東京瘋癲酔人日記 -2ページ目

東京瘋癲酔人日記

夜の街で飲み歩く、私、安吾の日記。

キャバクラ、BAR、居酒屋などで見かけた様々な事柄を綴りながら、自作の小説も発表しています。

 

クリスマスイブだといのに予定のないオレ

 

いや、正確には、予定はないが、要請はある。

 

とりあえず、腹ごしらえをしようと、竹富島へ行く。竹富島は、オレが良く行くClub Hachirohに通客やキャスト達のたまり場となっている居酒屋で、朝までやっている。

 

店に顔を出すと、板場の本間が

 

「今日は、竹木さんが釣ってきたカワハギがありますよ」

 

と勧めてくれる。竹木は「タケキング」呼ばれている釣り好きの常連客だ。

 

「おつかれっす」

 

「嶋ちゃん、おつかれ」

 

Club Hachirohのショーをプロデュースしている嶋村が呑んでいたので、合流する。席には、ショーの振付を担当しているバターもいた。もちろんバターは通称で「濃い顔」をしているから付いた名だ。

 

新鮮なカワハギの薄造りで岐阜の銘酒三千盛を空ける
「安吾さん、今日、どうするんですか?」とバターが尋ねてくる。
オレ? オレはばあちゃんの遺言で誕生日とクリスマスとバレンタインはキャバクラ行かないから

 

「そんなこと言わないで下さいよ。今回の自分の振付、自信があるんですから」

 

今日、Club Hachirohでは、クリスマスのスペシャルショーをやる。

 

オレの指名嬢Larkも、乗っている。Larkは、嶋村が厳しい管理をしている中、ショーに乗ったあとも太り続けていて、ショー中、源氏名のLarkをもじって「ラード」と客から声援をうけている。

 

「指名のLarkちゃんも、乗ってるんだから、観に行ってあげたら」

 

と竹富島のオーナー、古本が茶々を入れる。

 

確かに、Larkからの要請はある。
わかったふーちゃんやバターがいうなら、ばあちゃんの遺言、やぶるわと席を立った

Club Hachiroh
地下店だ入口にサンタの格好をした池畑が立っている
いらっしゃいませ安吾様
階段を降りると明津がいて席に案内される
 
しばらくすると、明津がキャストを連れてきた。

 

麻菜さんです」

 

横に座るキャストの顔を見てオレは驚いた
お久しぶりです安吾さん
挨拶をするのは、「キャバクラ スプレンディにいた麻菜麻菜は飲みっぷりを武器に随分太客をひっぱってその金をホストに貢いでいたと聞いていたが・・・

 

麻菜ちゃん久しぶり
ほんと久しぶりですね。私、先週から年末まで、ちょっとだけアルバイト

 

「そっか、アルバイトってことは、本職は?」

 

「私と一緒にスプレンディにいた玲香、覚えてます?」と言ったあと、麻菜は、オレの耳に口を寄せて、

 

仕事終わりに玲香とよく行ってた和食屋さんがあってそこに勤めていた板前と結婚したんですよ。この店やお客さんには、内緒ですけどね」
と囁いた。
玲香は好みだったが
スプレンディには指名嬢がいたので
場内するつもりでいたのだがいつのまにかスプレンディを辞めていたのだ
そのスプレンディ今は閉店して指名嬢も飛んでしまっている


 

「安吾さん、もうひとつびっくりすること、ありますよ」と麻菜が言い、

 

ホールスタッフに、灰皿の交換を頼んだ。

 

新しい灰皿を持ってきたのは、玲香だった。

 

「おぉ、玲香ちゃん!」

 

「私、今、ダンスでやってるんですよ」

 

