2024年4月2日
(その一)からの続きです
11:45
長くて辛い西黒尾根を漸く登り切った
見下ろせばうねうねと波打つ尾根が
湯檜曾の谷へと落ち込んでいる
もう何度も辿っている尾根だが
辛く厳しい登行の中で
惹きつけるものは何なのか?
未だに飽きるという感覚は無い
さあ、後は緩やかな頂稜部を辿るだけだ
天神尾根から巻き込む風なのか?
緩い南西の風が吹き付ける中
幾重にも枝分かれしたトレースを辿る
左手には天神尾根
何時もの如く
蟻の行列のような登山者の列が見えて
その向こうには俎嵓の山陵がある
一方、前方にはトマノ耳とオキノ耳
この景観を目にする事ができるのは
西黒尾根を辿ってきた者だけの特権だ
暫し緩やかな頂稜部を辿ると
10mほどの雪壁にぶち当たる
日本海側から吹き付ける強い風によって
築き上げられた雪の壁だ
ここをキックステップで乗り越えれば
そこは肩ノ広場
肩ノ小屋が見えて
その向こうには上越国境稜線が伸びる
それと同時に風が10mほどに強まる
堪らずにフードを被り対処するが
真冬の刺すような痛さは無い
予報では山頂付近は2℃だったかな?
こんな所にも
春山らしさを感じることができる
12:15
谷川岳山頂(トマノ耳)へと辿り着く
頂標前では何時もの如く
登山者が入れ替わり立ち代わり
相変わらずの盛況ぶりだ
そんな人たちの間隙を衝いて
何時もの展望写真を撮る
青空ではないけれどそこそこの遠望
今回も北方から時計回りで
一通り写真を撮り終えると
もうすっかり満足という気分になった
なので、今回もオキノ耳はパス
風も冷たいので
往路を戻るとします
肩ノ小屋へ向かう登山者の列から
西黒尾根へのトレースに乗り換える
10mほどの雪壁を下ると
文字通りそこは壁を隔てたような別世界
強かった風も弱まって喧騒ともおさらばだ
広い雪面の広がりのその向こうには
白毛門や尾瀬の峰々が静寂の中に望めて
やはり山は静かな方がいい
12:33
その穏やかな雪面を辿って
西黒尾根の下り口まで戻って来た
見下ろせば長大な尾根を
米粒のような登山者が登って来ている
ちょうど今が一番キツイ頃だろうか
「頑張れよ!」と心で叫んで
そこを目指すように
急下降路へと一歩を踏み下ろした
安定した急峻な尾根で
面白いように高度を落として行く
左手にはオキノ耳から派生する東尾根
この西黒尾根よりも更に急峻で
あちらは一部の闘志家の世界
その向こうには清水峠越しに巻機山が見える
更に高度を落として行き
下り口から見えていた
登山者のところまで下りてきた
すれ違いざまに挨拶を交わし
上部の様子を伝えて激を送る
ほんの他愛もない事だが
これから頂きを目指す者にとって
有り難い情報のはずだ
そこから更に高度を落として
雪庇のある瘦せた尾根まで下りてきた
ここで前回同様
風の無い小さな平地で少休憩
ここでエナジー補給を済ませて
心細いヤセ尾根を下る
右手にせり出す雪庇と
左手に急角度で切れ落ちる
マチガ沢を見下ろして
更に高度を落として行けば
この尾根一番の急斜面上部へとやって来た
先ずは慎重に数歩足を踏み出してみる
「フフフッ、何かイイ感じ」
日中の日差しが遮られたせいか
雪質は腐る事も無く
ほど良い状態のままだった
そうと分かれば
急斜面でもサクサク下れる
晴天の飛び切りの景色は見れなかったけれど
曇天には曇天の良さがあるものだ
無事にラクダのコルまで下りてきた
前方には三角錐のようなラクダの背
そして振り返れば
今下りてきたばかりの雪壁がそびえる
これで一番の難所は無事にクリアできた
ラクダのコルからラクダの背へと
緩やかに登り返す
こちらも雪質はほど良いまま
この分では懸念していたクラックも
今日は開く事もなさそうだ
14:02
ラクダの背へ到着
振り返れば見慣れた谷川岳の姿
曇天でモノクロ写真のようではあるけれど
これもまた宜しだ
更にヤセ尾根を下って
三本のクサリ場を通過すれば
危険箇所は終了
後は樹林帯の中を緩々と下るのみ
所々に姿を見せる夏道を拾いながら
トレースを辿って行けば
15:30
最後の目印ポイント鉄塔を通過
ここまで来れば
登山口は僅かな距離
程なくして
西黒尾根の登山口へと
無事に下り立つ事ができた
後は国道を辿るのみ
登山指導センター前からは
乾いたアスファルト道
雪の消えた道端には蕗の薹が芽を出して
西黒沢には滔々と雪解け水が駆け下る
そんな様を見ると
雪を跳ね上げた笹薮から
今にもウグイスの声が聞こえてきそうだ
16:09
土合霊園地へ到着