「なんか、怒ってる？」
子どもの頃、中学生くらいまで、私はよくそう言われた。
自分では怒っているつもりは全くないのに、
なぜそう言われるのか不思議だった。
でも、今思うと、
私が自分で作っている鎧が、表情にいつも現れていたんだと思う。
（その２）です。
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私の実家は、「寺」である。
父は学校の教員＋住職、
母は団体職員＋寺の仕事。
祖父は住職。
祖母は寺の仕事。
「ちゃんとしている」ことが、いろんな意味で求められる家だった。
小さい頃から、家には様々な人が出入りしていた。
家族でくつろいでいても、
急に来客があることはしょっちゅう。
そのたびにバタバタ片付け、
膝をついて「こんにちは。」と挨拶をする。
特に盆と正月は、檀家のみなさんが一日中いらっしゃるため、
お茶くみと食器洗いにあけくれた。
盆、正月の前や、檀家のみなさんが集まる会の前には
大がかりな掃除をした。
本堂と廊下のガラス磨き、床や畳の掃除、玄関の内外の掃除、トイレ掃除…
「手伝いをするのは当たり前」
私は、そう思っていた。
本当はいやだったのに。
３人兄弟の真ん中だった私は、兄が母に怒られている姿をよく見ていた。
「ああすると怒られるんだ。」
そう思って、両親や祖父母に怒られないように、うまく立ち回ってきた。
言われたことは、きちんとやる
お客様にちゃんと挨拶をする
「こうしていれば、愛される」
逆に言うと
「こうしなければ、愛されない」
そんな思い込みを、私はずっと自分に植え付けてきた。
祖母は、自由奔放な舅と、体が弱く酒癖の悪い夫がいるなか、
苦労して寺を支えてきたという自負をもっており、
家族や親戚に対してとても厳しい人だった。
祖母は私に、いつも母の悪口を言った。
「お母さんは何もしない。」
「お母さんはいつもちらかしている。」
「お母さんは覚えが悪い。」
働いていた母よりも、小さい頃の私は祖母と過ごす時間が長かった。
祖母が話す母のイメージは、そのまま私が持つ母のイメージとなり、
「大好きな祖母に嫌われたくない」
と思う気持ちが、「母を嫌いになる」ことに転換していった。
同時に、
「母のようになると嫌われる」
そんな思い込みも作られていった。
母は、７歳のころに実の母を病気で亡くし、
継母との仲がうまくいかず、苦労してきたらしい。
だから、子どもをどんなふうにかわいがったらいいのかが
よく分からなかったのかもしれない。
そんなことを全く知らなかった子どものころの私は、
母が私に対してつく「ため息」と、
母に言われた、以下の言葉だけが心に深く沈んでいった。
「何回言われたらやるんだ。」
「またこんな余計なことして。」
「前よりテストの点が下がってる。油断したからだ。」
「お前は冷たい女だ。」
中学生のときに、いつも皮肉を言う母が憎くて憎くて、
包丁を持って母に向けたこともある。
そして、祖母と母は、いつも私にお互いの悪口を言った。
同時に、この家に嫁いできてどれだけ後悔しているかを、
二人とも私に語った。
そんな二人が、さんざん文句を言っている途中に
お客さんがきたり、電話が来たりすると、
ころっと表情や声のトーンが変わる。
ものすごく、外面がいい。
「どんなにいい顔をしていたとしても、裏ではどう思われているか分からない。」
「心を許してはいけない。気に入られるように振る舞わなければ、何を言われるか分からない。」
「人は、信じられない。」
私は、そんな信念をどんどん自分で作り上げていったのである。
両親や祖父母の言うことを聞く。
先生の言うことを聞く。
そうすることで、私は世渡りを覚えていった。
ある程度集中力が備わっていたため、それはあまり難しいことではなかった。
同時に私は、「失敗」をひどく怖れた。
「間違い」が許せなかった。
「できない」ことがいやだった。
「できない」と思ったら、最もらしい理由をつけて逃げたり、責任転嫁したりするすべも覚えた。
自分がいやだと思っているから、できない人をどこかでバカにしていた。
勝手に振る舞う人が許せず、いつも怒っていた。
そんな私が、
やらなければいけないことを、ほとんど何もできなくなってしまった日々がある。
それは、結婚後、夫の家に嫁として入って暮らし始めてからなのである。
（その３）「何もできないのに」に続く・・・
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