毎日まあまあ安穏うずまきキャンディと過ごしております、ワタクシ。