全国2人くらいの「そんなに陽のあたらない名曲」ファンのみなさま、お待たせいたしました。本日は、ごった煮感の強い当ブログのなかでもさらにごった煮感強めな企画よいこのデンジャラスセレクションシリーズの22回目ですよ。
 今回のお題は【ホーム&ルーム】。これは単純に「家」とか「部屋」にまつわるものだと解釈してください。10日前の記事の内容が賃貸だったこととは関係ないです。あと、初等教育または中等教育過程の学校のなかでおこなわれる重苦しい時間を過ごすアレのことでもありませんので安心してください。
 なにしろ当コーナーはファミリーでお楽しみいただくのを目的に展開していくのをモットーとしております。安心・安全が命ですから。そこんとこヨロシク4629してくださいね。

 

 

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音譜Burt Bacharach『捨てた家 -Not Goin' Home Anymore-<作曲:Burt Bacharach>

 じつは【ホーム&ルーム】にまつわる曲は前々から待機させていたものが揃っていたのですが、なかなかゴーサインを出すきっかけをつかめずにおりました。それが先日、偉大な作曲家=バート・バカラックさんの訃報が入りまして、いまやっておこうと思った次第でありまする。
 私にとってバート・バカラック作品といえば、やはりアメリカン・ニューシネマの大傑作『明日に向って撃て!』の音楽でありまして。これに因んだ記事としては2012年3月「自転車映画対決」と、劇中歌『雨にぬれても』へ日本語の歌詞を無理やり詰め込み童謡仕様にして『ピンポンパン』で大々的に使ってしまったものを紹介した2019年9月の「よいこのデンジャラスセレクション⑬【雨】Singin' in the Rain」が挙げられます。
 そして最近になってカーペンターズの名曲『遙かなる影』も彼の作品だったことを知り、驚きつつも「ああナルホド、こりゃあバカラックだわぁ~!」と納得するやら感激するやらでありました。
 本曲は『明日に向って撃て!』の序盤、BGMとして流れていたのが印象的で。主人公たちは銀行強盗を繰り返すアウトローであり逃亡者。スリリングな展開も多いし悲劇的な結末になるのにも必然性があった。だがそんな世界観の映画のなかにも、平和そのものといえるシーンが描かれている。そして平和そのものといえる音楽が存在する。本曲が、その代表例だ。アコーディオンから始まる穏やかでやさしい曲調のなかに、どこか哀しげな雰囲気が漂っています。
 これ、てっきり三拍子の曲かと思っていました。でも久しぶりに聴いてみたら変拍子でしたね。複数のリズムが交ざってる。
 なお、映画で使われたものとサントラでは演奏が違っているようです。

 

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音譜坂口良子『幸せさがし<作詞:岩谷時子/作曲:渡辺岳夫>



 1974年のテレビドラマ『家なき子』の主題歌。歌はドラマで主演を務めた坂口良子が担当。レコードは日本コロムビアから発売されたもののほか、朝日ソノラマから発売されたソノシートも存在する。
 坂口良子といえば女優のイメージしかなく、しかし出演作といえば『犬神家の一族』か『アイアンキング』の第23話くらいしか見た記憶がなくて申しわけない。なので彼女が歌も歌っていたとは知らなかった。
 で、たまたま本曲を聴く機会がありまして。そのあまりの上手さにビックリいたしました。おいおい、こりゃあ歌をみっちり勉強した人の歌声だぞ。プロデューサーの気まぐれで役者に歌わせてみようとして短期間のレッスンでやらせるパターンのそれじゃなく、歌手としてもやっていけそうなレベルにある。
 調べてみたら彼女はもともと歌手としてデビューしていたらしいのだ。どおりで。そうでしたか。

 

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音譜小林ハル『春雨<作詞:柴田花守/作曲:不詳>

 

