マーケティングの研究・教育の世界において,必読書の一つにマイケル・ポーターの『競争戦略論』があります。これには企業が競争優位を確立するための基本戦略が記されています。競争優位を確立する方向性は2つで,1つはコスト・リーダーシップ,もう1つは差別化追求です。ポーターによれば,両方を追究することは困難で,もし両方を追い求めると,stuck in the middle(中途半端な状態)に陥るため,競争優位を確立することはできないとされています。二兎を追う者一兎も得ずということです。
一般的に,企業の経営資源には限りがあるので,あれもこれも手掛けることができないため,二兎を追うことができないと考えられています。また,2つの戦略の方向性にとって,必要な能力やノウハウが異なるので,一つの企業で複数の能力を獲得することが困難であるということも理由としてあげられます。
しかし,実際の企業をみれば,両方を追い求めて成功している事例が存在します。二兎を追うことができるのでないかという訳です。その事例を分析した良書を最近読みました。浅羽茂『二兎を追う経営―トレードオフからの脱却―』日本経済新聞出版です。
この本では競争戦略の方向性をポーターよりも広くとらえ,品揃えの多様化 VS コスト・リーダーシップ,探索 VS 深化などの二律背反だと考えられている方向性について,両立の事例を検討されています。小売業においては,品揃えの多様化は差別化の追求に結びついています。
品揃えの多様化とコスト・リーダーシップ両立については,Zaraの事例を用い,多様な先端ファッション衣料をつぎつぎ投入しつつ,低価格販売を実現する方法が分析されています。多様な先端ファッションを実現しつつ,ある程度品質を犠牲にする,商品を安定的に供給しないなどの供給体制によって低価格実現にこぎつけている状況が記述されています。
高品質とコスト・リーダーシップの両立については,レストラン「俺の」を例にとって,高級料理を低価格で販売する方法が分析されています。 「俺の」は当初立ち飲み・立ち食い方式で客回転を速くし,それをてこにローコスト化・低価格化を図ったことが記述されています。
他にも製造や組織の工夫により,二兎を追うことに成功したメーカーの事例がたくさん出てきます。理論の提示もありますが,多くの事例紹介があり,それぞれの要因・理由の説明が読みどころです。マーケティング戦略に関心のあるうちの大学生には是非読んでほしいと思います。
