前回に引き続き、2009年度シンガポール政府予算における景気対策「レジリエンス(回復)パッケージ」(キャッチコピーは“Keeping Jobs, Building for the Future”)についてのお話です。
前回は、雇用確保(=Keeping Jobs)策の中でもユニークなものとして注目されている「Jobs Credit Scheme」についてふれました。
簡単にその内容をおさらいしますと、
「当地社会保障制度である中央積立基金(CPF)加入の各従業員につきその月給の12%(但し上限は一人当たり月300ドル)を国が雇用主である企業に直接補填するというものです。」
要は、政府が企業に対しシンガポール人従業員雇用コストの一部を肩代わりする事で、企業側の(CPF対象)従業員の解雇や給与減額への誘因を減じる事を狙ったものです。
このスキームは、今回初めて導入される仕組みであることと、又その財源が過去の政府準備金の取り崩し対象(これも今回が初めて)となっていることもあって、発表当初より注目され、2月3日から行われた国会審議の場のみならず、新聞、TV等のメディアでも連日いろんな意見がとりかわされ、政府、国民皆が真剣且活発に議論している様には改めて考えさせられると同時にとても興味深いものがありました。
特に国会審議なのですが、与党人民行動党(PAP)が全84議席中82議席を持っている当地議会ですので、どうせ、なあなあの議論かなと思っていたのですが、(ところがどっこい)与野党、識者いろんな人がいろんな角度で意味のある質疑を活発にしていたのは驚きでした。
更に、その質疑に答えるシャンムガラトナム財務相なのですが、これが又どの質問に対しても丁寧 且 的確に答え(それもアンチョコなしに)、又質問内容によって論拠が見出せないものについては「わからない」と正直に答える場面も有り、その合理性というか真摯さも感心ものでした。
まあ、冷静に考えてみますと、こういうのが普通に当たり前の姿なのでしょうが、酩酊する(元)財務相を筆頭に完全に脳死状態のどこぞの国の現状と比較しますと、これがおよそ同じ地球上に存在する同じ国家なのかと、あまりのギャップに気を失いそうです。
よく、シンガポールのことを、その徹底した個人情報管理や言論統制より「明るい北朝鮮」と揶揄される時があるのですが、確かに情報管理については「イエス!それも驚くくらいにイエス!」です。もっとも、「国家による国民の情報管理」という問題は、果たしてそれ自体に問題があるのかどうかはよくよく考える必要があります。
例えば未だにもめている日本での「定額給付金」問題を考えてみます。
そもそも、減税でもなく、税還付でもない「給付金」というものは、減税や税還付では効果が薄い、あるいは(課税所得以下の人にとっては)効果がない、所謂「低所得」層に対する援助的性格のものと思われるのですが、だったら何故「定額」で、且つ又それも何故国民全員一律になのでしょうか?
(ところで、国民といった場合、一体誰を指すのでしょうか?例えば私のような日本国籍を有するものの現在、海外に居住する者の扱いは?で、その根拠は?)
当地シンガポールでも、「給付金」的性格のものはあります。名称を「GST(消費税)クレジット」といい、2007年にGST(消費税)がそれまでの5%から7%に引き上げられた時に、そのインパクトを和らげる目的で導入された制度です。
(日本のように「景気対策」と称していきなりアナウンスされ、同時に近い将来の増税も匂わせるという、政策的にもアナウンス効果としても全く混乱しきった中で出てきたものではなく、未だ好況に沸く07年にあくまでも消費税増税のコンペとして元々導入されたものですので念の為。)
07年~10年までの4年間に渉り毎年給付されるもので金額は一人当たりS$100、S$200、S$250と、各人の収入及び住居環境価値によって明確にアセスされます(勿論、低い人の方が多くを貰う)。で、今回の景気対策では、低中所得者層(年収では夫々S$24,000以下、S$24,000~S$100,000となっています)のS$250、S$200給付層についてのみ、09年度給付金は通常年の倍額のS$500、S$400が給付されることになりました。結果、最も多い人は4年間でS$1,250支給されます。(これに加え、高齢者ボーナス制度というのも07年から同様に導入されており、高齢の低所得だと最高S$2,000になります)
で、ここでお話したいのは、「給付金の是非」の話ではなく、仮にこの手の政策を実行に移すとして、その実行性を左右する国家インフラとしての情報管理処理能力の点です。
冒頭の「Jobs Credit」やこの「GSTクレジット」、いずれも当地社会保障制度であるCPF(中央積立基金)Boardがその管理・実行を担っており、銀行口座情報も含む徹底したデータ管理が成されており給付実行の電子的な処理等はいとも簡単に行われます。
一度CPFのHPwww.cpf.gov.sgを見てみてください。きっと驚かれると思います。
それに比べ、わが国日本の状況はいかがでしょうか。
個々人のアセスメント等は全く無理でしょうし、そもそも「給付金」を「配布する」という実行段階の具体的方法自体が確立されてもおらず、2兆円給付するのに数千億円のコストがかかるとかいう話を聞いていると、「役場」というのは未だに黒船来航前なのかと唖然とするとともに、それでも「定額給付金」が未だに争点になっていること自体がまるで宇宙のように謎であります。
~次回に続きます。