 人間国宝・小林ハル、御年96歳にしてレコーディングされたときの音源。心して聴くべし。
 瞽女(ごぜ)は日本の女性の盲人芸能者を意味する歴史的名称であり、新潟県を中心に北陸地方などを転々としながら三味線、ときには胡弓を弾き唄い、門付巡業を主として生業とした旅芸人である。女盲目(おんなめくら)と呼ばれる場合もあったそうな。
“最後の長岡瞽女”と称された小林ハルさんは比較的裕福な家庭に生まれながら、生後3ヵ月で両目の視力を失った。家族は盲目の子が生まれたことで村人から偏見の眼差しを向けられることを怖れ、彼女を常に屋敷の奥にある寝間へ閉じ込めていたという。
 当時、視覚障害者が生計を立てるための手段は非常に少なく、鍼、按摩、琴、三味線などに限られていた。ハルさんがたどり着いたのは瞽女だった。5歳で弟子入り、8歳で巡業に出るように。その後も人生の大半を家族からも世間からも冷遇されて過ごす。生育環境は瞽女のなかでも際立って厳しいものであったという。
 にもかかわらず相当な人格者であったらしく、関係者のなかには「よく出来ためったにいない女(ひと)」と証言する者もいた。
 彼女の唄は瞽女のなかでも珍しい、低く太い響き渡るような声が特徴である。美声ではない。しかし、これが数々の辛酸をなめ続けた人の声と演奏なのだろう。民俗学者の佐久間惇一氏は、彼女の声を「いちど潰してから出す、腸から出る声」と評し、おなじ瞽女でも比較的順境に育った者の声とはまったく違うとしている。また晩年の弟子である竹下玲子氏は、初めてハルの唄声を聴いたとき「日本のベルカント唱法かもしれない」と感じたという。
 さて本曲は、江戸時代の嘉永(1848~1854)ごろに流行した端唄・小唄である。 『鶯宿梅(おうしゅくばい)』とも題されるらしい。作詞者は神道家の柴田花守。作曲者は不明だが、長崎の花街・丸山の遊女と伝えられている。
 歌詞を意訳すると以下のとおり。

 

春雨にしっとり濡れる鶯の
羽風でかぐわしく漂う梅の香
梅の花に戯れる可憐な鶯
そんなはかない小鳥でさえも
ねぐらはしっかり決めたもので
一筋にその梅の木に暮らすもの
わたしは鶯で あなたは梅
いつかわたしが自由の身に
思いのままになるならば
そしたら鶯宿梅になれるかしらん
ああもうどうだって良いわ

 

 鶯は習性として、巣で寝ることが少ない鳥なんだそうです。瞽女は旅芸人ですから、この端唄はハルさん自身の生活と重ねながら唄われておられたのかもしれませんね。
 最終的にハルさんは2005年、105歳という長寿でこの世を去った。だが、その長寿というのが彼女にとっては如何なるものであったかは想像を絶する。自身では「前の世で私が悪いことをしたから」と諦めていたというから、せつないではないか。

 

 

 せめて晩年には支持する人も増えていたことで、多少は報われていたと思いたいものだ。

 

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音譜カセットテープ「CAMPの歌92夕日の落ちる頃」よりおろかものの歌<作詞:不詳/作曲:不詳>

 

 新約聖書「マタイによる福音書」にもとづく子ども向け聖書の歌で、つまりクリスチャンソングです。原題は『The Wise Man Built His House』、または『The Wise Man and the Foolish Man』と表記される。
 よくキャンプで振り付けながら歌われるものなんだそうですが、いまでは原発のことを歌ってるのかと指摘されそうな内容です。

 

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音譜操洋子『お願い入れて<作詞:藤本卓也/作曲:藤本卓也>



 上田秋成の怪異小説『雨月物語』のなかに『吉備津の釜』という作品がある。むかし私が読んだ怪談モノのなかでは、もっとも怖ろしさを感じられ、もっとも好きな物語でありました。とにかく最後となる場面の絵が瞬時に浮かび上がってくる、ある意味で力強さすら感じさす描写が強烈に焼きついておりまして。
 本曲は1970年リリース『嵐の夜は二度来ない』のB面に収録されていたものですが、たぶんあまり売れなかったであろうA面はさておき、いまとなってはこっちのほうが(マニアのあいだだけで)有名になってしまったもよう。
 タイトルを見た人の多くは、その時代ではよくあったお色気路線の歌謡曲を想像し、内容がわかるやストーカーの歌だという結論になるんだそうです。
 でも私には、ただのストーカーじゃないように思えるんです。亡霊の歌のように感じるんです。だってこの声ですよ! 第一声目でぶち抜かれちゃいましたよ。捨てられた女が雨のなかを必死こいてやって来ては、ドアの外へ立って「入れて! 入れて!」と恥も外聞もなく懇願してるんですよ。『吉備津の釜』みたいじゃないですか。

