“小精神療法”というのは、精神科外来におけるうつ病の精神療法として、40年前に、名古屋大学精神科教授だった笠原嘉先生が提唱されたものです。精神科医なら誰でも知っているもので、40年たった今もまったく色あせていません。私が研修医の頃、笠原先生のセミナーに参加しましたが、その時の記憶が今も鮮明に残っています。その穏やかな表情、落ち着いた話しぶりに接して、「この先生の言うことなら信頼できる」と確信したものです。これこそ、「内因性うつ病」の精神療法の全てだと、今でも思っています。素晴らしいものほどシンプルなものです。

 

 笠原先生の小精神療法(7か条)

①    うつ病は病気であり、怠けではないことを理解してもらう

②    できる限り、休養を取ることが必要

③    抗うつ薬を十分量、十分な期間投与し、欠かさず服用するよう指導

④    治療には、およそ3か月かかることを告げる

⑤    一進一退があることを納得してもらう

⑥    自殺しないように約束する

⑦    治療が終了するまで、重大な決定は延期する

 

 初診時、うつ状態で頭が回らない患者さんに、この7か条をすべて理解してもらうのは難しい。家族が同伴していれば、その家族に向けて説明するのが有効です。ゆくゆくは、患者・家族・友人・職場の上司などの共通認識になることが望ましい。

 内因性うつ病のうつ状態は、薬物療法の比重が大きい(薬が良く効く)。しかし、この7か条は、何度でも繰り返し伝える必要がある。「この先生、また同じこと言ってるわ」と思われるくらいまで。

 内因性うつ病のうつ状態は、薬物療法がうまくいけば、行動活性化療法などが有力で、性格要因に踏みこむ必要があまりなく(患者さん自身もそれを望んではいない)、診察時間が短くて済み、精神科医にとってはありがたい患者さんが多い。短時間でも“小精神療法”のツボを押さえていれば、60分の精神療法に勝るとも劣らないと思う。

 

 内因性うつ病の症例としては、

うつ病を考える(2)”内因性うつ病”の症例、* 精神科医は「自分は幸せだ」と思っている

 

*神経症性うつ病、双極性障害、非定型うつ病などのうつ状態では、小精神療法だけというわけにはいきません。