シンガポール通信 -18ページ目

シンガポール通信

Uniquely Singapore
with Global View

○公用語(Official Language


ちょっと古い話しですが、2006年3月にブリュッセルで行われたEU(欧州連合)の首脳会議の席上、当時のフランスのシラク大統領が憤然と退席したという事件がありました。

報道によりますと、

この会議では各国の経済ナショナリズムが問題となっていたが、シラク氏の退席は、同席したフランスの経済界の代表が「ボルテールの言葉でなくシェークスピアの言葉」を使ってスピーチをしたことに対しての反発であったという。
シラク氏はフランス経済界を代表するセリエール氏に、どうして英語を使うのかとスピーチを遮って問いただしたというが、同氏の答えは「私は英語で話す。それがビジネスの言語だからだ。」というものであった。シラク氏に同調して財務相や外相も席を立ったとのことだが、シラク氏はフランスがいかに自国の言語を大切にし、旧フランス語圏を中心にサミットを開いたりして国家をあげてその普及に努力しているにもかかわらず、またEUや国連やオリンピックでも公用語として使用されているのに、どうしてなのかと深いショックを受けたとのことである。

(「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」0632526日号)

シラク氏自身は米国留学(ハーバード大)の経験もあり英語は流暢に話します。しかし、フランス語が公用語として認められているEU会議での公式発言で英語とは何事か、というわけなのでしょう。

いかにもシラク氏らしい話しで、まあ気持ちは判らなくもありませんが、逆に言うと英語もEUの公用言語の1つなのですから、少なくともセリエール氏は会議のルールを侵しているわけではありません

意見は分かれるところでしょう。

とはいえ国際会議における公用語問題を考えるに当たり興味深いエピソードかと思います。

余り知られていないようですが、EUは国際組織体としては極めて珍しく「多言語主義」をとっており、現在の加盟27カ国における重複言語を除く主要言語の全23言語がEUの公用語(Official Language)として採用されています。

参照「Wikipedia欧州連合の言語

元々1951年に設立された「欧州石炭鉄鋼共同体」を起源に持つEU(欧州連合)ですが、設立当初はフランス、イタリア、西ドイツにベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ)の6カ国でした。それがその後の拡大の結果、現在は27カ国にもなっています。

(今世紀だけでも、2004年にチェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、スロベニアの東欧5カ国にエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国、加えキプロス、マルタの計10カ国が加わり、2007年にはルーマニア、ブルガリアの2カ国が加わりました。)


加盟国の主要言語の全てをEUの公用語に採用するという事は、EUでの法令や重要な公文書は全てこの23公用語で作成されるという事を意味し、この結果、容易に想像できるかと思いますが、EUにおける翻訳(単純翻訳に加え相互間での内容検証作業等)の事務コストは級数的に膨らんでいます

少なくとも、事務の効率性という観点からは甚だ非効率のようです。


(現状に加え仮に1963年来加盟申請を続けているトルコが加わると又翻訳作業がふくらみますねえ。トルコの加盟が却下され続けられている理由にトルコ語の翻訳が面倒くさいとかいうのがあったりして・・・)


■一口メモ

先にふれましたように、国際組織において加盟国全ての言語を公用語に採用するのは珍しいケースです。

国連(UN)の公用語は英語、フランス語、中国語、ロシア語、スペイン語(以上1946年第1回総会で採択)とアラビア語(1973年採択)の6ヶ国語のみです。 

オリンピック委員会(IOC)の公用語はフランス語英語2ヶ国語のみです。

参考:Wikipedia国際機関の公用語の一覧

さて、シラク氏とEU会議での英語騒ぎに触れたのは、ここに提起される問題が日本とアジアにとっても大きな問題になるだろうと思えるからです。


○ASEANの公用語

ASEANの会議公用語は英語です。

前回ご紹介した「ASEAN憲章」の第34条「WORKING LANGUAGE OF ASEAN」でも“The working language of ASEAN shall be Englishと規定されています。

http://www.aseansec.org/publications/ASEAN-Charter.pdf

TVを観ていてもよくわかるように、ASEANの首脳たちは実に上手く英語をこなしますので公用語が英語である事に何の不都合も無いようです。

一方、(これもTVを観ていてよくわかるように)日本や・中国、韓国の首脳はそれほど英語が得意ではないようです。



一般に、会議参加者の母語が異なる「国際」会議になる際には、まず会議の最初に決める事は会議言語です。これが会議のルール1となり又、決定的に重要なものになります

東アジアの新しい枠組みについては中国主導なのか日本主導なのか、はたまたxx等々いろいろな動きがあるようですが、いずれにせよ現在アジアで唯一共同体の枠組みとして確立しているASEANを土台にした「ASEAN+α」の構想が多いようです。

