馬鹿と嘘の弓  森博嗣 | 青子の本棚

青子の本棚

「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

 

 

 

匿名顧客からネットで、ホームレス生活をしている柚原典之という人物を探し出してほしいという依頼を受けた探偵:小川令子は、古書店の前で、その青年を発見した。夜に張り込みを交代した部下:加部谷恵美は、雨宿りしていた建物から追い出された彼に声をかけ、ファミレスに誘った。

 

 

 

 

わぉ、<Gシリーズ>の加部谷乙女のトキメキ登場。

新シリーズの始まりでしょうか?

<Xシリーズ>のラストで、椙田から探偵事務所を譲られた小川さんのもとに就職してたけど、こんな形で再登場するとは思ってもいなかったので、会えて嬉しい音譜です。

私はね。

 

でも、本人にとっては、またまた辛い出来事で……。ガーン

可哀想すぎる、加部谷。

 

 

柚原は、ホームレスの老人:飯山健一から古本を譲られるのですが、ほどなく飯山が亡くなってしまいます。

小川は、飯山の妹:菅野彩子から、亡くなるまでの半年間の行動の調査依頼を受けます。

 

一見、繋がりがないと思われた柚原と飯山は、……。

 

 

と、このあたりは、よくあるストーリィ。

小川さんと加部谷というどちらも良い人系の探偵が、定石通りの……と思いきや、ラストがねぇ、思わぬ展開にびっくりびっくりさせられます。

 

 

例によって例のごとく、とてもとても哲学的デス。

まぁ、そこが森博嗣の森博嗣である所以ではあるのですが。

 

 

柚原は、その生い立ちからか、すごく冷めていて、世界中の人間が、小さなカプセルに入っていて、誰にも会わず、誰とも触れ合うことなく、コンピュータがすべてを処理してくれる、そんな世界こそが虹楽園だと夢見ています。

ベーシックインカムは、その前々々々段階くらいだと考えているのでしょうか。

 

 

ん?

これって、……。

 

『百億の昼と千億の夜』を連想させられます。

ペラペラのカード一枚になった人間。

 

『迷宮百年の睡魔』のメグツシュカによって管理される「脳」にも共通していますね。

もっというと、実態を捨ててデータだけになってしまった人間ってのも、森作品の中、登場してたような気がします。

なかったかなぁ。

 

 

対する加部谷の求めるものは、クローバー「小さな幸せ」。

ちょっとお洒落なレストランで、美味しいお酒シャンパンとお食事ステーキを頂くとか、ごくごくフツーのこと。

そーゆーの、コロナ禍だからこそ、わかるなぁ。

 

あっ、でもデータになっちゃえば、コロナなんかまったく気にする必要もなくなるんか。ガーン

 

 

<仕事というのは、誰かから金を巻き上げる行為ですから、できればしたくありませんでした>という柚原のことばに、ちょっと震えました。

ベストセラー作家札束だけに、本を書くことも、そんな風に感じられるのかなと思うと、ドキッとしますよね。

 

おいでいやいや、これ、あくまで小説だから。目あせる

 

 

柚原は好青年に見えただけに、ラストの行動は衝撃的でした。

実際、決して悪人ではないもの。

短期でも働いてお給料をもらったことから、これから「小さな幸せ」も見つけることできるのかなーと思いながらも、なんだか不穏なナイフ雰囲気が漂ってもいたので、どーなるんやろとドキドキしながら読み進めていただけに。。。叫び

 

加部谷と一緒に裏切られた感じと、このまま平和に終わるならそれはそれで面白みがないなという気もして。。。

読者とは、わがままなものでございます。ドクロ

 

 

 

この二人の探偵、シリーズ化して欲しいです。うずまきキャンディ

28歳、成長著しい加部谷恵美。

この先も、めっちゃ気になるもん。ラブラブ

 

 

 

 

本

自分がどうして泣いているのか、わからなかった。

ただ、人間って悲しいものだな、くらいの茫洋としたイメージだけがあった。

その悲しみが、一部の人間を包んで、一生そこから抜け出すことはできないのだ。

それが、悲しい。

悲しいから、悲しい。理由なんてないのかもしれない。

そもそも、悲しい存在なのだ。

悲しくないように、錯覚し、誤解し、誤魔化して生きているだけなのだ。

深呼吸して、空を見上げた。これ以上、涙が溢れないように。

 

 

 

 

【おまけ】

あっ、忘れてたけど、タイトルの英訳「Fool lie Bow」は、「風来坊」でもあるのです。

相変わらず、タイトルで遊んでますね。