- 父の戦地/北原 亞以子
(2008) - ¥1,470
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『慶次郎縁側日記』シリーズ などのすばらしい時代小説を書く著者。
かぞえ年四歳のときに出征したまま帰ることのなかった家具職人の父が、ビルマなどの国で軍用車の修理などの後方任務につきながら娘に宛てた70枚余りの絵手紙の一部、それに家族の思い出を綴った文章を添えたもの。
新潮社の読書情報誌『波』(平成18年~19年)に15回にわたって連載されたらしい。
父が出征した後に弟が生まれたものの短命にして亡くなり、一人っ子に近いようなかわいい盛りの愛娘を残して遠く戦地にいる気持ちはいかばかりか…と想像するが、この伊達男のお父さん、ビルマの人々の暮らしを実に生き生きと写して、しかも毎日好物の肉を食べている、果物がうまい、活動がおもしろい…ときたもんだ。
娘宛てにカタカナで記した手紙だけに、わざと楽しい話しか書かなかったのか?とも思いますが、妻に宛てた手紙にも似たようなことが書かれており、生来楽天家で、ビルマを好きにもなっていた様子。
「ヨシエチヤン、ゲンキデアソンデオリマスカ。オトウチヤンハマイニチゲンキデス…」
自分の名前(たかのいちろう)を絵文字のようにデザインした洒落たサインのある軍事郵便。
この父の全てが凝縮したような絵手紙の数々がこの本の眼目で、そして北原さんの本当の宝物であろうと思う。