Club Hachirohでは、ショーにキャストの他、ダンサーを何人か使っていて、ショーのない時間、ダンサーはホールスタッフとして働いている。玲香は、クリスマスのスペシャルショーのダンサーとして、雇われたのだ。
スプレンディの時安吾さん気になっていたんですよ
またまたまいなぁ・・・営業?」
違いますよ安吾さん聞き上手でしょ女の子が自然にしゃべれる
 雰囲気作るし新人の子にも意味もなく怒ったりしないし 男子にもえらそにしないし
ずいぶんもちあげるなぁ・・・オレは自分が心地よく飲む環境をつくっているだけで自分のためにやってるの
やって悪ぶったりそれから笑わせてくれるのもいいですよ
やばいなぁ・・・・場内しなくちゃいけなくなってるじゃん
Club Hachiroh
は、ダンサーを場内することもできる。

 

「お待たせしました、Larkさんです」

 

指名嬢のLarkを連れてきた明津に、麻菜とリズムと言う名で店に出ている玲香を場内することを伝える。

 

「来てもらえて、ほんと、助かった。ありがとう」

 

「バターとふーちゃんに感謝しろよ」

 

「竹富島で、言われたの?」

 

「そっ。さっき、場内した麻菜とダンサーのリズムは昔の知り合いだから、店終わりに竹富島で飲み直す約束したんだ、来るか?」

 

「ごめんさい、今日は、友達と約束あるんだよね」

 

「おまえ、また、高カロリーラーメンパーティーだろ、また、ラード具合がひどくなるぞ」

 

彼氏のもとへ行くのだろうけど、それをとがめても、何の特にもならない。

 

スペシャルショーが始まった。

 

玲香は、スプレンディにいた頃より大人っぽくなっており、ファンキーとセクシーの景では、非常にいい踊りをしていた。

 

横についていた麻菜が囁く。
「安吾さん、玲香のこと、好きだったでしょ」
ばれてた?

 

「玲香もそれを感じていたみたい」

 

「そっか・・・・」

 

「でもね、玲香から伝えて欲しいっていうから、言うんだけど、玲香、男の人、興味ないんだよね」

 

「・・・・・えっ?」

 

「女の子が、好きなのよ、玲香」
「そうだったんだ・・・・・」
でも、安吾さんとは、友達になりたいみたい。で、自分で言うと安吾さんが気を遣うだろうから、私に伝言を頼んだわけ
おれ、ノンケだけど、バイとかに偏見ないし、ゲイの友達もいるから

 

「じゃ、友達でいいよね、竹富島だっけ、そこで、盛り上がろうよ」

 

麻菜ちゃん、飲むからなぁ」

階段を上がると雪が降っている
12
時近いこの時間Club Hachirohでは送り出しがなく誰もいない
寒いな、竹富島では、お湯割りだなとつぶやきながら
iPhone
を取り出し
イヤフォンを付ける

こんなに広い 世界だから
いろんな色の 日々があるの
冷たい涙なら
抱きしめ合って 温めよ

イヤフォンから流れてくる歌を口ずさみながら歩く。

 

「そう、人として、支え合えればいいんだ 」

街がくれた偶然のほろ苦いクリスマスプレゼント

 

 

 
クリスマス・イブだというのに、予定のないオレ。

アメリカ支社への出張が思いの外、長引いて、三週間ぶりの東京だ。
英語はしゃべれないし、ロスでは、ほとんどファーストフードだったので、
一人、行きつけの寿司屋で呑もうと池袋西口へ。
大将にアメリカの飯のまずさを愚痴りながら飲むつもりでいくと、
飲み友達の安藤がいた。
「安吾ちゃん、久しぶり」
安藤と、新鮮なカワハギの薄造りで、岐阜の銘酒「三千盛」を空ける。
「三週間ぶりの東京だよ」
「安吾ちゃんに、紹介したい子がいるんだよね」
「彼女、できたの?」
オレより少しだけ若い安藤は、精力的に飲み歩いている。
「そうじゃなくて。Club Hachirohにさ、絶対、安吾ちゃん好みの子が、
入ったのよ。今日、なんか、予定あるの?」
「オレ? オレは、ばあちゃんの遺言で、誕生日とクリスマスと
 バレンタインはキャバクラ行かないから」
「そんなこと言わないで。絶対、気に入るからさ。
安吾ちゃんを連れて行くって、その子にも話しちゃったし」
「キャバクラで過ごすイブも悪くない」と思いながら
「わかった、それじゃ、安藤ちゃんの顔を立てるよ。
ばあちゃんの遺言よりも」と二人で席を立った。

