そろそろ四代目の出番かも | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

初めて私が自分の机を持ったのは小学校に入学するときした。
父が日曜大工でつくったものです。

自分の机をもったうれしさより、
机で何をすればいいのだろう、
という疑問の方がつよかった憶えがあります。

すでに机を持っていた兄の後ろ姿はそのヒントにならず、
遊ぶ、食べる、寝るで埋まっていた私の一日に、
机の出番を想像することはできなかったのです。

実際に、教科書置き場以外の用途で使うことはなく、
宿題は茶の間のちゃぶだいですませていました。
なにしろ昭和ですから。


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中学校にあがると、
教科が増えたぶん机上はさらに雑然としても、
定期試験前には急ごしらえスペースがわずかばかり空けられ、
本来の役割を少しは果たす場面がありました。

ただ、いざ使いはじめると、
日曜大工で釘を打って組み立てられた机にはすぐにガタがきて、
抽斗の開け閉めはギクシャクし、
消しゴムを使うと机全体がゆさゆさ揺れるありさま。

高校入学を機に、
お役目御免となった、兄の木製学習机が私のもとへ。
二代目は市販の家具でしっかりしたつくりです。
机の上は教科書に加えて音楽雑誌も増え、高さを伸ばしました。

それでも、受験前の年は8年間さぼったぶんを追いつこうと、
一日5~10時間、ちらかった机の前に座るようになりました。


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二代目は、卒業後40代までもっぱら仕事で使いました。
まだ印刷物が多い時代です。パソコンで生産性が上がったぶん印刷物が増え、
机の上はキーボードを置くのがやっと。
さぞかし、机も息苦しかったことでしょう。

いまから20年以上前、40代で、
転職して仕事が変わり、さらに技術も進み、
職場でも家でも私の机の上から書類が姿を消しました。

技術の進歩は、仕事を減らすのではなく、増やすものでした。
この机のまえで夜明けをむかえたことが何度もありました。


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やがて、娘二人がそれぞれがパソコンを持つようになり、
それまで共用していたパソコン用の机が空きました。
それを三代目として20年以上、いまも愛用しています。
幅90cm・奥行50cm・高さ78cm、キャスタ付きで抽斗のない、机です。

机の上にあるのは、ノートPCとこれから読む本が3冊、そしてコーヒーやウイスキーを載せるコースター。
わずかな仕事も、読書、ブログの読み書きもここでします。


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詩人長田弘に「机のまえの時間」(『世界はうつくしいと』所収)という作品があります。
鉛筆や紙といった、いま机上にものを挙げ、
過去に机の前で読んだ本をおもいおこしていながら、
こんな言葉が続きます。

 

記憶ではない。忘却が、机の上に載っている。
見えないものが載っている机には、
時の埃のように、
語られなかったことばが転がっている。


詩人は心を伝えうと、たくさんのことばを削いで磨いたり、
伝えようとしても表しきれなかったことばに気づいたのでしょうか。

私の机の上では、
薄い内容をかさましするために、
作る資料に必要以上の言葉が盛られたり、あるいは
言葉を重ねて対象を物理的に限定すれば概ね用が足りた
のとは大違いです。

 

世界はうつくしいと / 長田 弘 (みすず書房)
2009年刊
お気にいりレベル★★★★★


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いまでは、仕事も一週間に数時間。
机は主に読書やブログの読み書きに使っています。

いまの、机のまえでの私のくつろぎの時間に、
仕事の方を向いた三代目の表情がそぐわなくなってきました。

そろそろ四代目の足音が聞こえてきそうです。



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