今回のパリ・オリンピックで最も注目している競泳選手は、何といっても池江璃花子選手です。100mバタフライで代表に内定しました。池江選手は、2000年生れの今年24歳です。彼女は自由形とバタフライを専門としており、身長171cm、リーチは186cmと、日本人としては恵まれた体格をしています。彼女は、現在、横浜ゴムとルネサンスに所属しており、個人5種目とリレー3種目、計8種目の日本記録を保持しています。池江選手は、中学生の時に世界選手権に出場するなど、その才能が早くから注目されていました。2016年のリオデジャネイロ五輪では100mバタフライで5位入賞を果たし、2018年のアジア大会では史上初となる6冠を達成しました。

ところが、2019年に白血病と診断され闘病生活を余儀なくされました。その後、2020年に実戦復帰しました。東京オリンピックがコロナ禍で1年実施が延期になったため、病からの復帰後であるにもかかわらず、彼女は東京オリンピックでも3種目に出場しています。池江選手の復活ストーリーは、彼女の強い意志力から生まれたもので、多くの人々に勇気と感動を与えています。私も彼女の泳ぐ姿を中学生の頃から競技会場で見てきました。競泳選手としてまさに最高潮に至らんとしている時に病に倒れました。それがなければ、間違いなく東京オリンピックでメダル獲得していたと思います。大きな病を患って体が痩せ細っても、決して諦めずに復活してきた姿を見ていると本当に応援したくなります。病気になる前と比べるとモデルのように体が細く見えますが、是非、頑張ってもらいたいと思います。

話が変わり、ちょっと前のことになりますが、東京大学新聞が、現役東大生・東大院生360人に対して行ったアンケート調査(2014年11月)で、小学生時代にしていた習い事で一番多かったのは、水泳だったそうです(https://www.todaishimbun.org/swimming0219/)。学習塾などは2番目以降になります。ちょっと驚きますね。どうしてでしょうか?実は、子供の習い事として、水泳は以下のように多くのメリットがあるようです。

⑴ 基礎体力の向上 :水泳は全身運動で、バランスよく体を鍛えることができます。水圧により呼吸筋が発達、心肺機能を向上させることもできます。
⑵ 目標設定と達成感 :泳げなかった子どもが泳げるようになったり、さまざまな泳ぎ方をマスターしたりすることで、達成感を得ることができます。
 目標をクリアする経験をすることで自己肯定感を高めることができる。
⑶ 水難事故の防止 :水泳を知っていれば自分の命を守ることができます。
 2014年に起きた韓国の大型旅客船「セウォル号」沈没事故では、韓国人乗客のほとんどが泳げなかったと言われています。
⑷ 脳の発達 :水中での運動は脳の発達にも良い影響を与えます。水中での運動が脳の発達に良い影響を与える理由はいくつかあります。
 ① 水の抵抗や浮力を利用して体を動かすことで、脳が刺激され、空間的な認識能力が向上します。
 ② 皮膚感覚から神経系に多くの刺激を与え、刺激が脳細胞の活性化につながり、神経と筋肉の連携を促進します。
 ③ 体のバランスを保つために必要な筋肉を鍛えるとともに、脳が活発に働き、バランス能力が向上します。
⑸ 費用 :他の習い事に比べて安いです。

以上は、「子供の習い事」としての水泳の話ですが、人生100年時代における「生涯スポーツ」としても、水泳は素晴らしい魅力があります。生涯を通じてスポーツに親しむことにより、次のような効果が期待できます。

⑴ 健康の保持・増進 :健康寿命を延ばします。生涯スポーツは、体力維持や健康増進に効果的です。
⑵ ストレスの解消 :スポーツはストレスを軽減し、心身のリラックスを促します。日常のストレスから解放される場としても重要です。
⑶ コミュニティの形成 :スポーツは人々を結びつけ、コミュニティを形成します。同じ趣味や目標を持つ仲間との交流することができます。
⑷ 予防医学的効果 :生涯スポーツは疾病予防にも効果的です。運動不足が生活習慣病のリスクを高めるため、生涯スポーツが効果的です。