Club Hachirohは、地下店だ。入口にサンタの格好をした木村が立っている。
「いらっしゃいませ。安吾さん、お久しぶりです。今日、どうします?」
「なんかさ、安藤ちゃんが『オレにお薦めの子がいる』っていうから」
「あぁ、あの子ですね。嶋村さんや飯山とも、言ってたんですよ。
『あの子、安吾さんに付けよう』って」
「おまえのお薦めじゃあれだけど、嶋ちゃんや飯山がいうなら正解だな」
「それじゃ、安吾さんはフリー扱いで。安藤さんは、いつもの感じOKですか」

階段を降りると、飯山がいて、席に案内される。
一部ショーが終わったあとで、店は少し空いている。
「安吾さん、すいません。クリスマスセットになってしまいますが、
よろしいですか?」
「良いよ、飯山くん。店がクリスマスプレゼントがわりに、
オレの好みの子を付けてくれるっていうからさ」
飯山が酒を作っていると、綿部が女の子をつれてきた。
「お待たせしました。杏子さんと玲香さんです」
杏子は、安藤さんの指名嬢だ。横に座るキャストの顔を見て、オレは驚いた。
「お久しぶりです、安吾さん」
挨拶をするのは、前に短期間だけ「キャバクラ スプレンディ」にいた玲香だ。
玲香は好みだったが、スプレンディには、指名嬢がいたので、
場内するつもりでいたのだが、いつのまにか、スプレンディを辞めていたのだ。
そのスプレンディ、今は閉店して、指名嬢も飛んでしまっている。
「玲香ちゃん。久しぶり」
「あれ、二人、知り合いだったんだ・・・」
「安藤さんやお店の人から聞いて、ひょっとしてと思っていたんですが。
確信がなかったんで、安藤さんにも言わなかったんですよ」
そこに、ほかのテーブルにいたこの店のショーを
プロデュースしている嶋村が現れた。
「おつかれ様っす。あれ、玲香ちゃん、早速、安吾さんについたの」
「嶋ちゃんさ、安吾さんと玲香ちゃん、知り合いだったんだよ」
と安藤が説明する。
「マジっすか。安吾さん、好み、ブレないっすね」
「今、ここなんだ。まだ、大学行ってるんだっけ?」
「2週間前からですよ。今、4年で、なんとか就職決まったんで
少しの間、2月末まで、バイトしてます」
「そっか。厳しい時に、良かったね」
「私、スプレンディの時、安吾さん、気になっていたんですよ」
「またまた、うまいなぁ・・・営業?」
「違いますよ。安吾さん、聞き上手でしょ。女の子が自然にしゃべれる
 雰囲気作るし、新人の子にも、意味もなく怒ったりしないし。
 男子にもえらそうにしないし」
「ずいぶん、もちあげるなぁ・・・オレは、自分が心地よく飲む環境を
 つくっているだけで、自分のためにやってるの」
「そうやって、悪ぶったり、それから、笑わせてくれるのも、いいですよ」
「やばいなぁ・・・・ドンペリでもあけないと、いけなくなってるじゃん」

ショーに出ている子持ちダンサーのハッピーもテーブルに加わり、
ワイワイと飲み続ける。
「杏子さぁ、聴いてよ。安吾ちゃん『ばあちゃんの遺言で、
誕生日とクリスマスと バレンタインはキャバクラ行かない』
っていうんだよ」
「安吾さんのおばあちゃん、ひどくない?営業妨害だよぉ」
こういう言い方も、かわいく感じる杏子だ。
「営業妨害したおばあちゃんの代わりに、このあと、おごってよ」
「アフター?」安藤が言う。
「そう、玲香ちゃんとハッピーさんと嶋ちゃんたちと、
みんなで竹富島で飲もうよ」
竹富島は、Club Hachirohに通う客やキャスト達のたまり場となってる
朝までやって居酒屋だ。
「私も、安吾さんに、就職祝いしてもらおうっかな」
スプレンディでは、あまり飲まなかった玲香が、
結構飲んで、甘えてくる。
「ごめん、安藤ちゃん、オレ、帰るよ」
「・・・あぁ、そっか」
「安吾さん、帰っちゃうですか?」
「ごめんな、玲香ちゃん。お祝いは、また、今度」
「絶対ですよ」
今までの柔らかい眼差しと違って、何かを訴えかけるような表情で
玲香は言った。

