ゆっくり合意を形成する日本社会のあり方は、独特の美風でもある。しかし、

原発事故には向いていない。

このことをしっかりと我々は認識せねばならない。決定的な最初の数日をマッチポンプと焼け石に水といった、おどろくほど場当たり的な対応で浪費したために、もはや手立てはなくなりつつある。

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日本政府は危機感欠如、不信といら立ち募らす米

福島原発
 【ワシントン=山田哲朗】放射能漏れを起こした福島第一原発で事態の悪化に歯止めがかからないことに対し、米国では日本政府の危機感が欠如しているとの焦りが募っている。

 米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長とエネルギー省のポネマン副長官らによる17日の記者会見では、米記者団から「日本政府がこの危機に対処できると信頼しているか」「日本の情報開示に不満を感じていないか」など、日本の危機管理能力を問う質問が相次いだ。

 カーニー大統領報道官は「オバマ大統領は、日本政府が十分に問題の深刻さを理解していると信頼している」と表向き答えたものの、内実は深刻に受け止めている。

 前日の16日には、ヤツコ委員長が下院で「4号炉の水はすべて沸騰して干上がっている」と証言、「放射線レベルは極めて高く、復旧作業に支障をきたす恐れがある」との懸念を示した。発言の後、自衛隊は4号炉のプールの水を確認したとしており、委員長の勇み足の可能性があるが、米メディアには「日本政府が情報を隠しているのでは」との不信感が広がっている。

 率直な議論を重視する米国では、事態の深刻さを直視する姿勢が強い。民間機関「憂慮する科学者同盟」は17日、記者会見を開き、物理学者のエドウィン・ライマン博士が「日本は絶体絶命の試みを続けているが、もし失敗すれば、もう手だてはない」と指摘、放射性物質が大量に放出されて「100年以上にわたって立ち入れなくなる地域が出るだろう」との悲観的な見方を示した。

 米国社会は常にイラクやアフガニスタンの戦死者など冷徹な現実と向き合ってきただけに、日本政府の対応は手ぬるく映る。17日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、「日本の政治、官僚機構は、問題の広がりを明確に伝えず、外部からの助けを受け入れようとせず、動けなくなっている」「日本のシステムはすべてゆっくりと合意に達するようにできている」とする匿名の米政府関係者の分析を紹介し、国家的な危機に及んでも大胆な決断ができない日本政府へのいら立ちをあからさまにした。

(2011年3月18日10時45分 読売新聞)
日経新聞によると、EUの議会でエネルギー担当の欧州委員が、

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原発事故への日本の対応について「信じられないほど場当たり的」と批判。「もはや技術的能力の問題だ。日本の技術力に関するわれわれの評価を見直さなければならない」と述べた。
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と批判した。的確である。

なぜこのような「信じられないほど場当たり的」となるかというと、事実から目を背け、欺瞞語を弄ぶからである。ニュースで福島第一原発から逃げてきた職員のインタビューが出ていたが、驚いたことに地震後に「自分の判断でどこにでも行ってよい」と言われたので、大半の人は帰宅したという。なぜかというと「原発は安全だと聞かされていたので、大丈夫だろうと思った」と言っていた。

こういう欺瞞語によって思考する訓練を積んだ人間は、事実を認識できなくなる。そして他人から自分がどう見られているか、だけで動くことになる。それゆえその言葉に真実はなく、行動に効果はない。やってるフリになるからである。日本社会は、急速に「やってるフリ社会」となっている。これが最大の問題であり、今回の事故もその一つの表象に過ぎない。

東電をはじめ全ての電気会社および政府および原子力御用学者は、原子力欺瞞語を駆使して「原発安全ごっこ」を演じてきた。そうして事実から目を背けて、「きまり」に盲目的に従う姿勢を確立したために、この期に及んでも、創造的に対処することができないので、「信じられないほど場当たり的」となる。なぜなら、こんな事態にはマニュアルがないからである。

これは原発関係者に限ったことではなく、日本社会全体が陥っている罠である。ここから抜けださなければ、何も始まらない。事態は時々刻々と破局へ向かっていく。今回の事故は、社会全体が陥っている状況への警鐘として受け止めなければならない。我々がすべきことはただ一つである。

名を正す。

その勇気を持つことである。それが日本の技術力を取り戻す道でもある。福島原発は制御不能に陥っている。それはまぎれもない事実であり、欧州委員が謝罪すべきことではない。

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「原発事故は制御不能」 欧州委員発言で欧米株急落
2011/3/17 13:50 日経新聞

 【ブリュッセル=共同】欧州連合(EU)のエッティンガー欧州委員(エネルギー担当)は16日、欧州議会で福島第1原発事故について「制御不能に陥っている」などと発言、これを受けて欧州、米国の株式市場は一斉に急落した。

 同委員の報道官は「個人的な懸念を表明したものだ」と釈明し、発言を事実上撤回。国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は「この時期に『制御不能』などと言うべきでない」と苦言を呈した。

