摂食障害になる原因は、様々なストレスや固定概念が複雑に入り組んだことによるものが多いような気がします。
もちろん、一つのこれといった問題や何か大きなきっかけがあって患ってしまった方もいらっしゃるとは思いますが、私の場合は様々な精神的なストレスが合わさって起こったと言えます。
【原因は1つじゃない】
様々な要因が重なると、一つを改善してもすぐに治る・良い方向に進むことは難しくなってしまいます。
また私自身も“これはストレスではない”と無意識に自己暗示をかけていて見えなかった部分だったり、
日常の中のちょっとした事が要因でそれがストレスだと気づいていなかったりして、言われてから初めて気づくものが多くあったことが分かりました。
このことからこの病気を通して、まず “何がストレスになっているのか” を追求し自身で受け止められなければ自分が病気を患った原因を知ることはできないのだと実感しました。
しかし多くの摂食障害の本やネットの情報には具体的な例が上がっていることが殆どです。
確かに具体例がある事で本人やその家族が「これかもしれない」と自分を追求しやすくなるという利点はあるのかもしれません。
その一方で、それが “原因のあら探し” となってすれ違いの原因となってしまえば話は変わってきます。
実際私たち母娘は「どこがだめだったのか」という摂食障害になってしまった原因を知りたい気持ちが先走ってしまい、まだ気持ちの整理がついていないまま本やネットを読み漁り、
結果的にお互い考えすぎてしまってすれ違ってしまいました。
その中でも今回はよく言われる『親子関係』という原因に関して考えていきたいと思います。
【原因を観る目的は犯人探しじゃない】
本題に入る前に、まず“原因を見る”という行為に対しての前提についてお話したいと思います。
摂食障害について調べたことがある方であれば一度は見たことがあると思いますが
多くの文章には
「親子関係の問題」「低い自己評価」「愛情不足」「完璧主義」「沁みついた固定概念(痩せ至上主義社会)「まじめすぎる性格」
……などといった原因が書かれている場合が多いです。
そこで皆さんに問いますが、それを受けて皆さんはどのようなことを考えましたか?
きっと中には、「これが悪かったのね……」と思い当たる項目を読んでは責められているように感じたり、モヤモヤしたり、悲しくなったりした方も多いのではないでしょうか?
私も、いくつかの思い当たる項目を見て
『愛情をもらっているのに親のせいにするなど最低な自分だ』
『かまってほしいだけのメンヘラじゃん』
『完璧主義とか真面目とか自分で言っちゃう?』
と自分にそのままあてはめようとして、結果的に自己嫌悪に陥ったり、受け入れられずにモヤモヤしたりしていました。
対して母は、原因の中の『親子関係』『愛情不足』のところと
自分をそのまま重ね合わせてしまい、それ以外の原因よりもそこだけを気にするようになってしまいました。
その結果、私とすれ違うたびに
「私の愛情不足なんだよね、ごめんね……」
「私の育て方がいけなかったのかな」
と口に出すようになりました。
自身について深堀しないままだった私は、『愛情をもらっているのに何かを求めている感覚』にひたすらモヤモヤするだけで、
そうやって落ち込む母に「そうじゃないんだけど……」と“けど”の先を言葉にすることができませんでした。
加えて、そうやって親子関係が悪かったのかと母に問われると『期待していた娘像じゃない』と言われているような気までしてきて、
「期待外れのメンヘラ娘でごめんなさい……」
「病気にかかって迷惑かけて、母を泣かせることしかできないとか最低……」
とずっと考えていたのを今でも鮮明に覚えています。(当時愛情不足だと考え悩んでいた母にとても直接は言えませんでしたが)
このように、私たち母娘は資料に書いてある “例” を自分に投影してその先を考えず、『何が悪かったのか』という部分にだけ目を向けていた結果、すれ違ってしまいました。
じゃあ原因の例を見る事はいけない事なのか?というと、そうでもありません。
なぜなら、摂食障害にありがちな課題点をみることで、自分でも気づかなかった部分に気づくことができるからです。