生涯スポーツは、生涯を通じてスポーツに親しむことで健康的な身体の維持やコミュニティの形成を目指すものです。ランニング、ボウリング、卓球、テニス、ゴルフ、ダンスなども、気軽に参加し、楽しむことができて健康促進に繋がります。しかし、最も「生涯スポーツ」に適しているのが水泳だと思います。水中でのスポーツですので、膝や腰に負荷がからないため、怪我の少ないスポーツです。長く続けていくのに適しています。

7月26日からパリ・オリンピックが開幕します。今年の夏は、パリ・オリンピックを見て、競泳ニッポンと復活した池江璃花子選手を応援してください。そして、生涯スポーツとして、お子さんと一緒に水泳を始めてみませんか?きっと新しい生活が開けてきます。
平井伯昌氏の選手指導論「バケる人に育てる」を社員教育論として読んでみると本当に興味深いものがあります。前回「挨拶や心がけは無理やりでもやらせるべきという信念」を平井氏は持っていると書きました。同氏は「何でそんなことやらなきゃいけないのか」と反発する選手には「つべこべ言わずにやれと」と頭ごなしに言って徹底したと言っています。競泳に限らず、学生時代に体育会に入っておられた方は経験していると思いますが、体育会では先輩たちに挨拶することが基本です。挨拶しなかったら、先輩から「ちゃんと挨拶しろ!」と怒られるのが以前は普通でした。どうして挨拶をしなければならないのか理由は判然としていませんでしたが、受け入れていました。前回、少し触れましたが、どうして挨拶をしなければならないのか、少し掘り下げて考えてみたいと思います。

社会人も「礼儀と規律」が基本です。朝「おはようございます」を言わない、黙って退社する、食事に黙っていく、戻ってきた時も何も言わない、遅刻しても平然としている。そういう社員が結構います。こういう社員に対して上司のあなたは、どのように嗜めますか?それとも、諦めてほっておきますか?

組織活動を適正にコントロールするためには、内部統制が重要です。そして、内部統制の6つの基本的要素のうち「情報と伝達」すなわち「コミュニケーション」が社員教育において、とりわけ重要です。その重要なコミュニケーションの第一歩が「挨拶」です。まずは、組織活動の内部統制について、おさらいをしておきましょう。

内部統制とは、組織が健全に機能するための基準や手続きなどを定めて、その基準や手続きに則った業務の管理・運営をすることを言います。組織の業務を適正に運営するための体制を構築するシステムで、効果的・効率的かつ適正に組織が目的を達成するように、組織内で適用されるプロセスです。内部統制の目的は以下の4つです。

① 「業務の有効性および効率性」の確保 : 組織の業務が効果的に遂行され、効率的に実施されることを確保します。
② 「財務報告の信頼性」の保証 : 財務報告が正確で信頼性のあるものであることを保証します。
③ 「事業活動に関わる法令等の遵守」 : 法令や規則を遵守し、違反を防止します。
④ 「資産の保全」 : 組織の資産を適切に管理・保護するための仕組みを提供します。

また、これらの目的を達成するために、内部統制は以下の「6つの基本的要素」から成り立ちます。

⑴ 「統制環境」 : 組織文化やリーダーシップ、理念、ビジョンなど組織が目指す方向性などを含む環境を整備します。
⑵ 「リスクの評価と対応」 : リスクを評価し、適切な対応策を講じます。
⑶ 「統制活動」 : 組織内のプロセスや手続きを設計・実施します。
⑷ 「情報と伝達」 : 適切な情報の共有と伝達を確保します。
⑸ 「モニタリング(監視活動)」 : 内部統制の効果を監視し、必要に応じて改善します。
⑹ 「IT(情報技術)への対応」 : ITシステムを活用して内部統制を強化します。

すなわち、組織の理念・目的などを明確にして(「統制環境」)、目的の達成を阻害する要因(リスク)を特定して対応策を考える(「リスクの評価と対応」)。また、組織運営の手続きを設計して実施する(「統制活動」)とともに統制活動が有効に行われているかを監視して、必要あれば改善させる(「モニタリング」)。この統制活動を支えるのが、迅速かつ正確な組織内での情報の伝達及び関係者間の情報の共有(「情報と伝達」)と情報技術の活用(「ITへの対応」)ということになります。この6つの基本的要素が調和して円滑に機能することで企業の組織運営が成り立ちます。

