東京瘋癲酔人日記 -3ページ目

東京瘋癲酔人日記

夜の街で飲み歩く、私、安吾の日記。

キャバクラ、BAR、居酒屋などで見かけた様々な事柄を綴りながら、自作の小説も発表しています。

クリスマス・イブだというのに、予定のないオレ。

一人、行きつけの寿司屋で呑もうと池袋西口へ。
すると携帯がなる。
「取締役、トラブルです・・・」
部下の山内マネジャーからの電話だった。
うちの会社がプロデュースしたクリスマスイルミネーションが、都内に数カ所あり、そのうち二ヶ所で、イタリア製のLEDライトの点滅が不安定だというクレームが来ているということだ。
「LEDライトの輸入元には、連絡をしたのかな?」
「すぐに連絡をとっています。原因は、すでにわかっているようで、その対応にあたっているようです。回路の一部を直せば、すぐに安定するそうで、大きな問題はありません、とのことでした」
「では、私たちも現場に行って補修に立ち会おう。豊洲と池袋だね、クレームが来ているのは?」
「そうです。豊洲の方が数が多いので、collezioneの杉崎さんが、むかっているとのことです。池袋は1ヶ所だけなんで、松村さんが向かっています。」
collezioneは、LEDライトの輸入元で、杉崎は、その代表だ。
「松村さん・・・知らない方だな」
「そういえば、取締役は、まだ、お会いになったことはないですね。最近、入ったスタッフですけど、しっかりした人ですよ。打ち合わせで何度か会いましたが」
杉崎とは、長く仕事をしており、信頼できる男だ。プライベートで一緒に飲んだりもする。その杉崎が行かせたスタッフなら、問題ないだろう。
「わかった。私は、今、池袋にいるから、池袋の現場に行く。山内は、豊洲へ行ってくれ」
「かしこまりました」

大きな吹き抜けを利用して設置されたツリーは、ぱっと見は、問題ないように見える。しかし、よくよく見ると、一ヶ所、点滅がおかしい。
ツリーから少し離れたところに、このファッションビルのイベント担当の望月課長、ツリーを設置した施工会社グッドスペースの嶋川社長が立っている。その嶋川社長に対して、何かを訴えかけている女性がいる。
「望月課長、ご迷惑をおかけして、申し訳ございません」
「安吾取締役。素早い対応をしていただいて、すいませんね。大きな問題ではないですが、やはり、補修をお願いしたいと思いまして」
「いや、そう冷静にご判断頂けると、助かります。嶋川社長、手配はできていますか?」
嶋川社長は、口が立ち、頭は良いが、たまに目配りが足らず、ミスが出る。
「あと30分ほどで、電気屋が来ます・・・」
そこまで言ったとき、
「失礼します。Collezioneの松村です」
と先ほどの女性が、名刺を差し出してきた。
そこには、見たことのある顔が・・・・
前に短期間だけ「キャバクラ スプレンディ」にいた玲香だ。
玲香は好みだったが、スプレンディには、指名嬢がいたので、
場内するつもりでいたが、いつのまにか、スプレンディを辞めていたのだ。
そのスプレンディ、今は閉店して、指名嬢も飛んでしまっている。
・・・松村史子・・・
「安吾です」
名刺を渡すが、オレのことが覚えているのかどうか判断できる要素は、表情にはでない。
玲香、いや、松村史子の話は、こういうことだ。
実際に施工したグッドスペースに渡した仕様書と違う配線をしているため、点滅に不具合が生じている。
その件を、嶋川に訴えていたのだ。
「嶋川社長、そうなんですか?」
「すいません。最終チェックができていませんでした」
「まぁ、原因がわかり、すぐに補修できるわけですから」
望月課長が、嶋川社長をとりなすように言う。
・・・・だいぶん、おごってもらったな・・・・
嶋川社長は、望月課長を飲みに連れ出したようだ。こういうところは、抜け目ない。ただ、そういう保険が活きていることも事実で、嶋川社長の頭の良さを物語ってる。
30分後、電気屋が到着し、補修に入った。
望月課長は、一旦、事務所に戻り、嶋川社長は電気屋の作業を見守ってる。
自然と、玲香と二人になった。

