小川令子は、大日向聖美(おびなたきよみ)から、浮気調査の依頼を受けた。彼女の夫:大日向慎太郎は、有名な作詞家だが、人付き合いが嫌いで、マスコミからも距離を置いており、情報が極めて少ない。妻と大学生の息子:星一郎と豪邸で暮らしている。部下の加部谷と張り込みをはじめるが、慎太郎は二匹の犬の散歩以外、外出をせず浮気の徴候は一向に見つからない。しかし、ある夜、見張り用に設置したカメラの交換にでかけた小川は、一人で出かける慎太郎を見つけ尾行する。タクシーを降りると、彼は、橋の上で泣いていた。確たる証拠を掴めないまま調査は継続依頼され、ほどなく離れに住む慎太郎の実姉:沙絵子の死体が発見された。沙絵子の死体は、天井からぶら下がっており、自殺のように見えた。しかし、吹き抜けのように高い天井までは四メートルほどあり、車椅子の彼女が一人で実行するのは難しいと思われた。
『馬鹿と嘘の弓』の小川さんと加部谷の探偵コンビの第二弾です。
が、シリーズ化は、まだ決定していないようです。
時間の問題かとは思うのですが。。。
英語タイトルから判るように、今回のテーマは「尊厳死」。
大日向慎太郎は早くに両親を亡くし、子ども時代を姉:沙絵子の庇護のもとに暮らした。
作詞家になったきっかけも、売れっ子になり豪邸に住めるようなったのも、すべて姉の献身的な支え合ってこそ。
六十歳を過ぎた今も、はた目からは、「姉が恋人」と思われるほど、姉を慕っています。
そんな沙絵子に、呼び出された探偵:鷹知佑一郎が、第一発見者となります。
他の家族や二人の家政婦は皆外出しており、畢竟、鷹知が自殺幇助の容疑者の第一候補と見なされることに……。
果たして、沙絵子は、自殺or他殺?
また、自殺であるなら、それは一体どのようになされたのか?
アシストした者がいたのか?
答えは、森作品のいつものやつ。
ふっふっふっ、藪の中でございますよ。
その引導を渡すのに登場するのが、西之園萌絵。
うわっ、久しぶり。
めっちゃ、大人になっとうやん。
今や、西之園先生ですからね。
ちょこっと登場して、さっそうと去っていく。
なんかねぇ、犀川先生か紅子サンかって感じ。
真実というものは、たぶんどこにもないの。そういうものがあると信じて、みんながそれぞれに異なる虚像を追っているだけ
うーん、いつの間にそんなにクールになったの?
そして、感じたのが、加部谷って若かりし頃の萌絵にそっくりやん。
なーんて言うと、加部谷喜ぶやろなー。
萌絵はまた、<好奇心が子供の良い部分ですし、全然悪いことではない>なんて言葉を加部谷に投げて去っていくのですが、若き日の萌絵を知ってる読者からすれば、どの口がゆうとんやですね。
と、この辺りは、読者サービスでしょうか。
他にも、加部谷の親友:雨宮純ちゃんも登場です。
地方の放送局のレポーターだったはずが、安藤順子名でジャーナリストとして独立し上京してきたようです。
たしか、Xシリーズでは、ラジオパーソナリティだったよね。
出版社の記者になりすました小川さんに、取材嫌いなはずの大日向慎太郎からのまさかの取材依頼が来て、面がわれてる小川さんに代わり、純ちゃんと加部谷が大日向邸にインタビューに出向きます。
そこで慎太郎が語るのが、この作品のテーマ:自死についてです。
命というのは個人が自由にできるものなのか、それとも社会的に守らなければならないものなのか
正解なんかないよね。
だから、みんなに問いかけてるんだと思います。
もっとガンガン話し合うべきだって。
前半部分では、<生きることは、死ぬことより本当に「まし」なのか?>と、自問していた小川さんが、エピローグでは、<みんな死へ向かって生きている>と言う加部谷に、<生きることを諦めちゃ駄目>と窘めていて、なんかいいコンビだなと思いました。
思えば二人とも、ちょっと痛い過去持ちだしね。
小川さんが思うように、この二人、ケーキ屋かパン屋を開いた方が幸せだよなとも思わないでもないです。
でも、二人なら、大丈夫。
なような気がするんだな、なぜか。
人間というのは、過去について素晴らしいスピードで忘却する能力を持っているのだ。この能力のおかげで、毎日がまあまあ安穏と過ごせるのではないか
【おまけ】
高い所で死体が発見される森博嗣の作品。
実は、この二作品も、あんまり憶えてないねん。
そして、人間だと証明するかのごとく、毎日まあまあ安穏と過ごしております、ワタクシ。