閉じたページの向こう側(7)最終章 後編 | anemone-baronのブログ

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落書き小説根底にあるもの!
私の人生は、「存在しなければ、何を言っても正しい」という数学の存在問題の定義みたいなもの。小説なんか、存在しないキャラクターが何を言っても、それはその世界での真実なのだ。

 

 

閉じたページの向こう側


 私は図書館の入口の近くで、「経済と文学」イベントの資料を整理していた。周りは、ポスターやチラシで溢れており、私自身もその中での没頭していた。
 
 窓の外では、風が木々を優しく揺らし、時折舞い上がる木枯らしが光のイルミネーションを作ってその光景は、図書館の静かで穏やかな雰囲気と対照的な自然の動きを映し出していく。

 イベントの準備には独特の活気が満ちていた。図書館は通常の静けさから一変し、一生懸命働く人々のエネルギーが充満している。学生たちの笑い声、館長の指示の声、そして重たい荷物を運ぶ音が館内に響きわたっていた。

 学生さんの方々にも手伝ってく貰って館長まで腕まくりして荷物を運んだりしている。図書館の業務をこなしながらだから、皆んな総出で頑張っている。
 
 食堂での昼休みは、疲れを癒す貴重な時間。仲間たちとの軽妙な会話は、忙しい一日の中での心地よい休息となっている。
 
 皆んなとお弁当を食べながら雑談をしていると、私の携帯にショートメールが入ってきた。見ると何とトモキさんからだ。


 「突然メールしてすみません。奨学金の最終面談にパスしましたので、スマホ買いました。」
 
「明後日、一時帰国します。マスターの所で会いませんか?時間は後ほど連絡します。」

 トモキさんからのメールは、その穏やかな時間に、心をときめかせる小さな波紋をもたらした。

 私は嬉しくておしゃべりを止めてスマホの画面を凝視してしまった。同僚の幸子がすぐ察して「あらあら。そんな大事なメールなの〜私にも分けて!」と揶揄ってくる。
 
 私は慌てて「そんなんじゃ無いんだから、ただの時事連絡だから」と言うと「時事連絡でそんなに顔が赤くなる物なの〜とろけそうなんですけど、こんな感じで」と幸子が自分の両頬に手お当てて今の私の表情を真似してきた。
 
 私は「そんな顔して無いでしょ」と否定すると幸子は「ホント知恵は正直ね〜」って笑ってた。
 
 幸子のからかいに、私は少し照れくさくなりながらも、内心ではトモキさんとの再会の喜びで満たされていた。

 

 彼からの突然の連絡は、予期せぬ幸せなサプライズで、それが私の一日をさらに特別なものに変えていった。

 昼休みが終わり、私たちはまたそれぞれの仕事に戻った。私の心は彼からのメッセージによって温かくなり、その日の残りの時間は、彼との再会への期待でいっぱいだった。
 
 私達の再会は、Café Lumiéreでの約束とともに、新しい章の始まりを告げていた。


 Café Lumiére
 
 久しぶりにモトキさんと会う、私の心は期待でいっぱいだった。私たちの特別な場所、Café Lumiéreでの再会。

 彼が来るまで私は、マスターと今回の大学図書館イベントの話しをしていた。

 「なるほどね〜。これなら一般の人にとっても分かりやすいわね。」と腕組をしながらパンフレットを見て

 

「私も参加しぃちゃおうかしら、あ~学問がキラキラしてたあの時代に戻りたいわ~」などと大袈裟なディスチャーをして笑わせてくれてた。
 
 その時、携帯にメールの着信が来て、モトキさんからだった。


「電車が遅れてるそうで、少し遅くなるって」メールを見ながらマスターに話した。


「ま〜”おんな”を待たせるせなんて10年早いわよ!ねっ知恵ちゃんなんか食べる?」

 時間ありそうなので、私は思い切って自分の悩みをマスターに聞いてみた。


 「今はまだ大丈夫、それより、ねぇマスター!前にさ、”幸せになりたい?”って私に聞いたこと在るじゃないですか」
 
 「あらっそんな事いったことあったっけ?」ととぼけたように返すと。
 
 「茶化さないで下さい。」と私は、失恋して苦悩してた事や、彼(モトキ)と出会ってから彼の苦労も知らないで有頂天になってた事。

 自分しか見てなかったことに気がついて自己嫌悪に苦悩してた事など。それまでの悩みをマスターにぶつけてみた。
 
 マスターは洗い物をしながら微笑んで私の話を聞いてくれてた。
 
 「そうね~。”大体の人は何かしらの地獄をかかえていて、その地獄を乗り越えつつも、普通に振る舞って生きている” ってことを知ってれば十分なんじゃないかな?って気がするの」
 