「杉崎代表から聞いて『ひょっとしたら』と思ってたんですよ」
玲香は、やはり覚えていたのだ。
「オレも、最初見たとき、少し、びっくりした。よく、覚えてたね?」
「私、安吾さん、気になっていたんですよ」
「またまた、うまいなぁ・・・杉崎から営業してこいって、言われたか」
「違いますよ。安吾さん、聞き上手でしょ。女の子が自然にしゃべれる
 雰囲気作るし、新人の子にも、意味もなく怒ったりしないし。
 男子にもえらそうにしないし」
「ずいぶん、もちあげるなぁ・・・オレは、自分が心地よく飲む環境を
 つくっているだけで、自分のためにやってるの」
「そうやって、悪ぶったり、それから、笑わせてくれるのも、いいですよ」
作業は無事に終わりそうだ。
「このあと、何かご予定はありますか?」
「オレ? オレは、ばあちゃんの遺言で、誕生日とクリスマスと
 バレンタインはキャバクラ行かないから、なんにもないよ」
「スプレンディにいた麻菜を覚えてます?」
「覚えてるよ、呑みっぷりのいい子で、玲香と・・・いや、松村くんと仲がよかったよね」
「仕事終わりに麻菜とよく行ってた和食屋さんがあって、実は、麻菜、そこに勤めていた板前さんと結婚したんですよ」
「そうなんだ・・・あの麻菜ちゃんが」
麻菜は、飲みっぷりを武器に、随分、太客をひっぱって、その金をホストに貢いでいたと聞いていたが・・・
「なんか、ある時期からホスト遊びを止めて、貯金しだしんですよ。それで『なんかあったの』って訊いたら、上原さん・・・その板前さんですけど、上原さんとつきあい始めて、結婚して店を出すことを決めたんだって」
「そうか、そういう、いい上がり方もあるな。良かった」
「それで、今夜は、二人が出したお店で過ごす約束を、麻菜としてるんですよ。安吾さん、一緒に行きませんか」
「だって、誰か、待ってるんだろう、そのお店に」
「誰も待っていませんよ」
「そうか・・・それなら」
今年は、ばあちゃんの遺言が守れそうだ。
最終チェックをして、問題ないことを確認すると、嶋川社長が
「これから、お詫びも兼ねて望月課長といっぱい行くんですか、安吾さんもどうですか? お詫びしたいし」と誘いをかけてきた。
いつもなら乗るオレだが、
「今夜は、先約があってね」と断る。

麻菜夫婦の店には、確かに玲香、いや、史子を待つ人はいなかった。
上原さんが出してくれた新鮮なカワハギの薄造りで、岐阜の銘酒「三千盛」を、二人で何杯も空ける。
「私、貿易の仕事がしたかったですよ、学校出たら。スプレンディが閉店したあと、ある程度蓄えができたんで、勉強に専念してました。
「それで、会うこともなかったんだね」
「私を捜していました?」
史子が、酔っているのか、ものうげなまなざしで見つめてくる。
「大学四年の、ある日、何気なく入ったお店に、すごく素敵な食器があって、それを輸入していたのが、Collezioneだったんですよ。それで、調べてみると、Collezioneって、ものすごく素敵な商品を輸入していることを知ったんです」
杉崎の会社は、分野を限定しないで、イタリアで自分の目にかなったものだけを引っ張ってくる商売をしている。
「海上運送会社の内定もらっていたんですけど、どうしても、Collezioneで仕事がしたくなって。募集していなかったんですけど、売り込みに行ったんです」
「大胆だなぁ」
「でも、代表から『今は欠員がないから、その内定もらってる会社に行きなさい。そこで働いてみて、それでも、どうしてもうちに来たかったら、もう一度考えるから。』って言われて」
「杉崎らしいな」
「それで、海上運送会社に勤めながら、たまにアルバイトみたいな感じで、Collezioneに行ってたんですよ。行くたびごとに、代表から宿題みたいなものがでて、それをやっていくと、いろいろ示唆してもらえて」
「それも、杉崎らしいな」
「それで、この9月に『そろそろ、うちで働いてみるか』って言われて、1年半勤めた会社を辞めて、Collezioneに入りました」
「楽しいか、仕事?」
「楽しいですよ。ものすごく充実しています」

