[本] 恋人への手紙 / 北緯14度 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

著者は9歳の時にみた打楽器オーケストラの演奏に魅入られ、来日公演を体験しただけでは物足りたくなったようです。

 

どんな太陽の下で、どんな空気の中で太鼓の音が響いているのか。


著者はそれを知りたくて、30年間思い焦がれてきたその指揮者ドゥドゥ・ンジャエ・ローズの故郷アフリカのセネガルに2ヶ月滞在しました。

この本はその紀行文です。
打楽器の熱い演奏、そのカリスマ、それを生んだアフリカ大陸の太陽と大地と人々・・・・・・。
私は「躍動」と「交流」いう言葉を思い浮かべました。
いやでも熱い文章を期待します。

ところが、著者の個性が私の期待をはぐらかし、紀行文の先入観を壊してくれました。


   ◆      ◆      ◆

 

北緯14度 セネガルでの2ヵ月 (講談社文庫) 北緯14度 セネガルでの2ヵ月 / 絲山秋子 (講談社文庫)
2008年刊、2013年文庫化
お気にいりレベル ★★★★☆

 

冒頭から、初期に同行した編集者に対するモンクの羅列に、ドタバタエッセイなのかと懸念しました。
そのすぐあとに「ムッシュ・コンプロネ、」という呼びかけで始まる文章がきました。
どうやら日本に残してきた著者の恋人への手紙です。

 

ダカールはなんか荒涼としていてよさげですよ。夜のほんとの怖さがある感じ。深夜なのにたむろっている人々多数、でもみんなしらふだと思うと怖い。


「ダカール」はセネガルの首都。著者がダカールに深夜着いた時の印象です。
飲酒を禁ずるイスラム教徒が多いことから「みんなしらふ」となります。

少しばかりだらしなく、時にドタバタとして面白い時の過ごしぶりと気分が書かれた本文を縦糸に、恋人宛の手紙を横糸にこの紀行文が組み立てられているとわかり、ほっとしました。
縦糸ばかりのエッセイにはうんざりですから。


   ◆      ◆      ◆

現地のコーディネーターや大使館の女性医務官を頼りにはじめたセネガル暮らしは、二人も日本人女性ということもあり、現地人との知り合いの輪が広がりません。

しかも、2ヶ月間という終わりの決まっている旅でありながら、著者にはそれを、まずいな、と思っていても、焦って軌道修正する様子はありません。
それには、憧れの打楽器奏者には予定さえ空いていれば割合簡単に合えそうなことがわかったことも一因かもしれません。

いつまでたっても、ドゥドゥ・ンジャエ・ローズのあの情熱的なビートを生んだ太陽や大地を実感する日々とは思えず、「何しにセネガルに来たんだ」と読み手の私がページの外からヤジを飛ばす始末です。

それでも、ガードマンや運転手といった現地の人を糸口に、セネガルの窓は開いていきます。


   ◆      ◆      ◆

停電、不安定なネット環境、一品ずつカゴに入れて売り歩く市場といった現地事情に慣れてくるにつれ、著者はアキコと声をかけられる機会も増えてきました。

 

 

セネガルが私の一部になって、日本のなにかが抜けおちた。
ダカールの暮らしに慣れると、日本に帰ってからリハビリが大変だ、と日本人コーディネーターに心配される程度の変化が生まれます。

   ◆      ◆      ◆

ほのかな恋心が芽生えたり、セネガル人だけをあつめてパーティーを催するほど、旅人なりに現地のひとたちと距離は縮まりました。

 

 

 

 

言葉を生業とする私が、言葉じゃないんだ、ということを学んだのはとても大きいと思います。
文章を書くプロとしてなんだか、子どものような感想にちょっとがっかりしたものの、それだけシンプルに強く感じるものがあったのでしょう。

読み手としてプロの書き手絲山秋子に、ムッシュ・コンプロネが架空の人物であってくれたら、という期待を込めてこの紀行文に★をもうひとつ足しました。



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