階段を上がると、雪が降っている。
12時近いこの時間、Club Hachirohでは、送り出しがなく、誰もいない。
「ロス帰りには、寒いな」とつぶやきながら
iPhoneを取り出し、イヤフォンを付ける。
今年、一緒になったあいつも仕事だが、
12時過ぎには帰るとメールが来ていた。
「やっぱり、ばあちゃんの遺言は正しい
3月まで、Hachirohはないな・・・」
今頃、安藤ちゃんが、オレが結婚したことを
玲香に話しているだろう。
玲香に後ろ髪を引かれるが、今は、大切なあいつがいる。

クリスマスまで待たせないで
人はなぜ明日を追いかける?
大切な人を大切にする
それだけでいいんです

イヤフォンから流れてくる歌を口ずさみながら、タクシーを探す。

街がくれた偶然のほろ苦いクリスマスプレゼント。
クリスマス・イブだというのに、予定のないオレ。

今年のイブは金曜日。明日の土曜日も、やはり色っぽい話はなく、
友人とゴルフに行くことになっている。
「どうせ、何もないなら、自分へのクリスマスプレゼントを買おう」と、
仕事をかなり早めに切り上げて、目白にあるゴルフショップに向かう。
ここは、目白通りから一本入った住宅地にあり、インポートもののウエアや
キャディバック、オリジナルの小物などが充実している店だ。
目当てのダウンベストを見ていると、勢いよく、一人の女性が店に入ってきた。
あまり広くない店なので、イヤでも目に入る。
「史子さん、珍しく、遅かったわね。あなたのことだから忘れるということは ないと思っていたけど」
この店のオーナーである、早苗さんが、入ってきた客に声を掛ける。
彼女は、オレが仕事でお世話になっている広告製作会社のオーナー、
吹石さんの奥さんで、その佇まいと姿勢の良さは、とても還暦を過ぎているようには見えない。
今まで逃げ回っていたオレに、3年前に吹石さんが
「そろそろ安吾も年貢を納めて、ゴルフを始めろ。仕事で困るだろ」と
新しいクラブセットをプレゼントしてくれ、
「そのかわり、着道楽なオマエにぴったりな店を教えてやる。オレがプレゼン
トしたクラブ代だけ、そこで、ウエアを買うんだな」と早苗さんの店を紹介された。
ゴルフウエアと言えば、
「なんで、メーカーから、プロのように 金も貰ってないのに、全身、ロゴ入りのウエアをみんな着てるんだ」
と思っていたが、早苗さんの店にあるものは、今までの、オレのゴルフウエアの概念を破るものばかりで、
なんでも格好から入るオレは、すぐにゴルフに夢中になった。
「ごめんなさい、早苗さん。いつもは自分の車で来るんですけど、今日は
これから仕事なんで、タクシーで来ようと思ったら、全然、つかまらなくて」
早苗さんにあやまるその横顔は・・・・
前に短期間だけ「キャバクラ スプレンディ」にいた玲香だ。
玲香は好みだったが、スプレンディには、指名嬢がいたので、
場内するつもりでいたが、いつのまにか、スプレンディを辞めていたのだ。
そのスプレンディ、今は閉店して、指名嬢も飛んでしまっている。
「安吾さん、なに、見とれてるの」
早苗さんのその声に、玲香、いや、史子が私の方に振り返る。
「安吾さん? 安吾さんですよね、お久しぶりです」
「あら、ふたりお知り合いなの」
オレが、知り合ったきっかけを話しそびれていると
「安吾さんは、私が学生時代にバイトしていた新宿のお店に、よく、いらして
たお客様なんですよ・・・・・あらっ、ごめんなさい、私のいたようなお店に
行かれること、内緒にしてました?」
「そんなことはないよね、早苗さん」
「そう、私も遊ぶのはかまわないと思ってるんだけど、安吾さん、家庭、もたないし。
でも、安吾さんと史子さんが、知り合いだったとはね・・・そうなんだ」
「それなら、よかった。あれから、7年は経ちましたね。早苗さんには、自分のこと、
全部、お話ししているし、今のお店を出す時も、随分、相談にのってもらって」
「お店やってるんだ?」
「池袋で、54っていうバーをやってます」
「私達夫婦って、子供がいないでしょ。だから、史子さんは、娘のような気がして」
「早苗さんには、ほんとうによくしてもらっていて。安吾さん、このあと、 何かご予定はありますか?」
「オレ? オレは、ばあちゃんの遺言で、誕生日とクリスマスとバレンタインはキャバクラ行かないから、
なんにもないよ。明日は、ゴルフだけど」
「だったら、私の店に来ませんか。いろいろお話ししたいし。私、安吾さん、気になっていたんですよ」
「またまた、うまいなぁ・・・でも、自分の店の営業でしょ」
「違いますよ。安吾さん、聞き上手でしょ。女の子が自然にしゃべれる雰囲気作るし、
新人の子にも、意味もなく怒ったりしないし。 男子にもえらそうにしないし」
「ずいぶん、もちあげるなぁ・・・オレは、自分が心地よく飲む環境をつくっているだけで、
自分のためにやってるの」
「そうやって、悪ぶったり、それから、笑わせてくれるのも、いいですよ」
「安吾さん、史子さんがお客様用に、うちで買ったクリスマスプレゼントを持ってあげてくれる。
そうすれば、一杯ぐらい、奢ってもらえるはずよ」