「史子、盛り上がってところわるいんだけど、そろそろ、お店閉めないと」
「ごめん、健二くんを迎えに行く時間だもんね」
結婚した麻菜には、すでに子供がいて、11時半には店を閉めて、子供を迎えに行くのが日課のようだ。
「それに、松村さんも、そろそろ帰ってくるでしょ」
「そうだ『12時までには帰る』って言ってたんだった」
・ ・・松村さん?
「それじゃ、お勘定してくれ。ここは良い店だから、今後も来るし、今日は、奢るよ」
「安吾さん、楽しい時間をありがとうございます。それに奢って頂いて。申し訳ないですが、夫が帰る前に家にいたいんで・・・」
・ ・・夫?
先に出ていく玲香を見送ることになった。
「史子、結婚したんですよ。随分、迷ってたみたいだけど」
後片付けをしながら麻菜が言う。
「松村さん、ほんといい人で。でも、史子、迷ってたみたいで」
「なにに?」
玲香が結婚していた事実に、すくなからずびっくりしながら答える。
「・・・あのね、史子、ほんとに安吾さんが気になってたみたいで」
「そうなんだ・・・」
「運命ですかね、こういうすれ違いも。私も、ダンナにあって人生変わったし。今は、史子、吹っ切れてるみたいだし・・・」
「それじゃ、ごちそうさん」
「また、来てくださいね」
「指名料とかない店だから、また来るよ」

ごめん、ばあちゃん、やっぱり遺言、守れないわ

今からなら、望月課長と飲んでいる嶋川社長に合流できそうだ。
きっと、Club Hachirohだろう。
新しく店長になった木村からも営業来ていたしな・・・

♪ Last Christmas I gave you my heart

失恋ソングを鼻歌で歌いながら、いつの間にか降り出した雪の中を、傘も差さないで歩いていく。


街がくれた偶然の苦いクリスマスプレゼント。
クリスマス・イブだというのに、予定のないオレ。

一人、行きつけの寿司屋で呑もうと池袋西口へ。
大将や同じような境遇の男達と愚痴りながら
新鮮なカワハギの薄造りで、岐阜の銘酒「三千盛」を空ける。
「こうやって過ごすイブも悪くない」と思いながらも
どこかに、冷めた自分の目を感じる。
10時過ぎ、勘定をしてもらい、
多くのカップルが楽しそうにはしゃいでいる西一番街を
タクシーを探すために歩く。
通り沿いの地下店である「Club Hachiroh」から、
客を送り出しに出てきたキャストに
ふと、目をやると、見たことのある顔が・・・・
前に短期間だけ「キャバクラ スプレンディ」にいた玲香だ。
玲香は好みだったが、スプレンディには、指名嬢がいたので、
場内するつもりでいたが、いつのまにか、スプレンディを辞めていたのだ。
そのスプレンディ、今は閉店して、指名嬢も飛んでしまっている。

「久しぶり。今、ここなんだ?」
「あっ、安吾さん。お久しぶりです・・・そうなんですよ
 でも、実は、今週だけの臨時なんです」
「臨時?」
「そう、臨時。安吾さんは、このあと、どちらかへ行かれるんですか?」
「オレ? おれは、ばあちゃんの遺言で、誕生日とクリスマスと
 バレンタインはキャバクラ行かないから」
「それ、何かのおまじないですか?」
「そういうわけじゃないけどね。でも、久しぶりに玲香に会えたんで
 おまじないを破ってみるかな。臨時の理由も聞きたいし」
「本当ですか? うれしいです」
・・・・・イブも、キャバクラか。でも、玲香なら、いいか・・・・・

