1902年生まれで80歳でこの世を去ったこの著者のことを、
ごく最近、ある本好きの方のブログの本の紹介で知りました。
7歳で失明後、15歳で視力回復。季節労働者として働くあいまに図書館で独学。沖仲士として働きながら50歳近くで初の著書を刊行。哲学者として知られるようになります。(Wikipedia)
数奇な人生を経た哲学者の本を読もうと考え、
自伝を読んで人生をまずたどるか、あるいは
代表作ともなる初めての著書を読むか、はたまた
晩年の日記で考えや時代を見た目を探るか、
悩んだ結果、手始めにこれを読むことにしました。
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安息日の前に / エリック・ホッファー、中本義彦 訳(作品社)
(原題:Before the Sabbath, Eric Hoffer)
1979年原書刊、2004年和訳刊
お気にいりレベル★★★★★
著者が72歳のとき(1974年11月~1975年5月)に
洞察の断片を整理し思考を問いなおそう
と5ヶ月間つけた日記です。
この日記をつけ終えたら自分自身に安息日を与えよう
と考えていたので、このタイトルになったのでしょう。
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彼の日記はこんな問いを考えます。
原子爆弾とスプートニク=初の人工衛星は何を社会に生んだか?
人間性を超越しようという試みは何を生むか?
二十世紀の人類の病とは?
西側諸国がロシア(当時のソ連)を攻撃するなどと信じる、いかれた人間がいるのだろうか?
資産の配分の偏向と経済発展の貢献との関係は適切か?
政治的無秩序をいかにして思慮なき暴力から守るか?
明快に見解を示すものもあれば、
彼もまだ考えて続けている問いも。
また、一度出した答えを後で修正することも。
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この日記を書いたのは米ソ両陣営を中心とした冷戦のさなか、
共産主義を経済体制としてとらえた記述を読むと、時代の経過を感じます。
また、まさにこの日記を書いていた1974~1975年は、
1960年代にアメリカが本格的に参戦して泥沼化したベトナム戦争が、
サイゴンが陥落しアメリカが敗北しようとしていた時期です。
この本のなかでも何度も、1960年代という時代の総括を、著者が読者に促しています。
また、後に勢いを増す自由主義や資本主義についても、
社会的な規律の要否、資本主義の発展とともに生まれる失業を論点にしています。
いまにも通じる論点が、この時代のリアルタイムの叫びとして聞こえてきます。
言葉を尽くして説明することが適切な概念や仕組みも、
SNS上で短時間の映像で共有する風潮の前では、
すでに過去を語る記述になろうとしています。
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なお、一日分の量は長いものではありません。思考の断片です。
著者の見解を裏付ける引用資料の提示はほとんどないので、
ここに示されている認識の基盤となっている事実関係の正しさについては、読み手が検証する必要があります。
日記という舌足らずな手段で、
重要な論点を示し、読者が検証して考える機会を与える書の価値に★をひとつ足しました。
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