前回の続きです。
前回こそは今般のシンガポール政府景気対策の目玉の一つである「Jobs Credit Scheme」についてもっとお話したかったのですが、話が政策執行上の社会インフラとしての情報管理処理能力の方にいってしまい、当地社会保障制度であるCPF(中央積立基金)Boardの情報管理処理能力の高さの話になってしまいました。
(因みに、シンガポール行政レベルの所謂IT化は世界最先端かもしれません。もしかしたらこういうところがこの国の強さの鍵かも?興味ある方はhttp://www.igov.gov.sg/ご参照。)
ついでですので、このCPF制度について概要をかいつまんでお話いたします。
まず第一に、この制度は、日本(や他の先進国の多く)のような公的社会「保険」制度ではありません。
Central Provident Fund(CPF)は中央積立基金と訳されますが、制度としては「強制貯蓄制度」と訳すと性格がわかりやすくなります。
シンガポールでは、原則すべての国民が給料の20%(給料額・年齢によって差はあります)を国の管理下にあるCPFの個々人の口座に積み立てることが義務づけられています。
加えて、会社勤務の場合は雇用主が各従業員給与の(現在ですと)14.5%を各従業員のCPF口座に支払うことが義務づけられていますので、一般の給与所得者の場合、毎月自分の給与額面に対し34.5%が自分自身のCPF口座に積み立てられていくことになります。
尚、これは罰則規定を伴う義務ですので、日本のような徴収漏れなどはありません。
(因みに、雇用主側からみた従業員の社会保障負担(現行14.5%)という観点では、日本の雇用主側社会保険負担が現在13%程度ですので、まあ似たり寄ったりというところでしょうか。)
この制度は、老後に備えて貯金するという発想のもとでシンガポール国独立(1965年)前の1955年に始まりました(HDBという名の住宅供給制度と共に、建国の父リー・クアンユーが導入した卓見した偉業の一つかと思います)。
現在では、主に年金・医療費・教育費・住宅購入費などの国が認める用途に限って引出しができるしくみになっています。尚、残高に対して国が最低利回り保証をしており現在は年率2.5%が最低でも付利されます。勿論無税です.
このしくみの「保険」制度との決定的な違いは、基本的に個人ごとに貯めて、また個人ごとに使うという点です。
貯金だと考えるとあたりまえと思われるかもしれませんが、日本を含めた「保険」方式を採用している国では、皆から集めた社会「保険料」で、その時々にその時々の老齢者に年金を払い、病気の人に医療費を補助しており、加入者全体のリスクを持ち合うしくみをとっているのはご案内の通りです。従い、「相互扶助」という美名の大儀はいいのですが、例えば医療費については、利用者側のコスト意識が働きにくく、過剰または非効率に利用されるモラル・ハザードの問題に出くわします。
(一方、自分の口座で賄われる場合は、利用抑制や、あるいは同じ治療を受けるのにより安い病院を探そうという効率性が図られやすくなるものの、社会的弱者には酷な制度の為、別の制度上の救済策で対応されます。とはいえシンガポールの政策の特徴は、常に「動機付け」が重視され、自助努力ありきから始まりますので、なんでもかんでも100%丸抱えといった措置がいきなり出てくることは普通ないようです。通常はこのような場合第一義的には「家族」に扶助義務がいくようですが、冷静に考えてみると当然といえば当然のような気がします。意外と「家族」問題というのは古くて新しい、けどとても重要なものかもしれません。)
加えて、社会「保険」制度の場合、制度の前提としての人口動態がその制度の持続可能性を左右しますので、日本のような少子高齢化が世界最速で進んでいながら、有効な対策が未だに打ち出せない国においては、社会「保険」制度自体について「不安」とか「不信」というよりも、今や社会保険というよりも実体は「講」のようなものと受け取られているかのようで「しらけている」感すらあります。
尤も、この社会保険制度に対する「不安」「不信」そして「しらけ」を決定的にしたのが、社会保険庁の5000万件にのぼる年金記録散逸問題だったでしょう。
一体どうやったらこれだけの数のデータをでたらめにできるのか、逆立ちしても思いつきませんし、報道当初から不思議だったのが、年金記録の全容を捉えていないのだとすれば逆に何故5000万件が散逸件数だと言えるのか素朴な疑問として今も残っています。ところで、この問題は今一体どうなっているのでしょうか?
(どなたかご存知のお方がいれば教えてください)
○ 「不安」「不信」
「不安」の原因は往々にして情報がないので「わからない」という事実に起因することが多いと思います。もっとも「わかって」しまって更に不安になることはあるでしょうが、少なくとも情報開示がないことによる「不信」の醸成は、きちんとした情報を開示することにより防げるはずです。
当地CPFは、個人貯蓄ですので当然ながら個人の残高はCPFのHPhttp://www.cpf.gov.sg/にいけばオンラインでいつでもわかります。
一方日本の社会保険料については、国民皆保険といいながらも払っている人や払っていない人が混在し、又「保険」という性格からして個々人の既支払額残高が(的確に情報管理され開示されていたとしても)一体どういう意味を持つのかも曖昧です。
社会保険料に加え、かねてより疑問なものに生命保険料(普通の人にとっては生涯でする買い物のうち住居に次ぐ高額な買い物が生命保険でしょうか)があります。毎月支払う保険料のうち一体いくらが自分の保険に使われて、一体いくらが保険会社の収入(経費及び利益)として差し引かれているのかのブレークダウンが普通はありません。(最近になって一部良心的?先進的?な保険会社がこの情報開示をやっているようですが、)
一体何故か?又当局も何故こんな重要な情報開示を見過ごしてあげているのか?本当に不思議です。
社会保険料についても「実はxx割は社会保険庁の経費です」と言われたとしても、ありがちな気がしますので注意しておきましょう。
やはり、まずは情報開示からなのでしょうか。
~次回に続きます。