 「みんな家庭とか人生とか、何かしらトラブルを抱えてる場合がほとんどだと思うのね。ただ言わないから、それが表に出ないわよね。」

 「表に出さないから、無いかのような気がして ”人生とか家族とかが、一応そこそこスムーズに行ってることが普通なんだ” っていう間違った思い込みを、みんないつの間にか持っちゃてるのかな?って感じがするの」

 私しは、マスターの ”間違った思い込みに、囚われている” 自分自身の感情や欠点を受け入れ、自己受容を行う過程が個人として成長する意味なんだと。
 
 「人々はそういう見せかけに騙されがちだけど、"人生が何事もなく順調に進むのが普通" なんていうのは、ただの幻想よ。」
 
 マスターは更に優しく。「ただね、それぞれの地獄を乗り越えるために、何か特別な強さとかはいらないんじゃないかしら。」
 
「一見、一般社会が求めてるような、持続可能を高める生き方ってプロテクタントの予定説じゃないけど、個人には凄い負荷をかけるものだと思うの」
 
「だから、時々壊れちゃうのが普通なんだと。それも人間らしさの一部なのよ。」
 
「智恵ちゃん。要するに、周りの人とか世の中の人達の、一見つつがなく暮らしているようなポーズに騙されてはいけないってことなんなんじゃないかしら。」
 
 私は、マスターの言葉を聞いて、私はふと気づいた。自分だけが特別に苦しんでいるわけじゃないんだと。

 人それぞれの悩みを抱えながら、毎日を頑張っている。私もその一人。だから、自分を厳しく責めるのではなく、自分のペースで進んでいけばいいんだって思えるように。

 マスターの言葉にはいつも優しく心に響くものがある。

 その時、私は少し肩の荷が下りたような気がした。

 Café Lumiéreの芳醇な香りに包まれて、私はカウンターで、頰杖ながらゆっくりとした時間の中にいた。店内の穏やかな雰囲気と、窓から差し込む柔らかい光が心を落ち着かせてくれる。

 ドアが開く鈴の音とともに、私の周りを取り巻いてた焙煎の香りが、開いたドアの風に流された時、モトキさんの姿が目に入った。

 彼が微笑みながら私の方を見ると、私の心は暖かい感情で満たされ、彼の笑顔には変わらない優しさが宿っていた。

 私は、彼がいない間の図書館での出来事、私の成長、そして「経済と文学」イベントについて熱心に話した。

 彼の目は私の話に釘付けで、彼のその一挙一動が私の心を温かくした。

 彼がアメリカでの経験を話し始めたとき、私は彼の言葉に耳を傾け、彼の目の輝きを見て、彼もまた成長したことを感じた。

 彼の話は、新しい文化や人々との出会い、そしてそこで学んだことに満ちていた。
 
 会話が進む中、彼は突然、ゲーム理論を使って恋愛について語り始めた。

 「ねえ智恵さん、ゲーム理論って知ってる?競争や対立する状況をゲームに例えて、その中での最適な戦略を論理的に導く数学的な手法何だけど、恋愛にも応用できるんだよ。例えば、二人のプレイヤーがお互いの最善の選択を考えるとき、それがまさに恋愛関係における相互作用と似ているんだ。」
 
 彼がゲーム理論を使って恋愛について語り始めたとき、私は思わず笑いがこぼれ「それって、どういうこと?」と私は尋ねた。

 彼のユーモアと分析的な思考が交じり合い、彼の言葉には新鮮さがあった。
 
「だから、お互いが最善を尽くすと、結果的には最高の関係が築けるんだ。」彼の言葉に、私は深く頷いたが、私は意味が分からなかった。
 
 彼はさらにノートを出して式を書きながら続けた。
 
 「例えば、I→{Y↔C}これでCはYに作用する式を①、YがCに作用する②、IはYを決めるがYとCの外にあってYからもCからも作用を受けることはないIは定数として存在する。とすると」
 
