社員教育論「バケる人に育てる」

平井伯昌氏の選手指導論「バケる人に育てる」を社員教育論として読んでみると本当に興味深いものがあります。前回「挨拶や心がけは無理やりでもやらせるべきという信念」を平井氏は持っていると書きました。同氏は「何でそんなことやらなきゃいけないのか」と反発する選手には「つべこべ言わずにやれと」と頭ごなしに言って徹底したと言っています。

競泳に限らず、学生時代に体育会に入っておられた方は経験をお持ちと思いますが、体育会では先輩たちに挨拶することが基本です。挨拶しなかったら、先輩から「ちゃんと挨拶しろ!」と怒られるのが以前は普通でした。どうして挨拶をしなければならないのか理由は判然としていませんでしたが、受け入れていました。前回、少し触れましたが、どうして挨拶をしなければならないのか、少し掘り下げて考えてみたいと思います。

社会人も「礼儀と規律」が基本です。朝「おはようございます」を言わない、黙って退社する、食事に黙っていく、戻ってきた時も何も言わない、遅刻しても平然としている。そういう社員が結構います。こういう社員に対して上司のあなたは、どのように嗜めますか?それとも、諦めてほっておきますか?組織における内部統制とコミュニケーション、コミュニケーションと挨拶の関係について考えてみましょう。


組織の内部統制も「挨拶」が基本!

組織活動を適正にコントロールするためには、内部統制が重要です。そして、内部統制の6つの基本的要素のうち「情報と伝達」すなわち「コミュニケーション」が社員教育において、とりわけ重要です。その重要なコミュニケーションの第一歩が「挨拶」です。まずは、組織活動の内部統制について、おさらいをしておきましょう。

内部統制とは、組織が健全に機能するための基準や手続きなどを定めて、その基準や手続きに則った業務の管理・運営をすることを言います。組織の業務を適正に運営するための体制を構築するシステムで、効果的・効率的かつ適正に組織が目的を達成するように、組織内で適用されるプロセスです。内部統制の目的は以下の4つです。

① 「業務の有効性および効率性」の確保
・組織の業務が効果的に遂行され、効率的に実施されることを確保します。
② 「財務報告の信頼性」の保証
・財務報告が正確で信頼性のあるものであることを保証します。
③ 「事業活動に関わる法令等の遵守」
・法令や規則を遵守し、違反を防止します。
④ 「資産の保全」
・組織の資産を適切に管理・保護するための仕組みを提供します。

また、これらの目的を達成するために、内部統制は以下の「6つの基本的要素」から成り立ちます。

⑴ 「統制環境」
・ 組織文化やリーダーシップ、理念、ビジョンなど組織が目指す方向性などを含む環境を整備します。
⑵ 「リスクの評価と対応」
・リスクを評価し、適切な対応策を講じます。
⑶ 「統制活動」
・組織内のプロセスや手続きを設計・実施します。
⑷ 「情報と伝達」
・適切な情報の共有と伝達を確保します。
⑸ 「モニタリング(監視活動)」
・内部統制の効果を監視し、必要に応じて改善します。
⑹ 「IT(情報技術)への対応」
・ ITシステムを活用して内部統制を強化します。

すなわち、組織の理念・目的などを明確にして(「統制環境」)、目的の達成を阻害する要因(リスク)を特定して対応策を考える(「リスクの評価と対応」)。また、組織運営の手続きを設計して実施する(「統制活動」)とともに統制活動が有効に行われているかを監視して、必要あれば改善させる(「モニタリング」)。この統制活動を支えるのが、迅速かつ正確な組織内での情報の伝達及び関係者間の情報の共有(「情報と伝達」)と情報技術の活用(「ITへの対応」)ということになります。この6つの基本的要素が調和して円滑に機能することで企業の組織運営が成り立ちます。


「挨拶」の内部統制上の意味?