 エッティンガー委員は「今後数時間以内に、日本国民の生命を脅かすさらなる大惨事が起きる可能性がある。すべては神のおぼしめし次第だ」などと述べた。

 同委員の報道官はロイター通信に対し、「委員は報道を見て、事態がさらに悪化するとの個人的懸念を表明した」などと述べ、事態の沈静化に動いた。

 委員は日本の原発事故について、IAEAや報道を通じて情報を得ているとされ、独自の情報源は持っていないという。

 欧州議会で委員はこのほか、原発事故への日本の対応について「信じられないほど場当たり的」と批判。「もはや技術的能力の問題だ。日本の技術力に関するわれわれの評価を見直さなければならない」と述べた。
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福島第一原発:全体的な見通し。名を正すべし。」という記事で、

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【(3)なんとかなるのか?】

これもわからないが、

(1)自衛隊のヘリコプターと機動隊の放水車による注水が成功する→使用済み燃料が安定化。
(2)現在行われている電源回復工事が成功。
(3)緊急冷却装置などの設備が運良く動いてくれる。

という幸運が重なれば、少なくとも事態の悪化を止められる。
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と書いた。しかし(1)は、あえなく失敗した。というより、最初から目のない話だったのである。大の大人が大真面目にやっていて、マスコミも持ち上げており、しかも多くの自衛隊員、警察官、東電職員にかなりの被曝を強いるのであるから、多少は効果のある案なのかと思っていた。しかしそれは、単なるショーだったのである。被曝した人々に何と説明する気なのであろうか。

本気でやるなら、ヘリコプターは100台は必要だっただろう。それなら一機で2トンくらいしか掛からなくとも、200トンくらいになり、1200トンのプールも底の方には水が入った。これだと、つなぎにはなっただろう。

(2)についてであるが、最後につけた朝日新聞の記事は期待を持たせる。しかし、下の毎日新聞の記事の抜粋を見れば、事態はそう簡単ではないことがわかる。まず、原子力欺瞞言語の「(電源復旧の)実現性はかなり高い」は、「多分ダメ」の言い換えではないか不安である。

最大の問題は、たとえ電源が復活しても、2号機以外は多分無理だ、ということだ。それでも、2号機が大人しくしてくれれば、放射線レベルが下がり、人間側の活動領域が拡大される可能性がある。なんとかなってほしいものである。

しかし、冷静に考えてみて、もしそんなに簡単に復旧するものなら、どうして最初からやらなかったのか、という問題がある。理由を考えてみたが、以下が考えられる。

(1)津波でひどい状態だったので、全部駄目だと思い込んでいたが、調べたら2号機は浸水していないことがわかったのでやり始めた。
(2)どうせ駄目だと思っていたが、万策尽きたのでやってみることにした。
(3)人員不足で目の前の給水や蒸気抜きに追われていた。放射線レベルが上がって活動できなくなってきたので、電源に手をつけた。

上層部が、上の自衛隊と機動隊とを愚弄するショーを演出するような連中であることを考えると、(2)の可能性が高いように感じる。もしそうだとすると、上の「(電源復旧の)実現性はかなり高い」は、原子力欺瞞用語だということになる。

下の毎日新聞の記事と、朝日新聞の記事の違いは、なぜ2号機から始めるかの理由の説明の違いにある。毎日は、

「唯一配電盤が水没しなかった2号機の電気系統回復が頼みの綱」

と書いている。合理的説明である。これに対して朝日は、

「放水が始まった3、4号機より先に、まず2号機で始める。」

と誤魔化している。これでは戦時期の大本営発表の「転進」と全く同じやり方である。大本営は、ガダルカナル島で敗北した日本軍が撤退したことを、

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ソロモン群島のガダルカナル島に作戦中の部隊は昨年8月以降、激戦敢闘克く敵戦力を撃摧しつつありが、その目的を達成せるにより、2月上旬同島を撤し、他に転進せしめられたり
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と伝えた。朝日新聞の報道は、

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ヘリコプターと放水車による3号機、4号機の使用済燃料への注水作戦を推進し、その目的を達成せるにより、部隊は両機を撤し、第2号機の電源復旧作戦へと転進せしめられたり
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と言っているようなものである。それゆえ朝日の記事を読むと読者は、

「なるほど!自衛隊と機動隊との奮戦によって、3、4号機は制圧されたので、次に2号機へと進むわけだ。皇軍ガンバレ!負けるなニッポン!」

という白白とした明るい気分になるのである。


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毎日新聞 2011年3月17日 20時55分

一方、2号機の電源復旧作業は17日午前から、東電職員ら30人の手で始まった。被ばく人数を抑えるため、平時より少ない態勢だ。

 非常用電源が失われた1~4号機のうち、唯一配電盤が水没しなかった2号機の電気系統回復が頼みの綱。作業では放射線量の比較的低い海側に変電盤を仮設し、建屋の各機器などと接続していった。担当者は「少ない工事量で復帰するよう計画している。(電源復旧の)実現性はかなり高い」と強調する。

