シンガポールのナーザン大統領は去る4月19日に、リー・シェンロン首相の助言に基づいて議会(一院制、任期5年)を解散し総選挙の実施を宣言しました。
投票日は来る5月7日(土)です。
シンガポール国独立(1965年)後としては11回目の総選挙であり、2004年に首相に就任したリー・シェンロン首相、且PAP(Peoples Action Party=邦訳「人民行動党」)党首にとっては2006年に続く2回目の総選挙となります。
因みに、シンガポール国の歴代首相は、
①「建国の父」、リー・クアンユー現MM(Minister Mentor=邦訳「顧問相」)が1990年11月まで。
②「驚異の長身」、ゴー・チョク・トン現SM(Senior Minister=邦訳「上級相」)が1990年11月~2004年8月。
③その後が現在のリー・シェンロン氏(リー・クアンユー氏の長男です)と、
過去46年以上の間で3人です。
そして、そのいずれもがPAP(人民行動党)であることでおわかりのように、シンガポール国の政治は、PAPの一党支配のもとで行われてきました。
尤も、「一党支配」とか「独裁」とかいった(日本のメディアが好んで使いそうな)日本語表現を使いますと、シンガポール国民の政治参画がいかにも制限されているかのように響きますが、少なくとも選挙における「投票」という国民行為においては、日本などとは全く比較にならない市民参画制度(といいますか「民度の違い」)になっています。
21歳以上のシンガポール国民は皆、所謂「選挙権」を有するのですが、これは、単なる「権利」というものではなく、「義務」となっています。
http://www.elections.gov.sg/voters_compulsory.html
上記をお読みになればお分かりの通りシンガポールにおきましては、成人である「市民」は国民としての責務の一部として、
「選挙権の行使=投票行為」は義務化*されています。
*(病気等の)正当な理由なくして投票行為を行わなかった場合は選挙権者名簿からの抹消(戻す場合でも罰金)、最悪は選挙権・被選挙権自体が剥奪される事にもなります。
従って、(と言いますか投票義務というのは社会通念として確立していますので、)選挙日には、ほぼ全ての有権者が投票所に向かいます。
過去の投票率推移は、
2006年94%、2001年95%、1997年96%、1991年95%、1988年95% ・・・と、投票に行ける人のほぼ100%です。
(余談ですが、近隣国でいうとオーストラリア(選挙権は18歳以上)も同様に選挙投票義務化されており、投票率は同じくほぼ100%です。)
さて、こういったほぼ100%の国民審判の下で、与党PAPは過去ほぼ全ての国会議席を獲得してきています。
2006年及び2001年選挙では82/84(96%)
1997年選挙では81/83(98%)
1991年選挙では77/81(95%)
1988年選挙では80/81(99%)
1984年選挙では77/79(97%)
1968年選挙から1980年選挙までの間は各回の国会議席数の全数(100%)。
これだけをみますと、シンガポール有権者のほぼ全てがPAPを支持してきたかのようにみえますが、PAPとしての得票率推移は、以下の通りでして、最近では有権者の3分の2といったところです。
2006年66.6%
2001年75.3%
1997年65%
1991年61%
1988年63%
1984年64.8%
1968年から1980年までは70.4%~86.7%。
http://www.singapore-elections.com/
このような結果になる理由は単純でして、それは(ゲリマンダー的)選挙区割と、議員定数の獲得方法にあります。
例えば、前回2006年総選挙の選挙区割におきましては、
1)定数1名の「小選挙区」(SMC=Single Member Constituency)が9区(総数9議席)、
2)定数5~6名の「集団選挙区」(GRC=Group Representation Constituencies)が14区(総数75議席)
からなっており、お分かりのとおり、鍵は「集団選挙区」(GRC)が握ります。
集団選挙区というのは所謂「中選挙区制」の一種ですが、各政党は党として
・その選挙区定数一杯の候補者をチームとして立てる必要があり、
・そのチームは華人・マレー・インド系といった人種毎のバランスを取れたものにする
必要があります。
集団選挙区の有権者は、その政党チームに投票し(無所属での立候補はありません)、極めつけは、
得票数の高かった政党がその選挙区の「定数全議席を総取りする」という仕組みになっていることです。
元々、組織力・資金力に乏しい(因みに立候補の為の選挙預託金は今回16千Sドルで没収点得票率は1/8です)野党にとっては、定数一杯の候補者を党として揃えること自体が難しく、前回2006年選挙においては7つの集団選挙区(総数37議席)で、野党側チームの立候補なし=PAPチームの無投票当選となっています。
(2001年選挙においては、なんと55議席で、PAPは無投票当選を決めています)
さて、今回2011年総選挙の有権者総数は前回比7%増の234万人余。うち21~34歳が25%強を占め、初めて投票する有権者は20万人。
国内経済は絶好調で、与党PAP(人民行動党)の圧倒的優位は揺るがない中での総選挙ではありますが、もしかしたら何がしかの「異変」が起こるかもしれません。
と、言いますのも
今回の選挙区割は、
(1)定数1名のSMCが3つ増えて12区(総数12議席)
(2)定数4~6名のGRCが15区(総数75議席)
の計27区となっている(議員定数は現行より3名増えて87名)のですが、
従来は上述のように集団選挙区の全てには候補者擁立すらできなかった野党側(今回は全部で6党)が、
今回初めて全集団選挙区にて候補者を擁立し、少なくとPAPとContestを競う形にはなっているからです。
尤も、リー・クアンユー顧問相がPAPのチームメンバーとして立候補したタンジョン・パガー集団選挙区(定数5名)では、シンガポール民主同盟(SDA)のチームが立候補を予定していたものの、公示日4月27日の立候補受け付け時間を35秒過ぎて申請したため選管に受理されず、PAPチームの無投票当選が決まるというハプニングがありました。
この結果、実際には全87議席中、82議席を争う投票が5月7日に行われることになります。
当地の経済は好調ですが、それに伴い所得格差もより顕在化している中で、諸物価は上がり続けています。
特に不動産価格高騰でHDBと呼ばれる「公団」住宅価格までが庶民の手から遠ざかりつつあるのは問題になっています。
加えて外国人労働者流入に伴うシンガポール国民の「就職難」懸念や、更にはその人口増による公共交通混雑に対する不満もあります。
又、フェースブックやツイッター等のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使った選挙活動も認められており、投票行動への影響が関心を呼んでいます。
今回の総選挙では、若い世代の意識変化等も理由に野党側にある程度の票が集まることが予想されていますが、野党側主張の多くは、致し方ないとはいえ、突き詰めると極端な「保護主義」に陥りかねない為、私のような「外人」にしてみますと、ちょっと「居心地が悪く」感じられるとともに、シンガポールの将来に「一抹の不安」を覚えるところです。