店内には、クリスマスソングが鳴り響き、ショー後ということもあって、
店内は、多少空いている。
顔見知りの店頭である飯山に言って、回りに客のいない席に案内させた。
「そのかわり、クリスマスセットでお願いしますね」
「いいよ、飯山さん。それより、無理言って、もうわけないね」
「とんでもない。ゆっくりとしていってください」
飯山が去って、玲香が、水割りを作る。
「すいません、なんか、強制的にセットなっちゃって。
 ここには、指名の方、いらっしゃらないんですか?」
「今、いないよ。ところで、臨時って、どういうこと?」
「安吾さんなら、いいか・・・ 
 ほんと言うと、実は、私、子供がいるんです」
「・・・えっ?」
「大学一年の時につき合っていた彼氏の子供なんです。
 子供ができて、その彼と結婚しました。だから、スプレンディにいた時は
 子持ちの人妻だったんです・・・」
「それは、全然、知らなかったな・・・
 その彼氏、いや、旦那さんは、何をやってるの?」
「彼は、学生です。子供ができて、すぐ入籍しましたが、
 彼のご両親は、反対していました。お父さんが、地元の岐阜で
 事業をなさっていて、
 それをいろいろサポートしてくれる、岐阜選出の国会議員の次女の方と、
 ゆくゆくは、結婚させるお考えだったようで」
「ありそうな話だな」
「私の両親も、反対でした。
 それで、『結婚するなら、仕送りを打ち切る』って言われて。
 休学して、出産して、子育てに専念しました。
 スプレンディの前から、夜のバイトをしてたんで、その蓄えと
 彼の両親からも、仕送りが途絶えたんで、彼がバイトして」
「そりゃ、大変だな」
「裕太、あっ、それが息子の名前なんですけど、
 裕太が預けられるになったんで、夜のバイトを始めました」
「男の子か、かわいいだろうなぁ」
「かわいいですよ、って、親バカですね。でも、また、スプレンディで
 働き始めたあたりから、彼との仲が、少しずつおかしくなってきて。
 彼、つき合ってる時から、私が留学費用のために、夜のバイトしているのを
 知っていたんです。
 口では『理解できるよ』と言いながらも、
 快く思ってなかったようで・・・」
「まぁ、そういう男も多いよね」
「安吾さんは、そう思わないんですか?」
「目的があって、バイトをしているんだから、思わない。
 しかも、自分が呑みにきているのに『なんで、こんなところでバイトして
 いるんだ!』って怒るのも、おかしな話だしね」
「そうですよね。彼は、優しい人なんですけど、そういうはっきり言わない
 ところもあって・・・で、優しい点が、弱さに繋がるところもあって、
 ご両親から説得されて、帰ってしまったんです」
「玲香と子供を置いて? それは、ひどいヤツだな・・・
 ごめん、旦那さんをひどいヤツなんて言って」
「いいんです。私もそう思いますし。それに、もう、別れましたから」
「離婚したんだ」
「そうです。それで、私の両親は、相変わらず私を許してくれないんですが、
 祖母が『しょうがないね』という感じで・・・
 でも、口だけで、本当に私を大切にしてくれるんですけど、
 祖母が、東京に出てきて、裕太の面倒を見てくれています」
「よかったな」
「本当に感謝しています。大学には戻れないんだけど、休学のまま、昼間、
 社員として働いています。ジュエリーメーカーなんですけど、
 社長が・・・うちの社長、私と一緒で、シングルマザーなんです。
 それで、いろいろ面倒みてくれていて『もう少し裕太君が大きくなったら、
 ウチに席を置いたまま、大学に戻りなさい』って、言ってくれています」
「いい社長さんだね。もちろん、玲香は、頭がいいから会社でも、
 役に立ってるはずだよ。だからこその待遇じゃないかな」
「お世辞でも、うれしいです。私、安吾さん、気になっていたんですよ」
「またまた、うまいなぁ・・・営業?」
「違いますよ。安吾さん、聞き上手でしょ。女の子が自然にしゃべれる
 雰囲気作るし、新人の子にも、意味もなく怒ったりしないし。
 男子にもえらそうにしないし」
「ずいぶん、もちあげるなぁ・・・オレは、自分が心地よく飲む環境を
 つくっているだけで、自分のためにやってるの」
「そうやって、悪ぶったり、それから、笑わせてくれるのも、いいですよ」
「やばいなぁ・・・・ドンペリでもあけないと、いけなくなってるじゃん」
「そんなことしなくても、大丈夫です。臨時って言ったじゃないですか」
「そう、臨時だったね。どうして?」
「スプレンディにいた麻菜を覚えてます?」
「覚えてるよ、呑みっぷりのいい子で、玲香と仲がよかったよね」
「そうです。麻菜、今、ここのいるんですよ。それで『この時期、ちょっと
 人手が足りなから、バイトしない?』って誘われて。やっぱり、
 昼のお仕事だけだと、足らない部分もあるんで、それで、一週間だけの
 臨時なんです」
「そうだったのか・・・」
「玲香さん、お願いします」
「呼ばれちゃいました。安吾さん、遅くまでいます?」
「いや、玲香がいるなら、もっと話をしたいな」
今までの柔らかい眼差しと違って、何かを訴えかけるような表情で
玲香は言った。
「私、いろいろバタバタしそうなんで、1回だけ延長して、
 チェックしてください」
その真摯な眼差しを受け止めつつ、オレは、冗談で返した。
「何? それ、おまじない?」
「そうです、おまじない。でも、今度は、おまじない破らないで下さいね」
「わかった」