 ただし、電源復旧は原子炉冷却のための入り口に過ぎない。まずは海水を送り込むポンプの作動試験をする必要があるが、16日夕には東京・内幸町の本店との連絡回線を切断するミスも起きた。7時間後の復旧までの間、水位計などのデータのやり取りは衛星携帯での通話でしのいだ。

 東電は2号機との間の回線が生きている1号機も、近く電源復旧が可能とみる。しかし、3、4号機は新たな外部電源をひく必要があり、復旧には時間がかかる見通し。また、使用済み核燃料プールの水温が上昇している5、6号機では、5号機の非常用電源が機能していない。6号機の電源を5号機につないでいるものの、東電は「この状態が長く続けば1~4号機のように温度が上昇する」と焦燥感を募らせる。
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福島第一の電源、18日復旧か 冷却装置稼働の可能性も

2011年3月17日22時5分 朝日新聞

 東日本大震災で壊滅的な被害を受けた東京電力福島第一原発の電源が、18日にも復旧しそうだ。電源の喪失は復旧を阻む最大の障害だった。原発を運転するには大量の水をポンプで循環させ、核燃料から出る熱を冷やす必要があるが、地震で送電が止まり、非常用電源も動かなかった。水の循環や給水が可能になれば、危機的な状況に光がさす。

 復旧に向けた作業は17日早朝に始まった。東電によると、原発の敷地内で約320人の作業員が参加した。

 福島県内に電気を供給している東北電力の送電線を補修して電気を引き込む。作業に10~15時間ほどかかる。放水が始まった3、4号機より先に、まず2号機で始める。

 送電が再開できれば、事故時などに原子炉を冷却する緊急炉心冷却システム(ECCS)を動かすポンプを起動できる可能性もある。ECCSが動けば、原子炉の下部にある巨大プール、圧力抑制室の大量の水を原子炉格納容器や圧力容器に送り込める。

 さらに、圧力容器や使用済み核燃料のプールにも水を循環させ、核燃料からしばらく出続ける余熱を冷やす。プールの温度が上昇し、燃料が露出して破損するなどの事態の拡大を防ぐ。

 ただ、地震や津波、その後の火災や爆発の影響で、ポンプや変圧器などの設備が壊れている可能性もある。設備が壊れていれば、送電しても作動しない。正常に作動するか逐一確かめながらの作業となる。
日本原子力学会が「東京電力福島第1/第2発電所の事故について 放射線のレベルについて(公表されている放射線量はどのような意味を持つのか) 」という文書を出した。

まずは、めんどくさがらずに、次の文章を丁寧に読んでいただきたい。

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・ 国際放射線防護委員会が職業上放射線被ばくを伴う業務の従事者や一般公衆に対して勧告している被ばくの上限値を線量限度といいます。この線量限度は次の考えにもとづいています。
(1)急性の放射線障害の発生を防止するため、しきい線量(実際に影響が現れる最低の線量)よりも十分低く定める、(2)がんの発生率に関してはしきい線量がないものと仮定した上で、一般社会で許容できる程度の線量とする。この考え方に基づき、一般公衆の線量限度は1年間に 1000μSv ですが、職業人は5年間の平均が 20000μSv/年となっており、ある年に 20000μSv を超えても他の年に下回っていて平均で 20000μSv/年を超えなければよいという勧告になっています。なお、線量限度には自然放射線と医療による被ばくは含みません。
・ 1回の被ばくで 100000μSv(100mSv)を大きく超えた場合にはガンの発生確率が被ばく量に比
例して増加するとされていますが、それ以下の被ばくではガンの有意な増加はみられていません。

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では質問である。以下の文章は正しいか間違っているか。

国際放射線防護委員会は100ミリシーベルト以下の放射線被曝なら安全であると、っている。

答えは、バツである。

これだけを読むと、まるで「国際放射線防護委員会」が「しきい値アリ仮説」を認めているように見える。しかし良く読むと、最後の行は日本原子力学会が勝手に言っていることであり、しかも、1回だけ被曝の話である。

何度も言っているように、今回の事故のような場合に問題になるのは、

撒き散らされた放射性物質による内部被曝

である。内部被曝というのは、ヨウ素でも半年以上、セシウムの場合だと何十年も継続して被曝するわけであるから、1回だけの話など、どうでも良い。

実はよく読むとここでは明瞭に、「国際放射線防護委員会」が、

(1)急性の放射線障害には「しきい線量」を認め、かつそれより十分低くする、
(2)がんの発生率については、「しきい線量」がないものと仮定、

と決めた、と書かれている。つまり低レベル放射線被曝については、しきい線量はない。
ところがその直後に、

(3)1回だけ被曝する場合には100ミリシーベルト以上で比例、それ以下では有意な増加がない、

という「しきい値アリ仮説」が書かれている。

それゆえ、この部分を正確に解釈するなら、

(1)高レベル被曝による急性の障害にはしきい値がある。
(2)低レベル被曝によるがんや白血病の発症にはしきい値がない。
(3)1回だけならしきい値があるかもしれないが、(2)には関係ない。