 

「入れて~」

「入っれってっよ~!」

 

 ときどき聞こえるチャイムの音が意味深です。オートロックのない時代の歌なんですけどね。

 

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 以上、5曲。あなたのお気に入りはどれですか?
 各曲を聴きながら「やっぱり我が家がイチバンだわ」って思ってくださるようならいいんですけどね。住む家があるというのは幸せなことです。

 

かお

 

かお

 

かお

 

かお

 

かお

 

 あの。
 もう、お腹いっぱいになってると思うんですけどね。申しわけないんですけど、もうちょっとだけおつき合い願えますか? どうしても1曲、追加したいんです。
 とんでもないのがあったんですよ!
 きっと期待を裏切らないと思います。
 だから、聴いて。

 

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音譜友川カズキ『家出青年<作詞:友川カズキ/作曲:友川カズキ>


 友川カズキ(2004年に「友川かずき」から現在のカタカナ表記へ)の曲を扱うのは2021年11月の「よいこのデンジャラスセレクション⑲【DANCE】Keep on dancin'」以来、2度目となります。前回はとんでもない唄を掲載してしまいましたが、今回もとんでもない唄です。
 本曲はもともと1977年、友川氏が27歳のときにリリースしたアルバム『千羽鶴を口に咬えた日々』へ収録されていたものでありました。これへさらに2014年リリースのアルバム『復讐バーボン』にて3番を追加したうえ、64歳となり世の中の裏も表も知り尽くしてしまった人の歌声へとグレードアップさせて発表されたものがコレなのであります。原発問題に揺れる日本人一人ひとりの在り方を真正面から問いかけるような内容でもあります。

 

蒲団にもぐる時「このままでええや」思った
蒲団を蹴る時「このままじゃ駄目だ」思った

「貧困が暴力」なら 無知も暴力である 悔しき暴力である

 

 よくこんな歌詞を思いつくなぁと、私は頭を抱えるしかすべがない。さらには、パーキ●ソン病の歌かと思ってしまうようなくだりもあった・・・ものすごく不謹慎な表現で申しわけないが、そういう表現しか思い浮かばない。 ※「貧困は暴力である」とは、ガンジーの言葉なんだそうだ。
 歌詞がとんでもない。しかし、唄い方もとんでもない。そして演奏も、それに負けることなくとんでもない。何もかもが狂気に満ちている。
 正直、この歌は私なんぞの筆力では太刀打ちできない。つきましては『復讐バーボン』発売直前におこなわれたインタビュー記事がありましたんで、そちらを参照いただきたい。友川カズキという人物像もなんとなくわかるでしょうし、面白いワードもいっぱい飛び出しております。

 


 とりわけ1ページ目の「誰か私の歌を聴いて死んで欲しいんだけどね。プロレスの流血シーンを見て老人がショック死した事件みたいに」と、終盤の「今の日本はこれだけ危機に瀕しているのに、テレビを見ても何もかもが明るいじゃないですか。全部が全部、上っ面だけでね。自分の口の中へ手を突っ込んで内蔵を掴み出すような感覚をみんな忘れている。人間は本来、獣なんですよ。それを忘れて表面だけつるんとした生き物になってしまったから、原発みたいなものに簡単に騙されるんです」が私の好みです。
 原発問題だけじゃない。おなじようなことは、いまのコロナ禍をめぐる問題にも言えるんですよ。この歌は日本人に刷り込まれた負の体質が続くかぎり、永遠に古くはならない何かが内包されている。

 

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音譜Burt Bacharach『捨てた家(アンコール) -Not Goin' Home Anymore (Reprise)-<作曲:Burt Bacharach>


 おまけのおまけ。『家出青年』が強烈すぎてデザートが欲しくなった方はコレで中和してください。
『捨てた家』のアレンジ違いヴァージョンです。こっちのほうが三拍子は前面に出てますね。

『明日に向って撃て!』サウンドトラックの最後に収録されていました。

 

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 そんなわけで、引っ越しシーズン真っ只中ではありますけども。
 何度でも注意喚起いたします。エ●ブルでのお部屋探しだけはやめておきましょう!💢