早苗さんの声に送られて、オレたちは、Bar54へ向かった。
「良い店だね。それにゴルフにまつわるものが、たくさんある」
「私、イギリスの大学に留学したんですよ。そのとき、ゴルフの素晴らしさを知って。
だから、日本に帰ってきて、最初はゴルフ関連の商品を、海外から引いたり、逆に日本のものを
売ったりしようと思ってたんだけど、難しくて。そのとき、『良いお店がある』って聞いて、訪ねたのが
早苗さんのお店だったんです。それで、こんなに良いお店があるんじゃ、自分じゃ勝てないと思って、
やっぱりイギリスで好きになったシングルモルトウイスキーを、ゴルフ好きの人に 楽しんでもらおうと思って、このBarを作ることにしたの。あと、向こうの地酒みたいなシングルモルトウイスキーを引く仕事も、今はしてます」
「すごいな。でも、大変だっただろう?」
「安吾さんだから、いいか・・・もちろん、私一人の力じゃ、無理だった」
まだ、時間が早いせいか、客は誰もいない。オレたちは、数少ないテーブル席に向かい合って座り、1対1で割ったシングルモルトウイスキーを飲んでいる。カウンターにいる、グラスを磨いている男に、自然と目がいく。
「やだ、本宮さんとは、何もないわよ。ねぇ、本宮さん」
「ご挨拶が遅れました。バーテンダーの本宮といいます。史子さんの名誉のために言いますが、
私は、ゲイですから」
おかまバー以外で、ゲイに「私はゲイです」と言われたのは、初めてだ。それだけ、この本宮という男は、真面目なんだろう。
「スプレンディにいた頃知り合った、田淵さんっていう輸入家具を扱う会社をやっているお客様がいて・・・安吾さんがスプレンディに来始めた頃は、もう、お店に来なくなっていたから、安吾さんは見たことないと思うけど」
「スポンサー?・・・・・・ごめん、ストレート過ぎたね」
「いいの、ほんとにそうだから。でも、抱かれたのは、一度だけ。それも、田淵さんが、スプレンディに来ていた頃で、安吾さんがスプレンディに来始 める前。このお店の出そうとしていた頃、偶然、田淵さんに再会して、融資をしてもらったの。でも、融資の見返りに抱かれるのはいやだったから、はっきり 言ったけど、彼は『そういうつもりは、ない』と指一本触れなかった」
「珍しい男だな」
「彼は『君が、自分の夢を形にして、そして、私が貸したお金をちゃんと返す姿をみたいだけなんだ』なんて、言っていたわ」
男の大きさに、確実に嫉妬している・・・。
「でもね、先月で、借りたお金は、全部返し終わったの。ここ2年で始めたシングルモルトの仕事が、
たまたま、時流に乗っちゃって、すごく上手くいったんで」
「そうか、よかったね」
「彼ね、最後の返済に行った時、『もう二度と会うことはないから』と言ってたわ。そしたら、本当に携帯が
つながらなくなって、会社の代表も、別の人に譲って、その人に尋ねても『申し訳ないですが、田淵の意志で、あなたには、連絡先は、教えられません』っていわれちゃった」
自然と、飲むピッチが速くなるオレ。

