恋するジュエリ スターが愛した宝石たち  岩田裕子 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

岩田 裕子
恋するジュエリ―スターが愛した宝石たち

『ティファニーで朝食を』、『百万長者と結婚する方法』、『裏窓』、『シェルブールの雨傘』、『マイ・フェア・レディ』、『王様と私』、『風と共に去りぬ』、『さらば、わが愛 / 覇王別姫』、『ルートヴィヒ 神々の黄昏』、『2046』・・・。
超有名な映画と主演女優にまつわる宝石のお話。
もちろん、素敵な宝石の写真も満載。
1冊で2度オイシイ本。

登場するのは、オードリィ・ヘップバーン、マレーネ・ディートリッヒ、マリリン・モンロー、カトリーヌ・ドヌーブ、グレース・ケリー、ビビアン・リー、メリル・ストリープ、レスリー・チャンから美輪明宏や若尾文子まで、いずれ劣らぬゴージャスなスターばかりです。

映画のストーリィを紹介しながら、ヒロインと宝石との絶妙なマッチングがピックアップされていて、夢見ごこちの読書タイムを過せました。
とっても素敵なチョイスで、観た映画はまた観たくなり、観てない映画は観たくなる、ジュエリよりも映画が気になる本でした。


子どもの時にTVで観た『大盗賊』(ジャン・ポール・ベルモンド / クラウディア・カルディナーレ主演)が取り上げられていたのがとても嬉しかったです。
盗賊・カルトゥーシュ(ベルモンド)が、恋人・ベニス(カルディナーレ)の亡骸を宝石で飾って馬車ごと湖へと沈めるロマンチックで悲しいラストシーンがお気に入りだったのに、すっかり忘れてしまっていました。
まるで、大掃除していて偶然子ども時代の宝物を見つけたような気分になりました。


『2046』は観てませんが、大好きな『恋する惑星』と表裏のようになっていると聞いて、観とけばよかったと反省。
そして、『2046』の前段という『欲望の翼』、『花様年華』も、今すごーく観たい映画です。
この頃の香港映画って、昔の日活無国籍?映画みたいでなんだか不思議な趣があります。

これらの映画に登場する共通の宝石が真珠のイヤリング。
『欲望の翼』では、遊び人のレスリー・チャンが母親の形見のイヤリングで恋人の気を引き、『花様年華』では、夫に浮気をされた人妻の耳元でゆれます。
明朝末期の学者が書いた技術書に「中秋の名月の夜、月が中天にかかると、真珠貝は海面に浮かびあがって、貝殻を開く。そこに、月の光が差しこんで、真珠ができる」と書かれているそうですが、しっとりした美しいイメージがせつない恋物語に、これほど似合う宝石はないでしょう。
実際の真珠は、貝に紛れ込んだ異物から自らを守るため、分泌物で幾重にも包み込み作られたもの。
それはまるで、ある日芽ばえた痛みに、せつない涙でコーティングして出来上がった恋を具象化したようにも思えて、映画の小道具としてぴったりはまっています。


それから、日本映画『ぼんち』(監督:市川昆)の紹介が気になりました。
船場のぼんぼん・喜久治(市川雷蔵)とその嫁(中村玉緒)と4人のお妾さん(越路吹雪、京マチ子、若尾文子)に姑(山田五十鈴)なんていう超豪華なキャスティング。
指輪芸者と呼ばれる若尾文子が、両手の指全部にもらった指輪をはめてみせてくれるそうです。
こちらは、山崎豊子原作とのことで、本にチャレンジしてみたいです。

本つながりでいうと、谷崎潤一郎原作の『瘋癲老人日記』で舅を誘惑する若尾文子がモンローのようで素敵だとか。
私にとっては若尾文子は、上品な奥様のイメージだったので、芸者や元踊り子の色っぽい息子の嫁役なんて、ちょっとびっくりしました。
興味津々で見てみたいです。
そして、江戸川乱歩原作の『黒蜥蜴』(監督:深作欣二 主演:美輪明宏)が、三島由紀夫が戯曲化した意図が、忠実に映画化されているとか。
こちらも、妖しげでちょっと気になります。


映画の話ばかり書いてしまいましたが、もちろん、宝石の写真もたくさん掲載されています。
ただ、映画で使われた宝石ではなく、そのイメージを共有するまったく別のものなので、私は自然と映画メインのエッセイのほうに目がいってしまいました。

それぞれのページを彩る宝石はどれもこれもゴージャスで、目の保養になりますが、私が一番心惹かれたのは、イギリス製のアンティーク・ブレスレットです。
表紙の右下をも飾っているそれは、透かし彫りの入ったゴールドの板をつないで作られていて、なんと折りたたむと本の形になるのです。
板一枚一枚にはS・O・U・V・E・N・I・Rと一文字づつが描かれていて、背表紙には、ターコイズが上・中・下に3列に並び、なんとも素敵なミニブックに変身するのです。
博物館にでも、飾れそうな細工物です。
こんなブレスレット、きっとどこかの読書好きの大金持ちが、趣味で作らせたんでしょうね。
開いたり閉じたりして、出来栄えにニヤニヤしている光景が目に浮かびます。
いったいどんな恋物語が秘められているのでしょう。
そちらの方も気になります。