私は、原因を突き止める目的は「私はこうやって考えていたのか」と知る事だったり、「これからどういった行動に変えるべきか?」に結びつけたりすることだと思っています。
そのため、 "例" の項目にチェックを入れていくだけではなく、さらに自分の環境・考え方を掛け合わせて深堀し、
“真の原因”の先にある“これからどうしたら良いのか?”まで考える必要があると考えます。
冒頭で言ったように、“真の原因”を突き止めるためには自分自身をしっかり分析することがカギとなります。
そして、それが一人でできずに苦しいから、専門のお医者さんがいるのです。
本やインターネットに出ている原因は “例” であって、
それを読むだけで自身の真の原因を突き止められていたら、あとはそれぞれの問題へ対策や改善をするだけなので治療ももっとスムーズにいくはずです。
例えば『強い痩せ願望』という原因の例があったとして、
その一つの原因にしても
- 痩せたモデルに憧れた→最近のタレントやモデルの距離が近い→自分に当てはめてしまった
- 学校の友達に小食が多い→自分は食べすぎだ→痩せないといけないと考えてしまった
- 彼氏にデブと言われた→ショック→可愛くなりたい、彼氏に認められたい→痩せが美しいと思ってしまった
などなど、深堀していけば無限に“真の原因”は出てきます。
自身がどこに欲求不満を感じているのかは人それぞれ違いますし、加えてそれを素直に受け入れられるかどうかはまた別の問題です。
しかし摂食障害という病気が難解なものであるために、治療に熱心な当事者・当事者家族ほど、いち早く原因を突き止め解決しようと、手っ取り早く得ることのできる情報を欲してしまうのかもしれません。
そうして十分分析ができない状態のところに本やネットの文章のような原因の例を持っていくと
『あなたのいけない所はここです!』『これを治すべきですよ!』と訴えられているように感じ、まるでそれが自分にぴったり当てはまっている(=解決すべきことはここに書いてある)と捉えてしまうことで、
それ以上自身を深堀するステップまで進めなくなってしまうのではないでしょうか。
このような「これが原因なの?」「これがいけなかったの?」という状態を
“原因の犯人探し”になっている状態だと私は考えます。
この場合、家族も本人もモヤモヤするだけで、原因を突き止め治療につなげようとしているはずなのに全く逆方向に進んでいることになってしまいます。
一方で、そこに“専門的な医療従事者”が入るだけで客観的な視点から問題点を少しずつ見つめる作業が可能になることがあります。
しかしこれも専門的な医療従事者であれば誰でも良いわけでは無く、当事者本人やその家族に合った人である必要があります。
病院選びや医者の相性については摂食障害と病院という記事に詳しく書いてあるので、そちらもぜひ参考にしていただきたいです。
【本当に「親の愛情不足」なのか?】
さて、ここからやっと本題に入りたいと思うのですが、
ここで私が訴えたいのはその専門的な医療従事者である人から良く言われがちな摂食障害の要因に関してです。
お医者さんの視点から原因を突き止める中でよくあるのが
「(いろいろ複雑に入り組んではいるのですが)親子関係が悪いのが一つの原因としてあります』
と言われるパターンです。
()内のような説明を前置きとして言ってはいるものの、最初に書いた私たちのように
本やインターネットの情報だけで『親の愛情不足』という捉え方で悩んでいるのにも関わらず、
お医者さんからもそれを言われてしまえば「これが決定的な原因だ!」となっても仕方ありません。
しかし私はこの『親の愛情不足』という表現に疑問を抱いています。
なぜなら
私はありがたいことに、親からたくさんの愛情を注がれて育てられているという自覚があったからです。
中には本当に親からの愛情を十分に受けられていない子が摂食障害になる場合もあるかもしれませんが、
私の場合はしっかり愛情を注がれてきていて、寧ろ平均以上なのではないかと思うくらいです。
さらに言えば、愛情を注いでいない親が私の体を心配して焦ったり、病院を死に物狂いで知り合いに聞きまくったり、病院に毎週通わせてくれたり、パニックになったときに「どうすればいいの」と悩んだりするなんてことがあるでしょうか?
