[本] 同化の試み / アフリカの日々 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

1937年に出版されたということは、今から87年前です。
植民地アフリカの人びとに向ける当時のヨーロッパ人の視線を、
いくらかでも再現しながら読めるだろうかと不安でした。

現代の価値観に立って、当時の行為を云々するまえに、
当時の常識や社会の仕組み、著者の気持ちや状況判断など、
当時のありのままを読み取ろうとするのが先決と考えました。

デンマークの貴族の夫人がアフリカ・ケニアのコーヒー農園で、
オーナーとして暮らした18年間を綴ったエッセイです。


*********************

 

 

アフリカの日々 / イサク・ディネセン著、横山貞子訳(河出文庫)
(原題:OUT OF AFRICA, Isak Dinesen
1937年原書刊、1981年和訳刊、2018年文庫化
お気にいりレベル★★★☆☆

アフリカに着いて最初の何週間かでアフリカ人たちに強い愛情をおぼえた著者が「土地の人」と呼ぶ、
現地の人々の暮らしや考え方を、
彼女は優劣の視点ではなく、違いとして受け止めています。

土地の人はスピードがきらいである。(略)時間についても、土地の人たちはゆったりとした交友関係を保ち、退屈して時間をもてあますとか、ひまつぶしをするとかいうことはまったく考えてもみない。実際、時間がかかればかかるほど、彼らは幸せなのである
(『第3部 農園への客たち』より)

遅い、時間にルーズといった批判に流れがちな特徴が、こう描かれています。

一方で、600エーカーのコーヒー園では人を雇い、
1000エーカーの土地を土地の人に貸していたので、
農園主と雇っていた人との間の主従関係には上下が表れます。

ケニア在住中に離婚した夫は登場せず、
恋人といわれている男性については、多くが語られています。

著者がケニアで農園経営に失敗して、デンマーク帰国後に執筆しています。
書くべき題材や自分の考え・理解の整理が、帰国後に施されているかもしれません。
それでも、自分の立場やしてきたことをきれいごとに終わらせず直視しています。

私たち白人はここの人びとから土地を奪った。奪ったのは彼らの父祖の土地にとどまらない。さらに多くのもの、すなわち、ここの人びとの過去、伝統の源、心の寄りどころを奪ったのだ。
(『第5部 農園を去る』より)

 

それでも、高貴な趣味として描かれるハンティングや、
土地の人びととのやりとりのニュアンスに、
現代なら許容できないことが描かれています。


*********************

農園で起きた猟銃事故を裁く正義の土地の人たちの規準、
亡き兄から雌牛1頭を相続した料理人エマの苦悩の理由、
雇人カマンテの発語前の沈黙、
土地の人びとの偏見のなさ
土地の人びとの第一次世界大戦への参戦意欲 etc.

こうした違いの源を著者は丁寧にすくいあげ、ヨーロッパ人が失ったものに気づきます。


*********************

現代の視点から批判されて仕方ないながらも、
土地の人々と同化とまでは言えないものの、
排除せずに受け入れながら共生してきたのは、
著者の根幹に、自然に対してもこんな感覚が根付いているからでしょう。

 

象たちは、世界の果てに約束があるといった様子で、ゆっくりと、決然たる歩調で進んでいった。
(『第1部 カマンテとルル』より)


[end]

 

 

*****************************
作家別本の紹介の目次なら
日本人著者はこちら

海外の著者はこちら
i-ちひろの本棚(読書メーター)はここをクリック
*****************************