オレは、おまじない通りに、1回だけ延長してチェックした。
「申し訳ございません。チェックなのに、玲香を戻せなくて」
飯山が、頭を下げる。
「普通なら、ありないことだけど、玲香も『バタバタしそう』と
 言ってたしな」
「そういう言って頂けると、助かります。ありがとうございました」

12時近いこの時間、Club Hachirohでは、送り出しがない。
店の入り口にも、客引きは立ってないのに
階段を登ると人影があった。
いつの間にか降り出した雪のせいで、輪郭がぼんやりしている人影が。
「玲香・・・」
そこには、私服に着替えた玲香が立っていた。
「安吾さん、これから、予定あります?」
「いや、ないけど・・・」
「だったら、私につき合ってください」
「・・・つきあうって」
「祖母もずっと東京にいるわけにはいかなくて、帰ってるんで、
 保育所に裕太を預けてるです。
 臨時で働く代わりに『そのかわり11時半まで』という条件をつけたんです。
 せめて、その日のうちに、裕太に会いたいんで」
「そうだったのか。それで、どうすればいいの?」
「私の裕太に会ってくれません?」
「一緒に迎えに行くんだね」
「そうです。裕太の他に、イブに会いたい人が増えたんで、
 その増えた人と一緒に裕太に会いに行きたいんです、いいですか?」
「・・・玲香」
玲香は、凍えて冷たくなった手で、オレの手を引っ張る。
「行きましょう。意外と近くなんですよ」
「よし、行こう。だったら、泉谷しげるばりに、裕太君に
 『赤鼻のトナカイ』を唄ってあげよう」
「あっ!私も、『赤鼻のトナカイ』、好きです・・・でも、泉谷しげるさん
 って、誰ですか?」
「ジェネレーションギャップって、やつだな」
オレはそういって、心の底から大きく笑った。
寿司屋で感じた冷めた自分の目もなくなってる。

「まっかなお鼻の トナカイさんは」
二人の歌声が、重なり、影も重なる。


街がくれた偶然のクリスマスプレゼント。
クリスマス・イブだというのに、予定のないオレ。

一人、行きつけの居酒屋で呑もうと池袋西口へ。
同伴待ち合わせのメッカである西口交番前に、
ふと、目をやると、見たことのある顔が・・・・
前に短期間だけ「キャバクラ スプレンディ」にいた玲香だ。
玲香は好みだったが、スプレンディには、指名嬢がいたので、
場内するつもりでいたが、いつのまにか、スプレンディを辞めていたのだ。
そのスプレンディ、今は閉店して、指名嬢も飛んでしまっている。

何度も携帯をかけているが、相手は通じず、困っているように見える。
・・・・・同伴、ぶっちされて、困ってるな・・・・・

「久しぶり、困ってるようだね」
「あっ、安吾さん。お久しぶりです・・・そうなんですよ」
「同伴、ぶっちされたんでしょ?」
「わかります・・・。イブ同伴なのに。安吾さんは?」
「オレ? おれは、ばあちゃんの遺言で、誕生日とクリスマスと
 バレンタインはキャバクラ行かないから」
「そうなんですかぁ・・・」
「でも、困ってるんだろ?」
「・・・えぇ。スプレンディ辞めて、実は、実家に帰っていたの、
 お父さんが倒れて。今は、元気になったんで、戻ってきて、
 今の店に入ったんです。でも、入ったばかりで、お客さん少ないし、
 でも、今日は、強制同伴日だから、がんばってみたんだけど・・・」

