丹波篠山翁神事 | 能役者青木健一のお稽古日記。

能役者青木健一のお稽古日記。

能役者、観世流青木健一(梅若研能会所属)の日々の活動や能に対する想いを記すお稽古日記。

父一郎からの教え、芸大在学時の先生方からの芸談等を更新。

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丹波篠山にある春日神社の能舞台で毎年元日0:15から奉納されるのが、梅若万三郎先生による翁です。


翁とは能にして能あらずと呼ばれる曲で、物語性よりも五穀豊穣や天下太平に対する祈りが全面に描かれる儀式的な曲です。


元日に、梅若の原点である丹波で、一年の平和を祈る舞台に地謡として立たせて頂ける…これほど意義深いお正月があるでしょうか?


そんななか翁の主役を舞われる万三郎先生から地謡の人に1つご指導が。それは…

「引いて謡うように」と。

わかりやすく数値で例えると、謡の声量が10、気力10としましょう。引いて謡とは気力の数値をそのままに声量を7とか6で謡うといった感じです(実際にはもっと複雑なんですが)


なんで?と思われる方もいらっしゃると思います。ですが、後日その事について先生がおっしゃった言葉にハッとしました。それは…

「昨年は震災や台風など非常に悲しい出来事が多かった一年でした。その犠牲になられた方々の事を思いながら丹波の翁を勤めさせて頂きました。」と。


普段あまりこういう事をおっしゃらないのですが、真意を伺い能の持つ鎮魂という意味合いを改めて認識しました。


ある方が「正月」の「正」は「一」と「止」で出来ている。一度止まって振り返り、年を改める月が正月なのだとおっしゃっていました。


去年は本当に忘れられない、忘れちゃいけない年になってしまいましたが、今年が皆様にとって良い年でありますよう願ってやみません。


というわけで、今年も宜しくお願いします�

青木健一拝


↓丹波春日神社境内にある翁像です。