[本] 国連事務総長の自己との対話/ 道しるべ | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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ウクライナやパレスチナでの侵略を終わらせることができず、

国連の機能に疑問や懸念を抱く声をききます。
そんななか、第2代国連事務総長の日記を読みました。

ダグ・ハマーショルド(Dag Hammarskjöld)はスウェーデン人、1953年4月10日から1961年9月18日まで事務総長を務めました。この終わりの日付は、彼が、ベルギーから独立したコンゴの動乱の調停に向かう途上で、搭乗機が墜落し死亡した日です。(撃墜との報道もあります*1)

国連の強化に尽した活動を評価され、生前に決定していたノーベル平和賞を没後受賞しました。

日記は、20歳だった1925年にはじまり、死の直前1961年8月24日を最後に終えています。


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ところがこれが、こんな日記もあるのか、と驚く内容でした。
でも発売当時、世界でベストセラーになったと聞き、さらに驚きです。箴言 しんげん 集として受けいられたのかもしれません。

この日記は20歳から記したものですから、後年出版されるなどと思っていません。
国連事務総長を再任される(1957年)あたりから、

後に誰かの参考になる文書として意識されたようです。
没後遺品のなかから発見され、ハマーショルドのメモで託された友人が出版する価値があると考えて世に出ました。

 

 

道しるべ / ダグ・ハマーショルド、鵜飼信成 訳(みすず書房)
1963年原書刊、1967和訳刊、1999年新装版
お気にいりレベル★★★☆☆

毎日記されたものではなく、日付も記されていないものも数多くあります。
そればかりか何があったかということが記されていないのです。
記されているのは、自己との対話、神との対話です。

それを、本の注記やWikipediaを頼りに、国連での出来事と対比しながら、何が起きたときの対話か探りながら読書しました。


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初代の国連事務総長が辞任したとき、
ダグ・ハマーショルドが次代事務総長になるとは誰も、そう本人も想像すらしていなかったと思われます。
国連総会の承認に先だち必要となる、安全保障理事会の推薦で次々と4人の候補に合意をえられず、5人目の候補が彼でした。

そんな時期の日記には、思いがけない機会の訪れに対する戸惑いと自分の使命を自分に問うています。

 

おまえの傾注した努力が≪それを成しとげた≫のではなくて、神がそれを成しとげたもうたのである━━しかし、神がおまえの努力を御業のために使ってくださったのだとすれば、喜ぶがよい。


これは1956年に日本の国連加盟が総会にて全会一致で承認されたときの日記です。
自分自身をほめるにもこんなまわりくどい表現です。


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こんな表現の背景にあるのは、信仰を背景とした「使命」を果たすための彼の「滅私」の姿勢です。

彼が国連事務総長に就いていた1953年~1961年のあいだに起きた主な国際紛争とその関与に次のようなものがあります。
・スエズ危機=第二次中東戦争へ第一次国連緊急軍(UNEFI)派遣
・朝鮮戦争にて非加盟国中国の捕虜となった国連軍のアメリカ人兵士釈放交渉
・コンゴ動乱調停

その他にもパレスチナなど中東やカンボジアなどアジアで紛争が起きている時期でした。

 

おまえの職務は、支配する権利をおまえに与えてなどはいない。ただ、他人が屈辱感なしにおまえの命令を聞き入れることができるよう、自分の生き方を正してゆく義務をおまえに課するにすぎぬ。


自分自身に「おまえ」と呼びかけ、自己に厳しく対しています。
各国の利害が絡む国際紛争に関する決議で安全保障理事会の常任理事国の拒否権行使に直面します。
そんな環境のもとで、ハマーショルドは一切の利害関係に関わらない立場で当事者・関係者間を合意形成に奔走しました。
理想を追うために妥協しない姿勢を持ちながら、時には妥協を見せたのでしょう。彼が苦しむさまがうかがえます。


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おそらく現在でも、表だって見えずとも国連の内外で国際紛争を停止させるべく動いている人たちはいるのでしょう。
それらの人たちが持つ使命感も、ハマーショルドと同じではないまで強いものを持っているのでしょう。



[end]

*1: The Observer, 1/13/2019: Front Page: RAF veteran ‘admitted 1961 killing of UN chief’ New evidence has emerged linking an RAF veteran to the death in 1961 of the UN secretary general Dag Hammarskjöld in a mysterious plane crash in southern Africa. [by Paperboy]

 

 

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