という内容である。そういう風に解釈できた方はおられただろうか?多分、いないだろう。何しろ、私でさえ、「あ、こいつら、しきい値仮説を唱えている」と思ってしまったくらいだからである。

彼らのやっていることは、

(1)国際放射線防護委員会という権威あるところの勧告に表面上従う。
(2)しかしそれと関係ない紛らわしい話を入れる。
(3)そうすることで、ある水準以下の放射線なら「安全」だという印象を創りだす。

ということである。つまり、この連中は、

人を騙そうとしている

のである。
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毎日新聞 2011年3月17日 11時42分(最終更新 3月17日 13時10分)より抜粋

福島第1原発の使用済み核燃料プールの大きさは、縦横約10メートル、深さ約12メートルで、燃料棒(長さ約4メートル)を十分に冷やすため、通常1100~1200トンの水で満たされている。一方、自衛隊のヘリから放水された水は4回で最大計30トンで、すべてがプールに入ったわけではない。小林圭二・元京都大原子炉実験所講師(原子炉物理)は「プールの水量が減っている今、注水は必要な行為だ。だが、

今回の放水は『焼け石に水』程度の効果しかないだろう。

期待したいのは、外部電源の回復によって、プールへの給水ポンプが復旧すること。電源回復までのつなぎとしても十分とは言えず、『やむを得ず試しにやってみた』というレベルではないか」と話す。

http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/news/20110317k0000e040050000c.html

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 「うまく行ってほしい。祈るような気持ちだ」――。陸上自衛隊ヘリが福島第一原発3号機などに向けて、17日午前に実施した4回の空中放水。テレビで見つめた陸自幹部の一人はうなるように言った。上空は毎時87.7ミリシーベルトという高濃度の放射線量の中での投下作業。最終的には、機長の判断で決行された。

http://www.asahi.com/national/update/0317/TKY201103170276.html

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私も祈るような気持ちであったが、映像を見て悲しくなった。どう見ても、あれではほとんど効果がないだろう。量が少なすぎる。これだけの危険を彼らに背負わせて、こんなことしかできないとは、ほとんど竹槍状態である。
※少し追記した。

原発について色々書いているうちに、猛烈な肩こりになってしまった。少なくとも現時点では、放射線による健康被害よりも、肩こりの方が私にとって深刻である。枝野長官でさえ8時間休んだらしいから、職務上、何の関係もない私が、こんなことで疲れても意味が無いので、ペースダウンしたい。

色々調べて回った結果をまとめておきたい。言うまでもないが、私はど素人で、情報は全てマスコミ経由であるから、下記が真実かどうか、知らない。知らないが、そういう情報を私自身の思想に基づいて分析し、まとめたものであり、その点においてのみ意味がある。これが後に明らかになることと、全くかけ離れていれば、私の思想が根本的に間違っていることが明らかになる、というメリットがあるので、書いておきたい。


【(1)最悪、事態はどこまでいくのか?】

我々の運がどこまでも悪く、東電も政府もまともなことを一切しない、という条件で考えてみると、以下のような悪夢のシナリオが考えられる。

・放射線レベルが上昇して、東電職員が全員撤退する。
・放ったらかしになった1~3号機がメルトダウンする。

ここから先が情報不足でよくわからないのだが、おおまかに言って三つの可能性がある。

Barry Brook)圧力容器の下の炉心キャッチャーが受け止めて、そこで止まる。

大前研一)再臨界になったら圧力容器が爆発し、格納容器も破損するが、そこで止まる。

今中哲二)溶けた炉心材料が格納容器の下にためている水と反応すると水蒸気爆発を引き起こす恐れがある。そうなるとチェルノブイリ事故に限りなく近づく。(今中氏は京大原子炉実験炉の助教。「熊取六人組」の一人)

1号機と3号機とは、格納容器全体に海水が入っている。大前研一は、この水が緩衝材になるので更に安全だと言っていたが、この海水は水蒸気爆発を起こさないのだろうか?

もしも不幸にも今中説が的中すれば、1~6号機の全てが吹き飛ぶことになろう。そうすると、1~3号機の炉心、更に、1~6号機に蓄積されている使用済み燃料数千本が、全て撒き散らされる。これは、チェルノブイリを遥かに上回る事故になる。アメリカが80キロ以上への退避を自国民に勧告し、ドイツやフランスが首都圏からも退避しているのは、この事態の可能性を考えているからだと思われる。

この可能性を排除できないのであれば、首都圏からでも、若い人で、退避できる人は退避した方が良い。既に述べたように、胎児、赤ちゃん、幼児は、できるだけ逃げたほうが良い。

逆に、60歳以上の人は、元気を出して、働いて社会の機能を保持し、若い人々を守ってほしい。何しろ、あなたがたの世代がこんなものを日本に設置して回ったので、こんなことになったのだから。


