バリリQはウィーン・コンツェルトハウス四重奏団と録音会社が同じということもあり、両者の音楽は大変似通った雰囲気を持っています。どちらも第一ヴァイオリン主導型で、いつも水の上で浮遊するような軽妙さを保ち、決して全体重をかけた濃厚な表現は取らない。強いて違いを挙げるなら、バリリの方が音符の扱いに多少即物的な部分があることでしょうか。
高貴な格調と大衆性が同居した彼らのアンサンブルは、モーツァルトの四重奏の美的な面を親しみやすい形で伝えてくれる。ちょうどアロマのミストを嗅いでいるのと同じような感覚でモーツァルトを聴く人には、恐らく満足のゆくレコードだろうと思う。確かにその演奏は日常生活の心労を忘れさせるに十分な麗しさと幸福感に満ちている。だが、これらの曲を癒しの音楽に扱われたとしたら、当のモーツァルト自身は少々複雑な心境になるのではないかという気もします。
洒落た喫茶店などに行くと、生クリームを浮かべカラフルな砂糖をまぶしたウィンナ・コーヒーというのがありますが、バリリのカルテットの音色にはそういう飾り気のある都会的な文化を連想させるところがある。コーヒーの苦味から立ち上る甘さや香味を普通に感じ取れる人ならば、もう少し直接的な力やコクの深さが欲しくなるかも知れない。個人的な好みを言えば、モーツァルトのカルテットは初期作品も含めここまで柔和でない方が、曲本来の生命が生きてくるようにも思います。
とはいえ、1970年代以降に無国籍風な四重奏団が台頭し、時代を風靡してしまったという推移を思えば、自国の伝統的気風を生かした演奏が良い音で記録に残されたのは意義あることだと思います。


