2009年度シンガポール政府予算 ④ | シンガポール通信

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~前回の続きです。
前回は又しても「Jobs Credit Scheme」(雇用対策の目玉の一つです)の話にはいきつかず、当地の社会保障制度(CPF)の話になってしまいました。
今回こそ、「Jobs Credit Scheme」についてのお話です。

2009年度政府予算で初めて導入されましたこの制度につき再度簡単におさらいしますと、
「当地社会保障制度である中央積立基金(CPF)加入の各従業員につきその月給の12%(但し上限は一人当たり月300ドル)を国が雇用主である企業に直接補填するというものです。」

要は、政府が企業に対しシンガポール人従業員雇用コストの一部を肩代わりする事で、企業側の(CPF対象)従業員の解雇や給与減額への誘因を減じる事を狙ったものです。

この制度の特徴として面白いのは、なんといっても
○ 国民に対して直接支払われるのではなく、国民を雇用している企業に対して支払われる
という点でしょうか。

従いまして、企業化していない独立自営業者、例えば個人経営の飲食店や商店、あるいはそうそう、タクシー運転手(シンガポールには現在8つの法人タクシー会社があり24千台強の車両がタクシー登録されていますhttp://www.lta.gov.sg/。東京が55千台程http://www.taxi-tokyo.or.jp/ですので人口比、面積比共に東京より多いです。ただビジネスモデルが日本とは違い、タクシー会社は車両とシステム(このシステムが驚くほど秀逸でして最大手のComfort((上場会社です))は近年そのシステムを引っさげて中国にも進出しています)を提供するもので運転手は雇用しません。運転手はタクシー会社から車を借りて利用料を払って自ら営業する独立自営業者です。)等は、このスキームからは直接的にはメリットは享受できないということになります。

ところが、だからといってこの政策に対して、「独立自営業者側から非難轟々というわけではない」というところがシンガポールの世論形成の面白い(というか物分りがいい?)ところでしょうか。

むしろタクシー運転手や個人経営の飲食店主や商店主等からは、自分たちのビジネスは「利用してくれる人があってはじめて成立する」という極めて全うな理解からして、「利用者減少を食い止める事につながる措置」であれば、(自分たちには直接的便益はなくても)、
それはそういう性格のものとして支持するという意見が大勢のようです。

大人ですなあと感じると同時に、仮にこれが日本で行われた場合、果たして日本のメディアはどのように報道し、又いかなる世論形成がなされるのかしら、とふと思った次第です。

一つはっきり言えることは、当地におきましては、
「<グローバルな競争>の中でも生き残り得る産業(企業)が自国にあって、はじめてシンガポール国は存続・発展が可能であり、雇用の維持・創出も偏にそういった産業(企業)の持続・発展にかかっている。」
という社会了解が揺るぎないものとしてあるということでしょうか。
従って、雇用確保という場合も、「いかにして自国に所在する企業の競争力をグローバルな観点で比較優位なものとして保たせるか」に政策の重点が置かれることになります。
この「Jobs Credit Scheme」に限らず、税制面での措置(現行18%という、既に他国比かなり低いレベルにある法人税率の17%への更なる引き下げ及び過去支払い法人税繰り戻し枠と期間の拡大)にしても、基本発想の出発点はここにあるようです。

対して日本での雇用確保議論におきましては往々にして、単に「企業を叩く」あるいは「企業と従業員とを対立項」として論じるような、(まあ国民感情的には受けはいいのかもしれませんが)あまり建設的とは思えない感情論が先行しがちです。
少なくとも「自国産業・企業の世界市場の中での競争力・比較優位性」という観点が欠落しがちな気がして違和感というよりも、その危機意識の薄弱さに逆に危機感を感じるのは私だけでしょうか・・・・

もっとも、今回の「Jobs Credit Scheme」に対して何の反対意見もなかったのかというと決してそんなことはありません。
反対意見の主たるものは、

① 支援対象企業に、その業種、業容、業績、成長性あるいは外国資本かどうか等々の選別基準がなく、CPF対象従業員を雇用してさえすれば全ての企業が対象になるというやり方に対して、「金をどぶに捨てることにならないのか?」とか、

② 賃金の12%相当の補助といっていながら、上限が月S$300(逆算すると月給S$2,500)では、「中所得者以上にとっては雇用保護にはならず逆に解雇が促進されはしないか?」(例えば月給S$5,000の従業員がいた場合、その人を解雇し、月給S$2,500の2名を雇えば同じS$5,000の給料負担に対しS$300ではなくx2のS$600の補助がもらえる計算になる)とか、

③ CPF対象従業員の雇用コストが支援対象という事は、要はシンガポール人(及び一部永住権者)従業員のみを対象にしており、外国人従業員は対象にならないのでシンガポール人優遇、外国人切捨ての「保護主義とみなされないか?」
等々。

いずれも、それなりに考えさせられる意見かと思います。

① については、そりゃそうかもしれないが、さすがに政府にそこまで企業を選別する能力はないし、やるべきでもない、ということでしょうか。

② については、仮に企業側がそういう判断をするのであれば、それはそれでしょうがない、ということでしょうか。どんな政策にも財源上の制約はあるし、あらゆる階層を救済する政策など、そもそもないということかもしれません。

③ については、国家の役割とは畢竟、「国民の生命と財産を守る事」でしょうから、雇用確保にあたっても守るべき対象は、まずは自「国民」でしかない、と考えるのが自然なのでしょうか。ただ「保護主義」という切り口で語られると、一体どこまでが「普通で」どこからが「おかしい」という話になるのかの線引きが難しいです。というか、国家と国民との契約関係を考えると、果たして「保護主義」に陥らないことなどが、そもそも構造的に可能なのかどうか疑わしい気もします。
ただその場合、「国際貢献」とか「対外援助」とかいうのは一体どういう文脈の中で考えればいいものかと悩むところです。