深く暗く、そして濃い。どこまでも沈んでいく。何も感じない。光もなければ形もない。ただ、心だけはあるようだ。あるかなきかの感情、それが全てだった。

渇望。それが心の在りようの、全てだった。

 何を望んでいるのかは、わからない。ただ、望んでいる。心が燃え盛っている。全ての場所に行き、全ての場所に戻ってきた。しかし何も手には入っていない。心の渇きが、心を掻きむしった。ただ、燃えている。その炎にすべてを委ねる事、それができる事の全てだった。

 夢、志、想い、どれも違う。どれも求めてはいない。己が求めるもの、心が燃え盛る先に見えるもの、それだけを望む。今は何も見えない。生も死もない。何にも絆されない心の自由が、そこにはあった。

 自由といっても、心躍るものではない。いうなれば、出口のない迷路に足を踏み入れる自由。答えのない戦に身を投じる、修羅の道を往く自由。自分がそこに、何のためらいもなく進んでいくのを、ただ感じるだけだった。

 目を覚ましてから、十日が過ぎていた。

 先日の戦で、死にかけたらしい。首の血管が破れ、普通なら即死するところを、毛定の手術で一命をとりとめたらしい。そして血を失いすぎた馬超の身体に、父の血を注いだという。他人の血を身体に注ぎ、息を吹き返した例は今までにないらしく、狄道の民は、それを奇跡だと喜んだという。

 その民の笑顔も、馬超には索然としたものに感じられた。命というものに、どこか諦念のようなものを抱くようになったのかもしれない。

 心の中に、確かなものが何一つとしてない。それが、今の自分だった。

 目覚めてからの十日間。馬超はひたすらに、鉄を打っていた。

 武器を作るためである。目覚めて最初に父と向き合った時、まず初めに出た言葉が、刀鍛冶に引き合わせてくれ、という言葉だった。父は無言で頷き、高平という刀鍛冶を紹介してくれた。鉄を打ち続けて鍛えられた、高平の屈強な体躯を見て、馬超は思わず頭を下げた。高平の身体には、確かに何かが宿っている。今の自分にはない、確かな何かが。それがはっきりと感じられたからだった。

 そんな馬超をみて、高平は一塊の鋼を差し出した。質の高い、日本の砂鉄から造った鋼だという。

 その日から、馬超と高平は、鋼を叩き続けた。無心に、無言で、叩き続けた。高平もまた、鋼にある想いを込めて打っているように思えたが、あえてそれを訊くことはなかった。

 未熟だった。強くなったつもりでいた。それだけは骨身に沁みている。自分を鍛え直すというよりは生き直すつもりで、全てを変えたかった。その為に、鉄を打っている。

「やめだ、馬超」

 不意に、高平が言った。馬超は顔を上げ、汗にまみれた高平を見た。

「お前の槌には、不純なものが多すぎる。このままこの鋼を打っても、形の在る武器にはなるまい」

 高平はそれだけ言うと、馬超に背を向け、去ろうとした。

「俺は、何をすればいい」

 馬超は高平の背に向けて、叫んだ。高平は一度歩みを止めたが、またすぐに歩きだし、工場を出ていった。