【(2)事態はどうなっているのか?】

ハッキリ言って、どうなっているのか誰にもわかっていない、というのが答である。放射線が凄くて近づけず、その上、計器がほとんど壊れているので、現場の作業員も、何が何だかわからずに作業している。確実なことは以下のとおりである。

(1)1~3号機で核燃料の、少なくとも半分以上が水で冷やされない状態が何日も続いている。
(2)1~6号機で、使用済燃料がむき出しになりつつあり、放射性物質が放出されている。こちらも、再臨界の可能性は否定できない。その場合には、炉内ではなく、外気中で起きる。
(3)炉心あるいは使用済み核燃料が熱くなり、水蒸気が酸化されて生じた水素により、爆発が続いている。

よくわからないのは、格納容器の下にあり、ドーナツ状の圧力抑制室という、水蒸気を水にして貯めておく場所が、壊れているかどうかである。2号機は壊れている、とされており、3号機もその可能性が指摘されている。一方で、もしそうだとすると、周辺の放射性水準が低すぎる、という原子力危険・隠蔽院の指摘も当たっているような気もする。しかし、全体として、壊れていると見たほうがよかろう。


【(3)なんとかなるのか?】

これもわからないが、

(1)自衛隊のヘリコプターと機動隊の放水車による注水が成功する→使用済み燃料が安定化。
(2)現在行われている電源回復工事が成功。
(3)緊急冷却装置などの設備が運良く動いてくれる。

という幸運が重なれば、少なくとも事態の悪化を止められる。


【(4)避難指示圏外の人は、逃げるべきか、逃げるべきでないか?】

「福島原発:逃げるべき人、逃げなくていい人」で既に述べたように、内部被曝が問題であるから、成長期の人や、今から子供をつくるつもりのある人は、できるだけ遠くに逃げたほうがよい。逃げるべき人ランキングは以下である。(9)以下は逃げないほうが良い。

(1)胎児
(2)赤ちゃん
(3)幼児
(4)児童
(5)若者
(6)これから子供を持つつもりの人
(7)子供をこれから持つつもりのない人
(8)もう子供なんか出来ない人
(9)老人
(10)後期高齢者
(11)平均余命を超えた人


【(5)どこへ逃げる?】

ベストは南半球である。これならチェルノブイリを越える事態でも当分は平気である。日本国内なら、九州くらいまで逃げないと、ウルトラ最悪を対岸の火事としてみることはできないだろう。しかし、西日本なら、何とかなるだろう。しかしパニックになって避難し、路上で寝るようなことになると、その方が健康被害が大きい。冷静に考えて自分で道を見つけるしかない。


【(6)どのくらいの放射線量なら安全か?】

安全な放射線量というものはない。どんなに微量でも、危険は危険である。ただ、微量であればその危険性が非常に低い、ということである。世の中に危険はつきものであるから、放射線から来る危険が、避難の危険を下回ると思うなら、逃げるべきではなく、上回ると思うなら、逃げねばならない。決めるのは、一人ひとりである。

それから、被害の規模は、

累積被曝量×被曝人数

で見積もらねばならない。多くの人が少量の放射性物質に晒されることは、少数の人が大量の放射性物質に晒されるのと、少なくとも同等に危険である。ところが、政府もマスコミも、この事実に目を塞いで、

「健康に影響はない水準です」

を繰り返しているが、これは、

「健康に影響があっても、原発のせいだとはバレない水準です」

という意味に過ぎない。(詳細はこちら


【(7)なぜこんなことになったのか? どうしたらよいのか?】

原子力欺瞞用語を使うからこんなことになったのである。

・危険を安全という。
・不安を安心という。
・隠蔽を保安という。
・事故を事象という。
・「長期的には悪影響がある」を「ただちに悪影響はない」という。
・無責任を責任という。

孔子は以下のように述べている。

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『論語』子路13-3
子路曰。衛君待子而爲政。子將奚先。
子曰。必也正名乎。
子路曰。有是哉。子之迂也。

子路は言った。「衛の君主が先生に政治をさせたとしましょう。先生はまず何をなさいますか。」
先生は言った。「必ずや、名を正す。」
子路は言った。「これだから、先生は迂遠だ。」
===============

今の事態においても、まず行わねばならないことは、迂遠に見えるかもしれないが、名を正すこと、すなわち事実に即した言葉を常に使うことである。その兆しが多少はみえていることが、光明である。

1995年の「もんじゅ」の大事故についての平岡憲夫氏の以下の言葉が全てを明らかにしている。今回の事故でもあれだけの「爆発」を「爆発的事象」と言っていた。

=============平岡憲夫「原発がどんなものか知ってほしい」より========

 しかし、こんな重大事故でも、国は「事故」と言いません。美浜原発の大事故の時と同じように「事象があった」と言っていました。私は事故の後、直ぐに福井県の議会から呼ばれて行きました。あそこには十五基も原発がありますが、誘致したのは自民党の議員さんなんですね。だから、私はそういう人に何時も、「事故が起きたらあなた方のせいだよ、反対していた人には責任はないよ」と言ってきました。この度、その議員さんたちに呼ばれたのです。「今回は腹を据えて動燃とケンカする、どうしたらよいか教えてほしい」と相談を受けたのです。