今後仮に新たな枠組みが公式に出来上がる際には、その枠組みでの「公用語」が決められるわけですが、果たしてそれが何になるのか興味深いものがあります。

14億人の言語・中国語の存在を考えるとやはり「英語」及び「中国語」なんていうのがありがちなのでしょうか?で、「日本語」は?


鳩山首相の標榜する「東アジア共同体」について、日本のメディアは「その枠組み・内容」についての質問ばかりで、その度に、「時期尚早」と毎度確答を得られないでいるのですが、質問の切り口を変えて「東アジア共同体の公用語は何を想定されていますか?」とでも聞いてみてはいかがでしょうか。

リアリティーが出てきます。

と共に、内・外に対する日本の言語政策が問われます。




































多国間共同体の先頭を行くEU(欧州連合)においては、121日にリスボン条約が発効する予定になっています。

同条約の正式名称は欧州連合条約および欧州共同体設立条約を修正する条約となっており、既存の欧州連合基本条約を修正する条約ですので改革条約」とも呼ばれます。



200410月に当時のEU全加盟国代表により署名はされたものの、2005年に一部の加盟国(フランスやオランダの国民投票)で批准が拒否され、発効が断念された「欧州憲法条約」(に大幅な変更を加えた)代替的(且、当面の対処療法的)性格のものです。


当該条約発効を前に、先般1119日欧州理事会(EU首脳会議)は当該条約で新設される欧州理事会(常任)議長  Herman Van Rompuy現ベルギー首相を選出すると共に、同じく新設される欧州連合外交・安全保障政策上級代表  Catherine Ashton現(英国からの)欧州委員会委員(通商担当)を選出しました。


一部メディアで欧州理事会(常任)議長職を「EU大統領」と、あたかもPresident of the European Unionかのような定義不十分の名称を使うところがありますが、Van Rompuy氏のポストはPresident of the European Council ですので、邦訳は欧州理事会議長が妥当と思います。

この議長職は「European Union=欧州連合」総体の話ではなく、「European Council=欧州理事会」の(常任)「議長」の話であって、更に又「Presidency」の内容の考察も無く、「プレジデント」即ち(和製漢語である)「大統領」という名称を使うのは二重の意味で間違いのように思います。



さて、European Council(欧州理事会)は欧州連合の首脳会議のことで「EU首脳会議」の通称で呼ばれています。全加盟国(現在27カ国)の首脳と欧州委員会委員長1人の合計28人で構成され通常は年4回開催されます。



欧州連合の最高意思決定機関であるものの欧州連合基本条約上の正式な欧州連合機関ではなかったのですが、今回のリスボン条約の発効をもって正式な欧州連合の機関になります。


従来、欧州理事会の議長は6ヵ月毎の輪番制である欧州連合理事会議長国の首脳が行っており理事会議長は「President-in-Office」(当期の議長)と呼ばれていたようですが、今般、任期2年半(1回の再選有り)の

初代「常任」議長が生まれたという事です。


確かに理事会議長が半年毎に変わり、議案テーマも議長国の色で半年毎に変わり得る従来の状況からすると、今回の常任議長の誕生というのは、EUにとって大きな前進のような気がします。


今回の人選に当たってはブレア前英国首相を推す英国と仏、独との間の駆け引きがあったようですが、欧州連合の本部はブリュッセルにありますし、理事会開催地自体も以前は議長国で開催される慣例があったものの、2004年以降は原則としてブリュッセルで開催されてきたことを思うと、自然な人選のような気もします。


尤も新設の理事会常任議長は現職の首脳であってはならないためRompuy氏はベルギー首相を辞任する事になります。国と共同体との関係を考える上で少なくともベルギーの人にとっては結構大きな話のような気がします。


Herman Van Rompuy氏、Catherine Ashton 両氏共にその役割・権限につき未だ不明確なところもありますが、いずれにせよ内外双方に対する「EUの顔」となったことは確かです。

特にVan Rompuyは俳句が趣味とのことですから今後日本のメディアへも露出が増えるでしょう。

お名前は覚えておいたほうがよさそうです。

(とはいえ、Rompuyさんは、どう発音するのでしょうか?ロンパイ?ロンブイ?)