私の経験では「挨拶ができない人」は、コミュニケーションが下手です。朝、「おはようございます。」と挨拶が正しくできない人は、お昼休みに、黙って休憩に行ってしまいます。業務を終えて帰宅する時も「お先に失礼します。」とも言わずに帰って行きます。しかし、これが、なぜいけないんでしょうか?つべこべ言わせず徹底するという体育会系のやり方もありますが、ちょっと理由を考えてみましょう。

組織の内部統制から考えると上述の内部統制の6つの基本的要素のうちの「情報と伝達」を適切に機能させることが重要です。すなわち、「ホウレンソウ」が迅速かつ正確に行われなければなりません。職場における上司は部下の管理監督者です。職場においては、部下は上司の指揮命令下に入り、部下は上司の指示・助言を受けて自分の職務を遂行していくことになります。また、上司は、部下の労働時間の管理についても責任があります。

例えば、朝、部下が出社して上司に「おはようございます。」と挨拶するのは、「おはようございます。(ただいま出社しました。業務を開始する準備はできています。)」という意味です。すなわち、部下は「おはようございます。」と上司に挨拶することで、出社したこと(会社の支配下に入ったこと)、これから上司の指揮命令下、業務を開始する準備が整っている旨を上司に報告しているのです。「あれっ、いつ出社したの?」という人が時折います。これでは、上司は、部下の勤務開始時刻を把握できません。上司に挨拶しないということは、極端な言い方をすれば、するべき報告を怠っていることです。挨拶をしないというだけで服務規律違反に問われるようなことはありませんが、もし上司から出社した時に報告するように繰り返し注意されても、それに従わなかった場合は、服務規律違反になる可能性があります。

勤務を終了して帰宅する時も同様です。部下が「お先に失礼します。」と言って帰るのは、「(本日予定していた業務は全て終了しました。特にご指示がなければ、)お先に失礼します。」ということです。上司が「ご苦労様。」と返すのは、「(指示した業務は終わったんですね。)ご苦労様。(今日はこれで結構ですので、帰宅してください。)」という意味です。部下は、その日1日の業務の遂行状況を報告する義務があります。上司は、報告を受けて、業務処理状況を確認する義務があります。時間外勤務を命じる必要がなければ、業務終了を指示して部下を帰宅させることになります。この場合、部下が挨拶もしないで帰ってしまうことは、報告を怠っていること(報告義務違反)に等しいわけで、職場の規律に違反していることになります。

また、「挨拶をする」とは、「相手の存在を認める」ことです。職場という空間に、あなたという存在を認めて挨拶をするのです。「挨拶をしない」ことは、相手の存在を認めないということです。つまり、相手があなたに挨拶をしないということは、あなたは「自分の存在を無視された」ということです。だから、挨拶をされなかった時、不快に感じるのです。挨拶はコミュニケーションの大前提となるものです。なぜなら、相手の存在を認めて、はじめて有効なコミュニケーションが成り立つからです。

朝、執務室に入ってきた時に、誰に対してなのか、はっきりしない挨拶をする人がいます。これは正しい挨拶ではありません。誰に対してしているのか、わかるように挨拶するのが大切です。執務室には、自分の部署の人ばかりでなく、他部署の人もいる場合があります。こういう時に不特定の人に向けて「おはようございます。」と挨拶するのはいいでしょう。ただし、上述したように、朝の挨拶は、「出社及び業務開始の報告」も兼ねているわけですから、直属の上司に対して、はっきりと「おはようございます。」と挨拶をすべきです。また、椅子に座る前に自分の部署の同僚に「おはようございます。」挨拶することも必要です。同僚への挨拶には、「おはようございます。(今日も業務で協力してもらうことがあると思いますが、よろしくお願いします。)」ということが言外に込められています。

挨拶は、何らかの「ホウレンソウ」を兼ねています。「正しい挨拶ができない人」は、「ホウレンソウ」に対する意識が低く、周囲から誤解されることになります。どうして職場で挨拶することが求められるのか?「正しい挨拶」をすることで、内部統制上、大切なコミュニケーションが円滑になるのです。