出勤に備え、同伴前に作ってきたアップの髪の玲香が、うつむく。
白いロングダウン羽織っているが、アップの髪と、多少、違和感がある。

「いいよ、今夜だけ『ばあちゃん、ごめん!』ってカンジで」
「ほんと?」
「そのかわり、お店とか予約してないから、いいところには行けないよ」
「全然、ありがとうごいます」
「クリスマス・イブは、寿司屋がねらい目なの。みんなフレンチとか
 イタリアンでしょ? だから、すいてるし、冬だからお魚も美味しいし」

「そうか、玲香、彼氏、本当にいないんだ」
・・・・・キャバクラ嬢の常套句だけど、今夜はイブだ。信じよう・・・・・

行きつけの寿司屋は、思った通りすいていた。
二人は、すでに、カワハギの薄造りで、岐阜の銘酒「三千盛」を
何杯も明けていた。

「高校まで岐阜にいて、そのころはいたけど、大学で、東京に出てきて
 からは、なかなかできなくて。それに大学2年から、バイト始めて、
 男の人を見る目が変わったし。好きな人もできたんだけど、
 バイトのこと、隠すのイヤだったから話すと、軽蔑されたり、
 軽く見られたりして・・・」
「そうなんだ。オレは、気にしないけど、バイトの事。だって、
 自分で飲みにいってて、気にしたら、ずるいでしょ」
「そうですよね。でも、クリスマスも、彼氏がいたら、絶対に休んでた」
「この仕事、そういう意味では、しんどいよな。でも、しんどいから、
 給料いいんだけどね」
「私、安吾さん、気になっていたんですよ」
「またまた、うまいなぁ・・・早速営業?」
「違いますよ。安吾さん、聞き上手でしょ。女の子が自然にしゃべれる
 雰囲気作るし、新人の子にも、意味もなく怒ったりしないし。
 男子にもえらそうにしないし」
「ずいぶん、もちあげるなぁ・・・オレは、自分が心地よく飲む環境を
 つくっているだけで、自分のためにやってるの」
「そうやって、悪ぶったり、それから、笑わせてくれるのも、いいですよ」
「やばいなぁ・・・・ドンペリでもあけないと、いけなくなってるじゃん」

「私、本当の事しか、言わないですよ」
・・・・ずいぶん、営業上手なんだな・・・・・
「そろそろ、店に入る時間だよな、オレ、先に、会計してる」
「はい」
化粧室に向かう玲香の後ろ姿を見ながら、会計に向かう
・ ・・・・イブも、キャバクラか。でも、玲香なら、いいか・・・・・


外にでると、粉雪が舞っていた。

「イブの夜に相応しい雪だよ。寒いから、早く店に行こう」
そういって振り返ると、玲香が立っている。
「どうしたんだ?」
玲香は、綺麗にアップにした髪の毛をおろしていた。
「お店、休むことにしちゃいました。だから、髪の毛、降ろしちゃった」
「いいのか?」
「安吾さんは、お店行きたいの?」
「いや、店に行きたいんじゃなく、玲香と一緒にいたい」
「私も」
「白のロングダウンには、やっぱり、アップは似合わないな。
 今の方がずっと、いい」
「私もそう思いました。だから、今夜は、キャバ嬢玲香でなく、
 普段の私でいたい、安吾さんと」
「んじゃ、オカマバーで、カラオケでもやるか?」
「カラオケしたい」
「山下達郎ばりに、クリスマス・イブ、唄っちゃうよ」
「それじゃ、私は、CMみたいに、ツリーの影で、待ってます」
「♪サイレンナイト ホーリーナイト」

クリスマス・イブは、実は失恋ソングだが、
それを忘れるほど、二人は酔っていた。

コンビニのビニール傘を差した二人が
降り出した雪の上に残した足跡は、
右に、左に曲がっている。

街がくれた偶然のクリスマスプレゼント。