 ASEAN憲章(ASEAN Charter)


さて、共同体の枠組み及び発展段階としてはEUに未だ遠く及ばないASEANですが、20081215を以ってASEAN憲章が発効しており、ASEANは国際法上の法人格を持つ「多国間組織」に進化している、ということを前回お伝えしました。


ASEAN憲章は、前文、全13章・55条から構成されており、ASEANの目的・原則や組織構造、意思決定方法、紛争解決方法、対外関係等を規定しており、ASEANの基本法ともいうべきものです。

憲章の前文(及び第36条)で述べられているように、ASEANは”One Vision, One Identity and One Caring and Sharing Community”(1つのビジョン・1つのアイデンティティ・1つの思いやりのある共有の共同体)の下に結束することとされています。(このCaringは「友愛」の事なのでしょうか???)

http://www.aseansec.org/21861.htm (全てプリントアウトしても39ページほどですので結構簡単に読めます)


1967年の結成以来、加盟国を拡大させ、政治・経済・社会分野で域内の協力を深めてきたASEANですが、加盟国間の対立や拘束力のある合意を敬遠する「緩やかな連合体」にとどまっていたのが従来の姿でした。

(ASEANは、もともとは外相会議からスタートしており第1回の首脳会議が開かれたのは19762月(バリ島)で「ASEAN協和宣言」がなされた時です。又、首脳会議が毎年開かれるようになったのは1995年以降の話しです)



・そういった中、200310月の第9回首脳会議(バリ島)で採択された「第二ASEAN協和宣言」で

 ASEAN「政治安全保障(Political-Security)共同体

 ASEAN「経済(Economic)共同体

 ASEAN「社会・文化(Socio-Cultural)共同体

3つの柱からなる「ASEAN共同体」(ASEAN Community)設立が目標として示されました。(目標年度は2020


・更に20071月の第12回首脳会議(セブ島)で、

 ASEAN共同体創設目標年を5年前倒し2015とする。

 ASEAN憲章を起草する。

という決定がなされ、


200711月の第13回首脳会議(シンガポール)でASEAN憲章が調印され、20081215日に同憲章が発効したことにより、2015年の「ASEAN共同体」設立に向けての具体的な施策が加速化してきています。


憲章の発効によりASEANの最高意思決定機関であるASEAN SUMMIT(ASEAN首脳会議)は年2回開催されることになりました。

一年輪番制(アルファベット順)の議長国首脳が議長を務めます。

今年はタイでしたので、来年2010年はベトナムになります。http://www.aseansec.org/21888.htm















共同体構想



鳩山新政権になり「東アジア共同体」構想が、再び旬の話題になってきた感があります。



(民主党のManifestoに「東アジア共同体の構築をめざし、アジア外交を強化する」とありますし民主党、社民党、国民新党の「3党連立政権合意書」(200999日)にも、「東アジア共同体(仮称)の構築をめざす」と謳ってありますので、そりゃまあ当然かもしれません。)




尤も、「東アジア共同体」構想自体は以前よりいろんな国が独自の論理で「勝手に」ぶちあげていましたので特に目新しいものではありません。

とはいえ、その「共同体」なるものが一体「どういう枠組みを指し」それが「どういう状態になること」を想定しているのかは殆ど定まっていません。

(関税同盟的なものなのか、ASEANの拡大版なのか、現在の欧州連合的なものなのか、あるいはその前身の欧州経済共同体的なものなのか、はたまた合衆国的なものなのか・・・)




近年では日本・中国・韓国の3カ国は1997(アジア通貨危機がきっかけです)12以来毎年ASEAN首脳会議の開催地に集い「ASEAN+3」の枠組みを構築しましたので「ASEAN+3」の枠組みでの「東アジア共同体」構想議論の素地自体はあったようです。

事が複雑になってきたのは2005の第9回「ASEAN+3」首脳会議で採択されたクアラルンプール宣言において、「ASEAN+3」を「東アジア共同体達成をするための主要な手段」と明記したのに対して、