 それで、私がまず最初に言ったことは、「これは事故なんです、事故。事象というような言葉に誤魔化されちゃあだめだよ」と言いました。県議会で動燃が「今回の事象は……」と説明を始めたら、「事故だろ! 事故!」と議員が叫んでいたのが、テレビで写っていましたが、あれも、黙っていたら、軽い「事象」ということにされていたんです。地元の人たちだけではなく、私たちも、向こうの言う「事象」というような軽い言葉に誤魔化されてはいけないんです。

 普通の人にとって、「事故」というのと「事象」というのとでは、とらえ方がまったく違います。この国が事故を事象などと言い換えるような姑息なことをしているので、日本人には原発の事故の危機感がほとんどないのです。
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第2原発についての情報が少なかったが、やっと出た。第2原発は冷却用の海水を取り込む部分が津波で破壊されていた。その後、どうなったかと思っていたが、幸運にも修理可能なものがあったので、冷却機能を回復して停止したらしい。これができなければ、あちらも大変なことになっているところだった。

第1原発でも送電線をひいて、冷却装置を復活させる試みが行われている。もし、先程の記事のように、格納容器が2号機、3号機でも健全であれば、マッチポンプで時間を稼ぐことはできるはずだ。その間に、電源が復活すれば、人間側がコントロールを回復する目が出てくる。


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福島第1原発、瀬戸際の注水作業 3号機破損の恐れ
(1/2ページ)2011/3/16 20:13  日経新聞

 東京電力福島第1原子力発電所で、事故の連鎖が止まらない。3号機で使用済み核燃料の過熱が進んでいる可能性もある。一時、原子炉を取り囲む格納容器の一部が破損しているとの指摘も出た。被災した発電所のなかでも、3号機の事故拡大を食い止められるのかが焦点になっている。最悪を想定し、ぎりぎりの対応が続く。

 16日午前に3号機付近から白煙があがった。建屋内にあった使用済み燃料を収めたプールの水位が低下し、燃料があらわになっている可能性もある。

 燃料が過熱すれば、放射性物質が大気中に漏れ出す。冷却が遅れれば、放出は止まらない。最悪の事態が懸念される。

 白煙から想定されるのは、使用済み燃料を収めたプールの温度が高温になり、そこから水蒸気が出たとの見方だ。

 燃料の冷却に向けて、自衛隊のヘリコプターが空中から水を散布する計画が進む。ヘリが空中から水を散布し、使用済み燃料のプールに水を注ぐ計画だ。

 ただ16日午後4時に仙台市内の霞目駐屯地を出発したが、第1原発の上空の放射線量が高すぎるため、水の散布は中止になった。17日以降、実施された場合、水がうまく入るかどうかが焦点になる。
 また東電は外部から電気を送るため送電線の設置を準備。被害を食い止める努力に全力を注ぐ。

 炉心には海水を注入し、炉内の燃料の冷却を進めている。東電の公表データでは、燃料は半分ほど水につかったようだが、水位計が壊れている可能性もあるという。

 炉心への海水の注入と、ヘリによる上空からの使用済み燃料が入るプールへの水の投入で時間を稼ぎつつ、東電は外部電源を確保するための送電線の設置に向け準備をしている。

 緊急炉心冷却装置(ECCS)などの冷却系統を復活させ、冷温停止状態にもっていくことを目指す。

 仮に送電線を敷設し、外部からの電源が復旧すれば、冷却するための設備が動くかどうかが次の課題となる。

 福島第2原発の場合、外部電源は保たれていたが、海水を取り入れて冷却用の水を冷やすためのシステムが破壊されていた。

 この復旧ができたことで、第2原発ではすべて原子炉内の水の温度をセ氏100度前後に安定させることに成功、冷温停止ができた。

 第2原発の場合も海水を取り入れるためのポンプを動かすモーターのうちいくつかは、津波をかぶって絶縁破壊されており、使い物にならなかった。

 ただ、破壊されていなかったものを復旧することができたため、冷温停止状態にもっていくことができた。

 このほか、使用済み燃料プールは1~6号機全てで注水できていない。

 いずれもプールの水が減って使用済み燃料がむき出しになると放射性物質が外部に出る恐れがある。今後、プールへの注水方法を探る。

 また運転中だった1~3号機は原子炉圧力容器に注水して核燃料を冷やす必要がある。東電は1~3号機の原子炉圧力容器への海水注入を続けている。

 第1原発では「周囲の放射線量が作業員が近づくには高すぎる」(東京電力)ことがネックになっている。放射線量は16日、正門付近で毎時10ミリシーベルトを記録した。
下のニュースは、第2号機も、第3号機も、圧力抑制室や格納容器が破損していない、ということを意味している。これが事実なら、非常に良い知らせである。