私の経験では「挨拶が正しくできない人」は、コミュニケーションも上手くできません。朝、「おはようございます。」と挨拶が正しくできない人は、お昼休みに、黙って休憩に行ってしまう人が多いです。業務を終えて帰宅する時も「お先に失礼します。」とはっきり言わずに帰って行きます。しかし、これが、なぜいけないんでしょうか?つべこべ言わせず徹底するという体育会系のやり方もありますが、ちょっと理由を考えてみましょう。

組織の内部統制から考えると上述の内部統制の6つの基本的要素のうちの「情報と伝達」を適切に機能させることが重要です。すなわち、「ホウレンソウ」が迅速かつ正確に行われなければなりません。職場における上司は部下の管理監督者です。職場においては、部下は上司の指揮命令下に入り、部下は上司の指示・助言を受けて自分の職務を遂行していくことになります。また、上司は、部下の労働時間の管理についても責任があります。

例えば、朝、部下が出社して上司に「おはようございます。」と挨拶するのは、「おはようございます。(ただいま出社しました。業務を開始する準備はできています。)」という意味です。すなわち、部下は「おはようございます。」と上司に挨拶することで、出社したこと(会社の支配下に入ったこと)、これから上司の指揮命令下、業務を開始する準備が整っている旨を上司に報告しているのです。

「あれっ、いつ出社したの?」という人が時折います。これでは、上司は、部下の勤務開始時刻を把握できません。上司に挨拶しないということは、極端な言い方をすれば、するべき報告を怠っていることです。挨拶をしないというだけで服務規律違反に問われるようなことはありませんが、もし上司から出社した時に報告するように繰り返し注意されても、それに従わなかった場合は、服務規律違反になる可能性があります。

勤務を終了して帰宅する時も同様です。部下が「お先に失礼します。」と言って帰るのは、「(本日予定していた業務は全て終了しました。特にご指示がなければ、)お先に失礼します。」ということです。上司が「ご苦労様。」と返すのは、「(指示した業務は終わったんですね。)ご苦労様。(今日はこれで結構ですので、帰宅してください。)」という意味です。

部下は、その日1日の「業務の遂行状況を報告する義務」があります。上司は、報告を受けて、「業務処理状況を確認する義務」があります。時間外勤務を命じる必要がなければ、業務終了を指示して部下を帰宅させることになります。この場合、部下が挨拶もしないで帰ってしまうことは、報告を怠っていること(報告義務違反)に等しいわけで、職場の規律に違反していることになります。


「挨拶」はコミュニケーションの出発点!

また、「挨拶をする」とは、「相手の存在を認める」ことです。職場という空間に、あなたという存在を認めて挨拶をするのです。「挨拶をしない」ことは、相手の存在を認めないということです。つまり、相手から挨拶をされないということは、あなたは「自分の存在を無視された」ということです。だから、挨拶をされなかった時、不快に感じるのです。

挨拶はコミュニケーションの大前提となるものです。なぜなら、相手の存在を認めて、はじめて有効なコミュニケーションが成り立つからです。

朝、執務室に入ってきた時に、誰に対してなのか、はっきりしない挨拶をする人がいます。これは正しい挨拶ではありません。誰に対してしているのか、わかるように挨拶するのが大切です。執務室には、自分の部署の人ばかりでなく、他部署の人もいる場合があります。こういう時に不特定の人に向けて「おはようございます。」と挨拶するのはいいでしょう。

ただし、上述したように、朝の挨拶は、「出社及び業務開始の報告」も兼ねているわけですから、直属の上司に対して、はっきりと「おはようございます。」と挨拶をすべきです。また、椅子に座る前に自分の部署の同僚に「おはようございます。」挨拶することも必要です。同僚への挨拶には、「おはようございます。(今日も業務で協力してもらうことがあると思いますが、よろしくお願いします。)」ということが言外に込められています。


「挨拶」は「ホウレンソウ」!

挨拶は、何らかの「ホウレンソウ」を兼ねています。「正しい挨拶ができない人」は、「ホウレンソウ」に対する意識が低く、周囲から誤解されることになります。どうして職場で挨拶することが求められるのか?「正しい挨拶」をすることで、内部統制で大切なコミュニケーションが円滑になるのです。

正しく挨拶することで、職場の上司、同僚に敬意を払い、その日一日、職場でのコミュニケーションを円滑にするよう心がけましょう。