同じくクアラルンプールで2日後に開催された「第1回東アジアサミット」で、東アジアサミットを「共同体の形成に重要な役割を果たしうる」と位置づけたあたりでしょうか。




「東アジアサミット」(EAS首脳会議)の参加国はASEAN加盟国と日・中・韓に豪州・ニュージーランド及びインド(=「ASEAN+3+2+1」)。加えロシアがゲスト参加となっています。

そもそも地理的区分としての「アジア」についてさえ合意された明確な区分というのは無いらしいのですが、この顔ぶれを見ますと「東アジア」と言って想起される、少なくとも学校で習った「アジア」の「東」の地理的区分とはかけ離れますので頭が混乱します。

将来学校で習う世界地図上のアジアは変わっているのでしょうか・・・。




今年10月にタイのホアヒンで4回目の「東アジアサミット」が開かれましたが、ASEAN各国は中国、日本の主導権争いや豪州の「米・露を含むアジア・太平洋共同体」構想提案といった域外国の論理に振り回される形となったのは否めませんでした。



そもそも「東アジアサミット」の原型は、199012月に当時のマレーシア・マハティール首相によって提唱された「APEC(*注)参加国で、地理的に近い国同士がより緊密な経済圏を構築する為の東アジア経済グループ(EAEG)」に端を発するようです。(Wikipedia東アジアサミット


2005年以降「東アジアサミット」自体は今年10月で4回目になるわけですが、サミット参加国の思惑自体が固まっておらず、又米国の意向にも大きく影響されるでしょうから、鳩山首相の標榜する「東アジア共同体」構想は到底一筋縄ではいかないようです。



ただ、内向き思考がちな日本国に、国を超えた多国間の約束事となる共同体概念を、単に各自勝手に思い浮かべる桃源郷的発想とは違う切り口で投じることで、国民議論が盛り上がるのであればその事自体は、それなりの意味があるような気がします。




(*注)APECとは Asia-Pacific Economic Cooperationの略で「アジア太平洋経済協力」と訳されます。

1989に豪州の提唱で日・米・加・韓・ニュージーランドにASEAN(当時6カ国)の計12カ国で設立された環太平洋地域における多国間経済協力を進めるための地域フォーラムです。

メンバーを法的に拘束しないと言う意味で、あくまでも「非公式なフォーラム」です。

91年に中国、台湾、香港が参加し、中南米からはメキシコ(93年)チリ(94年)ペルー(98年)が参加。ロシアも98年に加わり現在のメンバーは21。


首脳会議と外相、経済担当相による閣僚会議がそれぞれ年1回開かれ、加え実務者会議やらサブフォーラムやら結構多くの「xx会議」が年中開催されます。

(まあこの種の会議費用は要は各国の税金で賄われているのですが、少なくとも開催国は外人訪問数が増え、ホテル稼働率も上がるのでそれなりの経済効果はあるのでしょうか。道路規制の交通渋滞はかないませんが・・・)


シンガポールに常設事務局があり会議開催国から任期1年で事務局長が選任されています。

20周年目の今年2009年の開催国(議長国)は当地シンガポールでして111415日には首脳会議がありました。

因みに来年2010年は日本(横浜)が95年の大阪以来15年ぶりの開催国(議長国)になります。







ASEAN(Association of SouthEast Asian Nations東南アジア諸国連合)



さて、アジア地域での「共同体」構想の中で唯一明確な枠組みを持っているのはASEANです。

設立は古く19678に遡ります。

そもそもは反共産主義の地域協力同盟的なものとしてタイマレーシアシンガポールインドネシアフィリピン5ヶ国(ASEAN5)にてバンコクで結成されました。


67年の設立以来ASEAN加盟国の範囲は84年に当時イギリスから独立して間もないブルネイが加わったのみで大きな変化はありませんでしたが、冷戦終了後の1990年代後半になり、95年にベトナム97年にミャンマーラオス、そして99年にカンボジアが加わったことにより全インドシナ半島を含む現在の「ASEAN10体制」になっています。

尚、本部はインドネシアのジャカルタにあります。http://www.aseansec.org/






ASEAN憲章(ASEAN Charter)



(何故かあまり知られていないようなのですが、)昨年20081215に、ASEANの最高法規となるASEAN憲章が発効しています。http://www.aseansec.org/21861.htm

設立40年を経て起草されたASEAN憲章の発効をもってASEAN国際法上の法人格を持つ「多国間組織」に進化しており、2015の「ASEAN共同体」構築に向け組織的枠組みとしては既に新たな段階に入っています。