「①はY=C+I、②はC=aY+bこれを解くとY=I+b/I-aとC=aI+b/I-aとなりこれを同時因果関係の式になる」
 
 彼は続けて、「この2つの式は同時に成立し、両方合わせて連立方程式のシステムを作っている。これを均衡値って……」

 カウンターの奥でマスターが呆れた様子で、何か作りながら笑っていた。
 
 私は全く理解出来ないでいたので、質問してみた「これって恋愛とどう関係するの。」
 
 彼は一口コーヒーを口に入れて「だから、Y=男、C=女、Iは外からの影響だからこの場合は、時間とか空間、距離でもいいかな。この均衡値はナッシュ均衡と言って……」
 
 その後彼は、少し顔を赤くして「Yの需要にCが供給しCの需要にYが供給し相互関連関係……距離や時間が違っても{Y↔C}は均衡を保ったまま成立する……」
 
 私はやっと気がついて、彼の顔に近づいていたずらっぽく、小さな声で「それって、口説いてるんですか。」
 
 彼は慌てた仕草で「いや、口説くなんて、あの~えっと……」と焦っていいると、マスターが「それだけ無駄に頭使えば腹も空くでしょっ!叔父さんのおごりよ。」っと言って2人分のサンドイッチを持ってきてくれた。私は思わず笑みがこぼれた。
 
 マスターは彼と相づちを打ってガッツポーズして笑いながらカウンターの奥に戻っていった。
 
 彼のゲーム理論に基づく恋愛の説明は、私をとても楽しませてくれた。
 
 マスターがサンドイッチを持ってきてくれたとき、私たちは笑顔で感謝した。温かい心遣いに、私たちの会話はさらに和やかなものになった。

 その後、彼は少し緊張した様子で、少し俯きながら言葉を紡ぎ始め

 「智恵さん、実はずっと考えていたんだ。もっと親密な関係に進展できないかなって。」

 彼は言葉を止めて顔を上げ私の目をじっと見つめて「付き合って下さい。」
 
 彼の言葉に、私の心は一瞬で高鳴り彼の真剣な眼差しに、私は彼の気持ちを強く感じた。

 「モトキさん、私も同じことを考えていました。よろしくね。」
 
 私はいたずらっぽく「I→{Y↔C}ですもんね」と言うと、彼は思わずコーヒーを吹きそうになり笑った。
 
 Café Lumiéreの温かい雰囲気の中で、私たちの間に新しい絆が生まれたことを感じ、お互いの未来について語り合い、それは私たちにとって新しい始まりの瞬間だった。
 


お焚き上げ


 数日後、私の地元の神社で小さなお祭りが開催されていた。

 

 夜が訪れ提灯の柔らかな光が境内を照らし、人々の笑顔と賑やかな声が溶け合う中、私は自分の小説の完成を祝って、モトキさんと共にこの祭りに足を運んでいた。

 

大切に抱えた原稿は、私の達成感と新たな決意を物語っていた。

 賑わいの中、モトキさんが静かに私に話しかけた。

 「智恵さん、その小説、あなた自身のことを書いたんですよね?」

 彼の言葉に、私は驚きを隠せなかった。モトキさんが私の小説の真実を知っていたことに、心の中で感動と深い信頼を感じた。

「はい、その通りです。私の過去と、心の中の想いを綴った物語です。」私は正直に答え、感謝の光を目に宿す。

 私たちは、お焚き上げの場所へと歩いてゆく。そこでは、大きな焚き火が燃えており、人々が思いや願いを紙に書き、炎に委ねていた。

 私は深呼吸をして、小説の原稿を静かに炎に向かって差し出しす。

 紙の端が炎に触れ、ゆっくりと黒く変わり始め炎が原稿を包み込み、やがてそれは燃え上がり始める。私の目に映る炎は過去への感謝と未来への期待が揺らいでいた。

 その瞬間、モトキさんが優しく「智恵さん、手を握ってもいいですか?」
 
 彼の言葉に、私は心から喜びを感じ、「はい、お願いします。」と彼の手をしっかりと握り返した。

 私達は炎を見つめ続け、原稿が燃え尽きる様子は私のとっての過去を手放し、新しい人生の章を開く象徴だった。
 
私たちは手を繋いで境内を歩き始め

 

提灯の光が私たちの道を照らし

 

賑やかな人波の中を進む中で

 

過去の私とは違う

 

未来への一歩を踏み出して感じていた。

 

 新しい旅の始まりを実感しながら、私は心の中で新たな物語を紡ぎ始めていた。
 

 おわり