正しく挨拶することで、職場の上司、同僚に敬意を払い、その日一日、職場でのコミュニケーションを円滑にするよう心がけましょう。
「バケる人に育てる」は平井伯昌氏の選手指導論です。同氏は、アテネと北京のオリンピックで100m、200m平泳ぎを2連覇した北島康介を育てたことで有名な人です。「ちょー気持ちいい」「なーんも言えねぇ」の人の育ての親と言えば、水泳を知らない人でもわかると思います。北島康介の他にも、中村礼子(アテネ200m背泳ぎ銅)、寺川綾(ロンドン100m背泳ぎ銅)などのメダリストも育てました。そんな名伯楽が指導論を書いています。その指導論には、「原石を光らせるタイプ別の指導方法」が書かれています。「伸びる人」はその気にさせるスイッチを押す、「デキる人」は思い込みの小さな箱から引きずり出す、「バケる人」には試行錯誤で可能性に賭ける、というものです。ちょっと以外だったのは、北島康介のタイプです。きっと、本のタイトルにもなっているように「バケる人」だと勝手に決めつけていましたが、そうではなく「伸びる人」でした。あの名言からは想像できませんが、北島は非常に素直な性格で、褒め上げることでその気にさせたそうです。北島は、褒め上げられて、その気になって、オリンピック2種目2連覇の偉業を成し遂げたわけです。

一方、「デキる人」は寺川綾で、何でもそつなくこなしてしまうタイプだったようです。ただし、100mは得意だけれど、200mはダメと自分で決めつけてしまうため、なかなか殻を打ち破れていなかったとのことです。確かに、寺川は高校生の頃から代表入りし、将来を嘱望される逸材だったけれども、なかなかオリンピックのメダルに手が届かなかった人でした。北京五輪後、平井の指導を仰ぎ、見事、ロンドンで銅メダルをとりました。意外ですが、「バケる人」はメダリストではありません。女子自由形短距離の第一人者だった上田春佳。ただし、上田は日本記録保持者でした。自由形短距離は、男女共に世界から水をあけられている種目なので、日本がメダルを獲得するのは難しい種目です。上田は、天真爛漫で、どこかつかみどころのない性格だったようです。平井は、型にあてはめず試行錯誤を繰り返して育てました。こういった型にはまらない人材は、バケる期待感があるのでしょう。

とりわけ、平井の「原石を輝かせる方法論」以上に面白かったのは「コーチング以前のティーチング」の話でした。平井は、水泳以前に「挨拶や心がけは無理やりでもやらせるべきという信念」の持ち主です。「何でそんなことやらなきゃいけないのか」と反発する選手には「つべこべ言わずにやれと」と頭ごなしに言って徹底したと言います。社会人も「礼儀と規律」が基本です。朝「おはようございます」を言わない、黙って退社する、電話をとらない、食事に行く時も黙っていく、戻ってきた時も何も言わない、遅刻しても平然としている。そういう社員が結構います(なぜか女性が多い)。こういう社員に忸怩としながらも小言を言い続けている私にとっては、平井の指導論は、私に拠り所を与えてくれるバイブルなりました。原石である社員を輝かせる前提として人間性の基礎を鍛え上げることが必要です。社員は組織の中で働きます。社員教育で最も重要なことは、組織の内部統制の6つの基本要素のうち「情報と伝達」すなわち「コミュニケーション」だと思っています。

私の経験では「挨拶ができない人」はコミュニケーションが下手です。朝、「おはようございます」と挨拶が正しくできない人は、お昼休みに、黙って休憩に行ってしまいます。業務を終えて帰宅する時も「お先に失礼します」とも言わずに帰って行きます。上司は「あれっ、彼女は帰ったの?」と聞くしかありません。同僚も多くの場合「帰ったんですかねぇ?」のような返答しかできません。管理監督者である上司は、職場における部下の教育指導と安全管理の責任者ですから、その指揮命令下にある部下が上司に挨拶(報告)しないということは職場の規律を守っていないこと(報告義務違反)です。また、「挨拶が正しくできる、できない」は、人間性の基礎と深く関わっています。「挨拶をする」とは、相手の存在を認めることです。あなたは挨拶をされなかった時に不快に感じませんか?「挨拶をしない」ことは、相手の存在を認めないということです。つまり、あなたは「自分の存在を無視された」ということです。だから、挨拶をされなかった時、不快に感じるのです。したがって、挨拶はコミュニケーションの前提となるものです。相手の存在を認めて、はじめてコミュニケーションが成り立つからです。平井の指導論は、競泳ニッポンをチームとして強化を図るためのものですが、社員教育のバイブルとしても有効です。