一瞬の交差のために ~ 「すべての見えない光」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。




メール、LINE、ゲーム、通話、テレビ、ラジオ、ドローン etc.
もし、電波が目に見えたら、
さぞかし空間は乱雑に色々な波行き交っていることでしょう。

むかしは電波を使うのは特殊な人だけ。
仕事以外で使うのはアマチュア無線愛好家くらいだったのでは。
見えても電波はまばらだったでしょう。


◆      ◆        ◆

1934年ドイツの孤児院に暮らす少年が、
拾ってきたラジオを修理して
物理について語るフランスの放送をこっそり聞いていました。

 

 


物語は1944年8月7日北フランスの町サン・マロで幕を開けます。
その日、住民に町から退去を通知するビラが配られていました。

その町で、盲目の16歳の少女が独り家に残されていました。
同じ町の拠点の地下室では18歳のドイツ兵が
アメリカ軍の砲撃に見舞われていました。

少年ドイツ兵はそこで、懐かしい声を受信します。


◆      ◆        ◆

物語は、1934年から10年間、
フランス・パリに父親と暮らす盲目の少女マリー=ロールと、
ドイツの炭鉱町の孤児院で妹と育つ少年ヴェルナー、
交互にこの二人の足取りをたどります。

10年間の足取りと同時に1944年8月との間を交互に行き来し、
やがてこの二人が交差します。


◆      ◆        ◆

ヴェルナーは通信技術を見込まれ兵士養成学校へ進みます。
マリー=ロールは、父親とドイツが侵攻するパリを離れます。
二人に限らずヨーロッパ中の人々が戦争に振り回されています。

  だれもが自分の役割に囚われている。
  みんなも自分のことで必死だよ。

軍が求める立ち振る舞いをしなければ自分の命が脅かされます。
町では食料にも事欠き、町を離れた人の家財が略奪されます。

生と死を間近に実感して自分の命と秤にかけながら、
ヴェルナーは役割から自らを解き放とうかと迷い、
マリー=ロールは自分以外の人のために動こうかと考え始めます。


◆      ◆        ◆

作者アンソニー・ドーアは187のエピソードを積み重ねました。

ヴェルナーの妹、孤児院の女性教師、兵士養成学校での親友・・・・
マリー=ロールの父、大叔父、サン・マロの主婦たち・・・・

日常生活、自然、物理、地理、長大な時間、言語など、
多用な視点から特徴に充ちた人々の行動がつぶさに描かれています。

ドーアは、ヴェルナーとマリー=ロールにそうした人々と出会わせ、
自然や歴史の激流など一人の人間の力及ばなさそうな力の前で
二人それぞれに考えさせ、行動を促します。


◆      ◆        ◆

作者ドーアは最後の2章に戦後のエピソードを置きました。
1944年8月に焦点をおいてきた読者の視点を、無邪気なシーンで
一気に今を考えさせる視点に展開させます。みごとです。



[end]


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