平 ミサ(たいら みさ)は携帯を確認した。
(メールも着信も無し・・・か)
時間は夕方の5時を回っている。
この会社に事務職として入社して8年目。いつの間にか、最古株になっていた。
「たいらちゃん、もぉ上がっていいいよぉ~~」
課長の松田がこっちを見てそう言った。
「じゃあ、この資料のコピーをとったら帰らせていただきます」
「やー悪いね~~、いつも」
「いえ・・・」
どう考えても1時間前に渡された仕事の量では定時にあがれるはずがない。
課長はミサが残業してもなんら差し支えないことを知っているのだ。
・・・・ただし、それは半月前までは、のことだ。
ヒロキとは友人に頼まれて人数合わせで行ったバーベキューという名目の合コンで知り合った。
よく食べ、よく笑い、誰ともすぐ打ち解けてているヒロキはミサには眩しかった。
ミサはどちらかといえば、口数も多い方ではないし、その場の空気で盛り上がれる能力も持ち合わせ
ていない。
なので、こういう場はとても困るわけだ。
紙コップに継がれた烏龍茶を片手に、新緑の広がる遠くの景色を見ていた。
「・・・・ミサさんだっけ?」
と、突然名前を呼ばれ、危うく烏龍茶をこぼしそうになった。
振り返るとそこにはヒロキが肉の入った紙皿片手に不安そうな顔でこっちを見ていた。
「大丈夫?疲れちゃった?」
ミサがぼんやりしていたので気を使ってくれたようだ。よっぽど無愛想な顔をしていたのだろう。
こういう人は気配りもできるんだな・・・と思った。
「大丈夫です・・・なんかこういうの慣れてなくて」
「俺もっ」
嘘だ・・・・と瞬間ミサは思った。
「正直、さっきまでノリで気ぃ張ってたけど、チョイ休憩」
全く・・・都合の良い男だ。こういう男がモテるんだなきっと。
「あ、俺今、都合良く話合わせてる、軽い男と思われちゃった?」
ミサはギクリとした。
顔に出てしまっていたのだろうか。
「まぁ、なんつーの?気ぃ張っとかないと、空気壊しちゃうのも嫌だから・・・。あ、別にミサさんが空気壊
してるって言ってんじゃないよ?違うんだよ?」
「ぷっ」
変な男だと思った。そんなこと気にもしてなかったのに。
「おっ、笑った!というか笑われた?」
その会話がなかったら、その後ヒロキと連絡を取り合うことにはならなかっただろうと、ミサは思う。
・・・・つづく