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「2号機、圧力抑制室の破損なし」 原子力安全・保安院

2011年3月16日22時57分 朝日新聞

 原子力安全・保安院によると、東京電力福島第一原発の正門付近での放射線量は、16日午後0時半に毎時10.9ミリシーベルトまで上昇した後、低下していった。午後4時20分には毎時1.47ミリシーベルトになったが、それでも、日本で自然界から1年間に降る放射線が、1時間で発生していることになる。

 保安院は16日夜の記者会見で、放射線量が上昇した原因として、3号機の格納容器や2号機のサプレッションチェンバー(圧力抑制室)の破損の可能性を否定。「もしそれらが原因なら、毎時数ミリシーベルトでは済まない可能性が高い」とした。
【※このエントリーは、最初、間違ったことを書いていましたので、訂正しました。】

原発から離れていれば安全、という原発欺瞞用語について説明しておきたい。

まず、放射線は、距離の二乗に反比例するので、原発から離れていれば問題ない、という無茶苦茶なことをテレビで言っていた。

しかし、原発から我々が被曝するというのは、原発から直接被曝するのではない。原子炉の圧力容器から漏れ出して浮遊する放射性物質から被曝する。
(1)原子炉から、放射線を出す物質が漏れ出す
(2)漏れ出した放射性物質から出た放射線で遺伝子がやられる

この二段階で我々は被曝するので、両者をごっちゃにしてはいけない。距離の二乗に比例して弱くなるというのは、その分、放射性物質が拡散するからだ、という。

しかし原発周辺で風が強いと、放射性物質が遠くまで飛ぶので、遠くでも被曝する。確かに、その間に拡散するので、濃度は低いはずである。しかし原発から遠いところに人口密集地があると、人間と放射性物質との距離の平均値が縮まってしまうので、過疎地から密集地に風が吹くと、遠くに行くほど総被曝量は増える可能性がある。これもまた、【被曝量×人数】で考えないといけない。

逆に、風が弱いと、周辺に大半の放射性物質が落ちるので、近くの人やモノが被曝する。この場合にはほぼ距離の二乗に反比例することになる。しかし、「放射能が距離の2乗に反比例して弱くなる」のではない。「放射性物質の濃度が、距離の二乗に反比例して下がる」だけである。

それから、放射性物質は崩壊することで放射線と熱を出すので、徐々に弱まっていく。半減期が短い放射性物質は、遠くにいれば、まずはほぼ無害になる。そういうわけで、原発から遠いほど、危険が少ないのは間違いない。しかし、距離の二乗に反比例するわけではない。

http://www.stop-hamaoka.com/kaisetsu-6.html

によれば、原発から出る放射性物質のうち主なものは以下である。これからわかるように、ヤバイのは、ヨウ素とセシウムだ。セシウムが一番厄介そうである。400キロ離れた浜岡原発でもセシウムやヨウ素を検出したと報道されていたから、静岡や名古屋でも、完全に無害なわけではない。ロシアンルーレットの弾が非常に少ないので、ほぼ確実に当たらないだけである。

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7、原発の大事故で放出されるおもな人工放射性核種

原爆や原発は、ウラン235やプルトニウム239の原子核を人工的に破壊する核分裂反応によってエネルギーを取り出す。もとのウラン235やプルトニウム239の原子核は粉々の破片に分かれる。これらの破片のほとんどはひじょうに放射能レベルが高い放射性核種である。これらの人工放射性核種は、半減期が短い。同じ核種が超新星爆発で生じたとしても地球誕生時には失われていた。したがって、生物にとっては初体験である。

①放射性クリプトン、放射性キセノン
常温でも気体の放射性核種で、原子炉中のほぼ全量が放出される。重い気体。「放射能雲」が通過中に強烈な放射線を浴びせる。しかし「放射能雲」の通過後には残らない。

キセノン133 6900兆ベクレル 5.3日
クリプトン88 290京ベクレル 2.8時間

②ヨウ素131
ヨウ素は184℃で気体になるため、原発事故でひじょうに放出されやすい。
天然のヨウ素はすべて安定なヨウ素127で、放射性のヨウ素は存在しない。ヨウ素は必須微量元素で、咽喉(のど)の近くの甲状腺に集められ成長ホルモンの成分になる。呼吸や水・食物をとおして放射性ヨウ素を取りこむと、ふつうのヨウ素と同じように甲状腺に集められ、甲状腺が集中的に被ばくする。
ヨウ素131の半減期は8日なので半年後にはほとんど消滅する。しかし遺伝子についた傷が残ると、甲状腺ガンを引き起こす。チェルノブイリ原発事故による子どもの甲状腺ガンは事故の5年後に現われ始め、10年後にピークになった。発症率は、汚染地区が多いゴメリ州全体で、子ども約1000人に1人。

