「記念だから」 | 能役者青木健一のお稽古日記。

能役者青木健一のお稽古日記。

能役者、観世流青木健一(梅若研能会所属)の日々の活動や能に対する想いを記すお稽古日記。

父一郎からの教え、芸大在学時の先生方からの芸談等を更新。

昨日は一噌流笛方藤田朝太郎先生のお素人会が国立能楽堂でありまして、梅若万三郎先生もご出演と言うことでお付き(お供)に行ってまいりました。




事前に伝えられていたのは、万三郎先生が「邯鄲」の舞囃子を舞われると言うことだけでした。当日、入り口で番組を見てびっくりしました。


舞囃子「邯鄲」のお笛が藤田大五郎先生91)!!!


お素人会なので、お素人の笛かと思えば大先生の登場に驚きました。普段、お囃子のお素人会ではあまり録音はされない万三郎先生が「健一君、テープ録音頼んだよ」とおっしゃった意味がようやくわかりました。大五郎先生は今ご存命のプロのお囃子方の中で最高齢のはず。その先生との共演は万三郎先生の中で特別な意味があるのではないかと思います。




会が終わり、車で万三郎先生のご自宅に帰るときの先生と僕の会話です。


健「今日録音したテープですが、戻りましてからお渡しいたします。」


万「ん、あぁ~『記念』だから貰っておこうかな。」


健「??」


万「もしかしたら、(舞台での共演は)最後かもしれないしね」




確かに、さっきの舞囃子はいつもの雰囲気とは違っていました。万三郎先生の舞もどこか違って見えたし。


でも、今先生とお話ししてさっきの舞は惜別の念を込めた舞だったのかも…と思えてきました。長年、共に舞台を作り上げてきた役者同士が舞台上で会話を交わしていたんでは無いかと。




ちょうど日も落ちかけ、夕日の差し込む車内。先生の横顔がどこか寂しげなのが心に残る昨日のお付きでした。