もし愛情のない母親だったら、身体的・金銭的負担だけでなく精神的負担も多くある“支援者”になってまで、ここまで根気強く私に向き合ってくれないと思います。
そう思うからこそ、小さいころからずっと一緒に住んできた家族だからこそわかる互いの信頼関係を、他人に『親の愛情不足』と言われ
病気の原因だと主張されることに、私は正直言って不愉快な気持ちになりました。
さらに言えば、それを真に受けて「私の愛情不足だね、ごめんね……」と受け入れてしまう母にも、
心当たりがあるのか?それを認めてしまうのか?と驚きと悔しさが入り混じった複雑な気持ちになりました。
【「愛情のすれ違い」という可能性】
多分、この摂食障害の原因となっている親子関係の中には『愛情のすれ違い』という類のものがあって、
私たち母娘の場合はそれが絡み合う原因の中にある一つだったのではないかと考察しています。
つまり、愛情を注がれていないのではなくて、愛情が曖昧で伝わっていなかったり互いが思う欲しいところへ愛情が向いていなかったりする、ということです。
“欲しいところへ愛情が向いていない”と言うと愛情と恩恵を受ける側としておこがましいと思われるかもしれませんが、
お互い良い関係で居たいのであれば気づいたどちらか一方が言わなければ、いつまでもすれ違ったままになります。
子供の立場である私からの視点から言えば、親が自分へ十分に愛情を注いでくれていると分かっているからこそ、良い子で居たいからこそ、
「こうしてほしい」「そっちじゃない」とはっきり言うことが我儘な気がして、なかなか言い出せません。
そこで病院の先生など専門的な第3者に「親子で愛情がすれ違ってますね」と言ってもらえると、お互いにワンクッション挟んだうえで相手に自分の意思をはっきり伝えられる環境が整えられるような気がします。
ちなみに私がこうして当事者としての病院卒業日記を書いている理由にもこの“ワンクッションを置く役割を果たしたいから”というのが一つにあります。
しかしそのワンクッションが「あなたがそうさせたんですよ」という壁になってしまえば、お互いの関係は緩和するどころかより複雑に絡まってしまいます。
今ブログを読んでくださっているあなたがもし指摘される側だとしたら、
「あなたがそうさせたんですよ」よりも
「お互い愛情がすれ違ってしまっていますね」の方が
受け入れやすいと感じませんか?
そのため私はもしお医者さんに「親の愛情不足」と言われてモヤモヤした場合は
真に受けるのではなく『愛情のすれ違い』という可能性も捨てないで欲しいと思うし、
医療従事者の方には患者さんの親子関係に問題がみられた場合、それは本当の意味で『親の愛情不足』なのか『愛情のすれ違い』なのか、しっかり区別していただきたいと強く願っています。
【「愛情」の軌道修正】
私は摂食障害を通して、母との関係性がより良くなったと思っています。
なぜなら、この摂食障害があって治療やこうしたブログで自己分析・親子関係の分析をしたり、親とたくさんすれ違いぶつかり合いを繰り返したり、腹を割って話したりしたことで、
お互いに以前よりは正直な気持ちを知ることができたし、自分たちにはどのような対処法が必要なのかを導き出すことができたからです。
これは、摂食障害のおかげで気づかされたと言っても過言ではないと思います。
勿論そこで導き出したものの結果が、残念に思うことや傷をつけてしまうような結果になることも少なくありません。
でも相手も人である以上そこは仕方がないですし、それを知れたこともまた自分にとって利になるものだと感じます。
ということは、摂食障害になること自体がすべて悪かったわけでは無いとも捉えることができます。
しかし「あなたがそうさせたんですよ」というニュアンスを醸し出す『親の愛情不足』という言い方は
摂食障害になること=悪、悪い状態に陥れた親=悪
と言っていると捉えられてもおかしくないです。
そうすれば当然
愛情を注いでくれる親を悪者にしたくない当事者は口を紡ぎますし、悪者になった親は自己嫌悪の毎日になりますよね。
私はその先に良い結果が待っているとは到底考えられません。
私の通っていた病院では、私たちにまず『親の愛情不足』を指摘したカウンセラーさんがいらっしゃいましたが、私は今回の記事のようなモヤモヤが増したので早々にカウンセリングをやめました。
一方、主治医の先生や担当の管理栄養士さんは私たちの親子関係について大きくは触れないとしても
お互いすれ違いまくっていた時期は母に席を外してもらって診察させて頂いたり、
関係が良好なときは「お二人の表情が明るくなりましたね!」「前よりもっと仲良くなった気がします」と声をかけてくださったりしました。
【おわりに】
意思疎通というものは、親子でさえとても難しいものです。
自分も相手も人間ですから、相手との意思疎通について悩むのもごくごく当たり前のことで、それと同時にそうやって相手を想っている時点で『愛情不足』である可能性は限りなくゼロに近いです。
寧ろ、親子だからこそ難しくなるコミュニケーションというものもあるような気がします。
だからこそ第3者の必要性が出てきますし、その人の伝え方ひとつで親子の関係が絡まるか良い方向に進むかが変わってきます。
第3者となることの多い医療従事者の方々の新たな発見になればと思うとともに、
愛情のすれ違いに悩む親子の意思疎通のワンクッションになれれば嬉しいです。
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