前世とか生まれ変わりは、小説、映画、アニメ、
おそらくコミックでも、よく鍵として使われる仕掛けです。
最近ではアニメ「君の名は」(新海誠)が話題になりました。
小説でも私の記憶をざっとたどってもこんな作品があります。
時をかける少女(筒井康隆)
いま、会いにゆきます(市川拓司)
異人たちとの夏(山田太一)
リセット(北村薫)
豊饒の海/春の雪・奔馬・暁の寺・天人五衰(三島由紀夫)
秘密(東野圭吾)
こうして挙げてみると、使い古された仕掛けも、
作家の腕次第ですばらしい個性的な作品になることがわかります。
◆ ◆ ◆
午前10:40から午後1:20までの2時間40分の中に
34年間という時の流れが潜んでいました。
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月の満ち欠け / 佐藤正午 (岩波書店)
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小山内堅という男が、青森の八戸から東京駅に出てて来て
ある母娘と会う場面から物語は幕を開けます。
娘るりの唐突な発言に読み手は面喰います。
小山内と母子の関係は? 会う目的は?
次の小山内の回想シーンにより、読者はいくらかヒントが与えられ、
同時に新たな謎を抱えることになります。
そしてこの物語の源となる34年前の出会いが描かれます。
20歳の学生三角哲彦と27歳の既婚者正木瑠璃の
ぎこちなく危うい出会いです。
◆ ◆ ◆
生まれ変わりに気づく本人。
生まれ変わりに気づき、受容と拒絶の間で葛藤する周りの人たち。
誤解から軋轢が生じる人間関係。
読み進むにつれ、その強さを知る、不可解と感動が背中合わせの
ある女性が一人の男を思い続ける強さ。
謎が湧き、答えの一部にたどり着くとほっとするのもつかの間、
また新しい謎がわき、ページをめくる指がとまりません。
◆ ◆ ◆
ラスト5行が読み手にもたらす簡潔な安堵は
読後感をグレード・アップしてくれます。
読んでいる間くすぶり続けた作品の構成に疑問がありました。
主軸に置かれるのが、なぜ源となる三角哲彦ではなく、
小山内堅なのか、という疑問です。
いわばサブストーリーとにも見える
小山内堅の八戸に戻ってからの暮らしと今の思いが、
そう、実は二人の女性の思いの物語であることが、
終盤に明らかになります。
小山内堅が、わざわざ八戸から東京にでて来ながら、
午後1時20分の東北新幹線で帰ることにこだわる理由が、
回想シーンで描かれていた彼の細々とした振る舞いの根拠とともに
浮かび上がります。
このサブストーリーがこの小説の奥行を豊かにしてくれました。
[end]
*** 読書満腹メーター ***
お気にいりレベル E■■■■□F
読みごたえレベル E■■■□□F
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