「あんまり飲んじゃ、明日のゴルフに良くないんじゃないですか」
「そうだね。でも、なんで、54って店なの?」
「パー72のコースで、全部バーディーとると、スコアは54じゃないですか。そこからとったの」
「そうなんだ。でも、そりゃ、プロでも、難しいだろ。オレなんか、永遠の100切りチャレンジャーだし。
いや、100切りどころか、ベストスコアが111だもんな。『100より前に、110を切れ』って、
友達につっこまれてるよ」
「でもね、ジンクスがあるんですよ。ここに来るお客様って、ゴルフの前日に、私に顔を見ると、最終ホールで、自分じゃ考えられないチップインとかをして、思っていたより、スコアが1つ縮まるんですって。だから私の顔を一回見ると、スコアが1つ縮まるジンクス」
「それにあやかりたいな。でも、それじゃ、マイナス1で、110だから、切れないなあ」
「明日、ゴルフ、車で行くんですよね?だったら、もう、お帰りになって、お休みになって、明日の朝、安吾さんは朝ご飯、私は夕ご飯を一緒に食べませんか? 私の家で。そうすれば、私にとっては、お客様のゴルフ前日で、私の顔を二回見るわけでだから、110を切れる」
「いいのか、家になんか呼んで」
「私ね、留学中も、このお店を始めてからも、つらいことがあると、安吾さんが飲んでいるとき、
そう、バカみたいに笑っている時の顔を思い出すことにしてたんだ」
「玲香・・・いや、史子」
「早苗さんに『いい人がいるから会ってみない』と言われたことがあったんだけど、ずっと断ってた」
「そういや、オレも、早苗さんに『身を固めなさい』って、昔から何度も、時には、いろんな女性の写真を見せられたこともあったな」
「私ね、どうしても、安吾さんのあの笑顔が忘れられなくて、断ってた。さっき、早苗さんから『あなたに会わせたかったのは、安吾さんだったのよ。 でも、もう、その必要ななくなったわね』って、メールが来てて。なんで、もっと早く、早苗さんのいうことを聞いてなかったんだろう、私・・・」
史子は、泣いていた。

オレは、史子との約束通りに、朝の5時に、終夜営業のスーパーに向かっていた。夜の間に降り始めた雪で、道路は白く化粧されている。もちろん、ゴルフは中止だが、今は、ゴルフより大事なものが待っている。
幹線道路沿いのスーパーが見えると、赤いコートを着て、買い物袋を下げたまま、道路に出て、オレに手を振る史子の姿が見えた。まるで、サンタクロースだ。カーステレオに合わせて、鼻歌を歌う。
♪ Santa Claus is coming to town
心が熱くなる。
その瞬間、オレが走る車線の右側を、猛スピードで駆け抜けるジープが、急にハンドルとられたのか、スピンして、史子につっこんでいく。
大きく飛ばされた史子から流れる真っ赤な血が、白い雪に、みるみる拡がっていく。
急いで車から降りて、駆け寄るが、コートの赤と血の赤の見分けがつかないほど、オレは、泣いていた。


街がくれた偶然のクリスマスイブのプレゼント。
そして、クリスマスデイの別れ・・・