③セシウム137
セシウムも678℃で気体になるため、原発事故で放出されやすい。
セシウム137は、半減期が30年と長い。またセシウムは土壌粒子と結合しやすいため長い間地表から流されない。このため、短寿命の放射性核種やヨウ素131が消滅したあとにも残る。地面から放射線を放ち続け、農作物にも取り込まれて、長期汚染の原因になる。
旧ソ連では、セシウム137が1平方メートルあたり150万ベクレル以上(1平方メートルあたり0,004グラム以上!)の地域を強制立退き地域にした。高濃度汚染地域は、チェルノブイリ原発から約250kmの範囲に点在している。
過去には、1960年代末までの大気圏核実験によって1憶8500万京ベクレルという、膨大な核分裂生成物がばらまかれ、地球全体を汚染した。核実験によるセシウム137は、現在も海水・地表・大気中に残っている。

(④プルトニウム239)
プルトニウム239は原発事故ではあまり遠方には放出されず、大部分は事故原発の敷地周辺にとどまると思われるが、参考のために記す。プルトニウム239は核分裂反応でつくられるのではなく、核分裂反応により放出される中性子を燃料棒中のウラン238が吸収して生み出される。プルトニウムは94個の陽子をもつ。天然には陽子を92個もつウランよりも陽子数が多い元素は存在しないので、陽子を93個以上もつ人工元素を超ウラン元素という。
プルトニウム239の半減期は長く2万4千年もある。これは地球の年齢とくらべれば十分に短いが、人間の時間から見れば半永久的に長い。
こないだ説明しがゴフマン博士の考え方は、「線形しきい値なし仮説(LET)」という名前が付いている。それについて、ICRP(国際放射線防護委員会)の2007年の勧告について、わかりやすい説明が出ている。

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放射線防護におけるICRP新勧告案の動向とその課題
関係法令等検討小委員会
自治医科大学RIセンター   菊地 透


2-2 低線量の健康影響

低線量放射線におけるヒトの健康影響においては,確定的影響は起きない.低線量被曝において起こる可能性は,確率的影響である.発癌など確率的影響は,環境影響との複合影響と考えられ,線量と線量率が低くなるほど,発癌の誘発リスクは小さくなる.しかし,低線量における発癌リスク評価の基礎となっている日本の原爆生存者に対する疫学調査からは,低LET放射線に関して約50~100mGy以下での過剰リスクの有無を証明することは期待できない.

一方,分子遺伝学から疫学研究を補足すると,ヒトおよび実験動物の発癌の機序は細胞核染色体中のDNAが標的であることが証拠付けられている.照射を受けた細胞にはDNA損傷を修復する能力があり,変異や発癌リスクが軽減されることを示す証拠は数多く発表されている.

しかしながら,放射線照射によるDNA損傷は複雑であり,損傷を正確に修復することは非常に難し
い.これらの結果をまとめると,細胞中のDNA損傷修復作用は放射線による発癌リスクを相当に軽減するという説は大いに考えられるが,現在までの知識では低線量における発癌リスクは,その修復機能によってすべて消失すると考えるまでには至っていない.

結論としてICRPは,確率的影響のしきい線量は存在しないとする仮説を支持し,低線量・低線量率の被曝においても,放射線防護上の確率的影響は線量とともに増加すると考えている.

2-3 しきい値なしの問題

 発癌等の確率的影響に対して,「しきい値なし」の考え方は,線量に比例し線量がゼロになるまで成り立つことになる.このしきい値なしの直線仮説(LNT: thelinear non-threshold theory)は,高線量・高線量率の研究に基づいている.このLNT仮説を,低線量・低線量率に導入することへの反論は多く,ICRPがしきい値なしのLNT仮説を支持し続けることへの批判は根強い.

そのためしきい値なし問題は,最近の世界中の関心事であるが,残念ながらアポトーシスや免疫適応応
答などによって,直ちに具体的なしきい値の根拠を示すまでには達していない.しかし,ICRPがLNT仮説を厳格に適用することで,ごく微量の被曝に対しても,癌等の健康影響が起こるとして過剰なまでに放射線に対する不要な恐怖感を与え,結果的に有限な資源の浪費と大きな経済的負担が増大するとの反省もある.

このような状況において低線量の放射線影響研究に対する期待は大きいが,現在のところ,LNT仮説は
低線量の放射線影響の研究が飛躍的な発展を遂げない限り,数年の間には解明できない問題と考える.

 クラーク自身も放射線発癌は,癌にまで至る一連のプロセスは単一細胞のDNAから始まり,自然放射線レベルをわずかに超える程度の線量では,DNA修復メカニズムは変動しそうにないので,しきい値の存在はないと考えている.LNT仮説は放射線に対するリスクを安全側に見積もるものであり,放射線防護が強化される方向になるので,ICRPは,これまで通り確かなしきい値の存在が科学的根拠で証明できない限り,現在の方向性維持を望んでいる.また,確率的影響にしきい値が存在することは,防護がさらに複雑となり計画的な防護が困難となるので歓迎していない.

http://nv-med.mtpro.jp/jsrt/pdf/2002/58_3/330.pdf