クリスマス・イブだというのに、予定のないオレ。
いや、正確には、予定はないが、要請はある。
とりあえず、腹ごしらえをしようと、竹富島へ行く。竹富島は、オレが良く行くClub Hachirohに通う客やキャスト達のたまり場となっている居酒屋で、朝までやっている。
店に顔を出すと、板場の本間が
「今日は、竹木さんが釣ってきたカワハギがありますよ」
と勧めてくれる。竹木は「タケキング」呼ばれている釣り好きの常連客だ。
「おつかれっす」
「嶋ちゃん、おつかれ」
Club Hachirohのショーをプロデュースしている嶋村が呑んでいたので、合流する。席には、ショーの振付を担当しているバターもいた。もちろんバターは通称で「濃い顔」をしているから付いた名だ。
新鮮なカワハギの薄造りで、岐阜の銘酒「三千盛」を空ける。
「安吾さん、今日、どうするんですか?」とバターが尋ねてくる。
「オレ? オレは、ばあちゃんの遺言で、誕生日とクリスマスとバレンタインはキャバクラ行かないから」
「そんなこと言わないで下さいよ。今回の自分の振付、自信があるんですから」
今日、Club
Hachirohでは、クリスマスのスペシャルショーをやる。
オレの指名嬢Larkも、乗っている。Larkは、嶋村が厳しい管理をしている中、ショーに乗ったあとも太り続けていて、ショー中、源氏名のLarkをもじって「ラード」と客から声援をうけている。
「指名のLarkちゃんも、乗ってるんだから、観に行ってあげたら」
と竹富島のオーナー、古本が茶々を入れる。
確かに、Larkからの要請はある。
「わかった、ふーちゃんやバターがいうなら、ばあちゃんの遺言、やぶるわ」と席を立った。
Club Hachirohは、地下店だ。入口にサンタの格好をした池畑が立っている。
「いらっしゃいませ。安吾様」
階段を降りると、明津がいて、席に案内される。
しばらくすると、明津がキャストを連れてきた。
「麻菜さんです」
横に座るキャストの顔を見て、オレは驚いた。
「お久しぶりです、安吾さん」
挨拶をするのは、「キャバクラ スプレンディ」にいた麻菜だ。麻菜は、飲みっぷりを武器に、随分、太客をひっぱって、その金をホストに貢いでいたと聞いていたが・・・
「麻菜ちゃん。久しぶり」
「ほんと久しぶりですね。私、先週から年末まで、ちょっとだけアルバイト」
「そっか、アルバイトってことは、本職は?」
「私と一緒にスプレンディにいた玲香、覚えてます?」と言ったあと、麻菜は、オレの耳に口を寄せて、
「仕事終わりに玲香とよく行ってた和食屋さんがあって、そこに勤めていた板前と結婚したんですよ。この店やお客さんには、内緒ですけどね」
と囁いた。
玲香は好みだったが、スプレンディには、指名嬢がいたので、
場内するつもりでいたのだが、いつのまにか、スプレンディを辞めていたのだ。
そのスプレンディ、今は閉店して、指名嬢も飛んでしまっている。
「安吾さん、もうひとつびっくりすること、ありますよ」と麻菜が言い、
ホールスタッフに、灰皿の交換を頼んだ。
新しい灰皿を持ってきたのは、玲香だった。
「おぉ、玲香ちゃん!」
「私、今、ダンスでやってるんですよ」
Club Hachirohでは、ショーにキャストの他、ダンサーを何人か使っていて、ショーのない時間、ダンサーはホールスタッフとして働いている。玲香は、クリスマスのスペシャルショーのダンサーとして、雇われたのだ。
「私、スプレンディの時、安吾さん、気になっていたんですよ」
「またまた、うまいなぁ・・・営業?」
「違いますよ。安吾さん、聞き上手でしょ。女の子が自然にしゃべれる
雰囲気作るし、新人の子にも、意味もなく怒ったりしないし。 男子にもえらそうにしないし」
「ずいぶん、もちあげるなぁ・・・オレは、自分が心地よく飲む環境をつくっているだけで、自分のためにやってるの」
「そうやって、悪ぶったり、それから、笑わせてくれるのも、いいですよ」
「やばいなぁ・・・・場内しなくちゃいけなくなってるじゃん」
Club Hachirohは、ダンサーを場内することもできる。
「お待たせしました、Larkさんです」
指名嬢のLarkを連れてきた明津に、麻菜とリズムと言う名で店に出ている玲香を場内することを伝える。
「来てもらえて、ほんと、助かった。ありがとう」
「バターとふーちゃんに感謝しろよ」
「竹富島で、言われたの?」
「そっ。さっき、場内した麻菜とダンサーのリズムは昔の知り合いだから、店終わりに竹富島で飲み直す約束したんだ、来るか?」
「ごめんさい、今日は、友達と約束あるんだよね」
「おまえ、また、高カロリーラーメンパーティーだろ、また、ラード具合がひどくなるぞ」
彼氏のもとへ行くのだろうけど、それをとがめても、何の特にもならない。
スペシャルショーが始まった。
玲香は、スプレンディにいた頃より大人っぽくなっており、ファンキーとセクシーの景では、非常にいい踊りをしていた。
横についていた麻菜が囁く。
「安吾さん、玲香のこと、好きだったでしょ」
「ばれてた?」
「玲香もそれを感じていたみたい」
「そっか・・・・」
「でもね、玲香から伝えて欲しいっていうから、言うんだけど、玲香、男の人、興味ないんだよね」
「・・・・・えっ?」
「女の子が、好きなのよ、玲香」
「そうだったんだ・・・・・」
「でも、安吾さんとは、友達になりたいみたい。で、自分で言うと安吾さんが気を遣うだろうから、私に伝言を頼んだわけ」
「おれ、ノンケだけど、バイとかに偏見ないし、ゲイの友達もいるから」
「じゃ、友達でいいよね、竹富島だっけ、そこで、盛り上がろうよ」
「麻菜ちゃん、飲むからなぁ」
階段を上がると、雪が降っている。
12時近いこの時間、Club Hachirohでは、送り出しがなく、誰もいない。
「寒いな、竹富島では、お湯割りだな」とつぶやきながら
iPhoneを取り出し、イヤフォンを付ける。
こんなに広い 世界だから
いろんな色の 日々があるの
冷たい涙なら
抱きしめ合って 温めよう
イヤフォンから流れてくる歌を口ずさみながら、歩く。
「そう、人として、支え合えればいいんだ 」
街がくれた偶然のほろ苦いクリスマスプレゼント。