クリスマス・イブだというのに、予定のないオレ。
そこに、ゴルフクラブやレッスン会の面倒を見てもらっている羽山さんからLINEが入る。
今日の石塚プロのレッスン会、16時の枠に当日キャンセルが出たんで、参加なさいませんか?
自己流でやっても、全く上手くならないゴルフ。そこで最近、羽山さんが主催しているレッスン会に通い始めた。先生は人気レッスンプロ石塚さんだ。人気が高く、予約がすぐに埋まってしまうので、今回、枠を取る事ができなかったが、当日キャンセルが出て、羽山さんが知らせてくれたのだ。
うかがいます
とLINEして、出かける準備を始めた。
レッスン会の行なわれている都内にあるインドア練習場へ行くと、ゴルフ仲間の市川が石塚プロからレッスンを受けていて、その横に、メモを取る女性が立っていた。メモを書き終わり、顔をあげた時、本当に驚いた。前に短期間だけ「キャバクラ スプレンディ」にいた玲香だった。玲香は好みだったが、スプレンディには、指名嬢がいたので、 場内するつもりでいたのだが、いつのまにか、スプレンディを辞めていた。 そのスプレンディ、今は閉店して、指名嬢も飛んでしまっている。
市川のレッスンの間、ウォーミングアップも兼ねて、アイアンを打っているが、どうしても、玲香が気になる。玲香は真剣な表情でメモを取りながらも、石塚プロや市川と話す時、朗らかな表情で、しっかりと受け答えしていた。
レッスンの終わった市川が打席に来た。
「良かったな、キャンセル枠が出て」
「今日、なんも、予定無かったら、助かったよ。行きつけの店の指名嬢からは、ずいぶん、営業が来たけど、ばあちゃんの遺言で、誕生日とクリスマスとバレンタインは、キャバクラに行かないしな。ところで、あの女性、誰なの」
オレは、玲香のことを市川に訊ねた。
「ああ、中島さんのことね。中島さん、ティーティングプロ志望で、勉強ため、無給で石塚プロのアシスタントを、たまにやってるんだって。このレッスン会に来るのは、初めてだけど」
石塚プロは、羽山さん仕切り以外のところでも、レッスン会を数多く行なっている。
やがて、オレの順番が来た。
レッスン打席に行くと、オレの顔を見た玲香は、朗らかな表情を変えなかったし、オレも何も言わなかった。
「石塚さん、よろしくお願いします」
「前回出した、課題、ちゃんと取り組んでくれましたか」
「いそがしくて、なかなか、実行できずにいます。すいません」
「中島さん、真面目な市川さんと違って、こういう生徒さんもいるから、ティーティングって大変なんですよ」
石塚プロが、明らかに冗談とわかる言い方で、玲香に話す。
「市川さんからお聴きになったかもしれませんが、中島さんは、ティーティングプロの勉強をしていて、時々、アシスタントをしてもらっています」
「中島史子です、安吾さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「あれ、中島さん、なんで安吾さんの名前、知ってるの」
オレが、スプレンディで会ってるとは言えずにいると
「昔、アルバイトをしていたお店に、来ていらっしゃったので」
と玲香が答える。
「そうだったんだ。では、レッスン、始めましょう。今日は何をやりますか」
「アプローチのトップが、ひどくて・・・」
レッスンが始まる。
レッスンが終わり、トイレに行き、出て来ると、そこに玲香が立っていた。
「本当にお久しぶりです」
「こんなところで、会うなんてびっくりしたよ」
「こんなところって、ゴルフレッスンで、ってことですか」
「そうそう」
「安吾さん、今日、お時間あります」
「特に予定はないけど・・・」
「私がゴルフに関わるようになったのは、安吾さんのおかけですから、そのお礼を言いたくて」
「オレのおかげ・・・」
「無理言って、本当に、申し訳ありません」
レッスン会のあと、池袋で待ち合わせることになった。
行きつけの寿司屋で、新鮮なカワハギの薄造りを肴に、岐阜の銘酒「三千盛」を、二人で空ける。
「アメリカに留学したくて、その資金を貯めるためにスプレンディでバイトしていたんです。」
玲香は留学先の大学で、ゴルフ部の子とハウスメイトになり、練習を見に行くようになったそうだ。
「たまに、安吾さんの席についたとき、本当に楽しそうにゴルフの話をしていたので、興味を持ったんです。それで、親戚の叔父に教わり、練習を始めて、コースにも出ました。本当に楽しくて。留学先のゴルフ部の練習を見て、そのレベルの高さに『プロにはなれない』とすぐにわかりましたが、ゴルフの楽しさを教えることができたらいいなって思って、ティーティングプロを目指しました。だから、私がゴルフに目覚めたのは、安吾さんのおかけです」
「オレのおかげっていうほどのことはないよ」
「ほんとです。それに、私、スプレンディの時、安吾さん、気になっていたんですよ」
「またまた、うまいなぁ・・・」
「違いますよ。安吾さん、聞き上手でしょ。女の子が自然にしゃべれる雰囲気作るし、新人の子にも、意味もなく怒ったりしないし。男子にもえらそうにしないし」
「ずいぶん、もちあげるなぁ・・・オレは、自分が心地よく飲む環境をつくっているだけで、自分のためにやってるの」
「そうやって、悪ぶったり、それから、笑わせてくれるのも、いいですよ」
二人で杯を重ねる。
「私ね、留学中も、ティーティングプロを目指してからも、つらいことがあると、安吾さんが飲んでいるとき、そう、バカみたいに笑っている時の顔を思い出すことにしてたんです」
「玲香・・・いや、史子ちゃん」
「ティーティングプロになれば、どこかで、安吾さんと再会できるって思ってました。それがかなって、すごくうれしい」
史子のほほに涙が流れる。
「ごめんさい、泣いたりなんかして」
「いや、うれしいよ、そこまで思ってくれていたなんて。オレも早く史子ちゃんを指名しておけば良かった」
「じゃ、ティーティングプロの指名をしてくれますか」
「もちろん」
「でもね、しばらくは、お別れです。私、年明けに、ティーチングの勉強をするために、アメリカに再留学するんです」
「どれくらい」
「二年の予定です。待っていてくれますか」
「もちろん。それまでにオレもがんばって練習して、100を切れるようになってるよ。じゃ、今日は、出発を祝って、盛大に飲むか。」
「うれしいです。朝まで飲みましょう、そして明後日朝まで一緒にいてください」
やっと見つめあえたね もうずっと離さないで
抱きしめてそばにいて 君がここにいるだけで
誰の目も気にしない もうずっと離さないでいて
片寄せて 見上げたの on X’mas day
いきつけのカラオケバーで唄う史子の歌が沁みる。
街がくれた、偶然のクリスマスプレゼント。
