閉じたページの向こう側(6)最終章 前半 | anemone-baronのブログ

anemone-baronのブログ

落書き小説根底にあるもの!
私の人生は、「存在しなければ、何を言っても正しい」という数学の存在問題の定義みたいなもの。小説なんか、存在しないキャラクターが何を言っても、それはその世界での真実なのだ。

 

 

 

 

 

 

 
 私は、大学から帰ると台所の母に「お母さん御飯作るの手伝うわ。」
 
 母は、少しお驚いた様子で「あら、どうしたの何時も部屋に飛び込んていくのに」
 
「私だって、たまには手伝うわよ」と言うと母は微笑みながら、「ありがとうね。でも先に着替えてきなさい。」
 
 私は部屋に入りスーツを脱ぎ捨て、リラックスできる服に着替え階段を降りてキッチンへと戻る。

「お母さん、手伝えることある?」と私は尋ねると。

 母は少し驚いた表情で「ほんとに?じゃあ、野菜を切ってもらおうかな?」と笑顔で返してくれた。

 私は包丁を手に取り、野菜を丁寧に切り始める。普段はほとんど料理をしない私だが、今日は何か違っていて、包丁を動かす手に不思議と落ち着きを感じている。

「最近、何かあったの?」と母が優しく訊ねる。

 私は少し沈黙した後、ゆっくり「う~ん、なんて言ったらいいかな~。自分のこと、自分でできることを増やしてみたくて。」

「あら、そう、それはいいことね。それじゃ毎日手伝ってくれる?」母は冗談ぽく「まずは料理からね」私に言うと。

 私は「毎日はチョット……」困った顔をする振りをする「嘘よ。出来る時だけでもありがたいわ。」2人顔を見合わせて大笑いした。
 
 でも、私は料理に熱中し始める。休みの日はお菓子を焼いてみたりと、新しいレシピに挑戦することで、日々の生活に小さな楽しみを見出し、創造性を育む。

 モトキさんがアメリカに行っている間、自宅でペンと紙に向かって過ごしていル時は、過去の恋を振り返りその感情を言葉に変えていく作業は自己発見の旅でもあった。
 
 私はまた、自分自身の内面と向き合うために、日記をつけることも始める。自分の感情や思考を紙に書き出すことで、自己理解を深め、心の整理を行う作業だ。
 
 そして、小説を書く傍ら、私は日常生活にも変化を加える。散歩や瞑想を通じて心の平穏を保ち、自然の中でリフレッシュする時間を持つようした。
 
 また、同僚や友人たちとの交流も増え、彼らとの会話から新たな視点やインスピレーションを得る。

 図書館の仕事でも少しずつ変化が現れてきた。 私は日々の業務に集中しながら、自分の創造性を活かす方法を模索していた。

 ある日、私は図書館での新しいイベント企画会議で「経済と文学」を提案してみた。このイベントは、経済学の理論と文学作品を組み合わせて一般の人々にも理解しやすい形で紹介するというもので、これはモトキさんとの会話の中で時々出てきていた話題を元に、まとめて見た物だった。
 
 企画会議の日、いつものミーティングの用に提案用の書類を持って会議室に入ると、みような緊張感が漂っている。
 
 テーブルの奥を見ると、館長の他、学長や学部長まで座っていた。同僚の幸子に「今日はどうしたの?」と静かに聞くと、幸子は耳元で「図書館業務の視察らしいわよ。何でも予算が削られるとかなんとか」
 
 私は、心のなかで「え~。どうしよう」と焦った。「よりによってなんでこんな日に」と。
 
 私は緊張しながら、ノートパソコンとプロジェクターをセッテングし、メモを見ながら、次期イベントの企画プレゼンを始めていった。
 
 プロジェクターには、「みんなが楽しんで分かる。経済学と文学の歴史。」
 のタイトルが写っている。

 

「まずい。分かっていれば、もっと堅いタイトルにしたのに」と落胆してが、もう割り切ってやるしかなかった。
 
 「経済学の理論と文学作品の関係を歴史を通して見ると、多くの興味深い相互作用が見られます。経済学は社会の物質的な側面を扱い、文学は人間の経験や感情を表現しますが、両者はしばしば互いに影響を与えてきました。……」
 
 私は、額に汗を書きながらぎこちない口調で、初めて言った。
 みんなは黙って私を見ていた。
 
 「古代ギリシアのホメロスの叙事詩『イリアス』や『オデュッセイア』は、トロイア戦争やオデュッセウスの冒険を描いた作品ですが、それらの物語は、ギリシアの社会や経済を反映したものであると考えられています。」……
 
「中世のヨーロッパでは、聖書や説教などの宗教文学において、経済活動がしばしば取り上げられ、例えば、トマス・ア・ケンブリッジの『経済学入門』は、農業や商業などの経済活動を神の摂理に照らして論じた作品です。」
 
 私は続けて「また、<産業革命とリアリズム文学>チャールズ・ディケンズの作品などは、産業化による社会的、経済的な変化を反映しています。」
 
「<資本主義批判と文学>カール・マルクスの『資本論』などの経済理論は、資本主義社会の批判を提起しました。これは、ジョージ・オーウェルやアルドゥス・ハクスリーのような作家たちによるディストピア文学に影響を与え、資本主義の暗部を描いた作品が生まれました。」
 
「<大恐慌とアメリカ文学>1929年の大恐慌は、アメリカ経済に大きな打撃を与えました。この時期の経済的苦境は、ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』などの作品に反映されており、経済的困難と人間の苦悩を描いています。」
 
「<ポストモダニズムと消費社会>20世紀後半の消費主義社会の台頭は、ポストモダニズム文学に影響を与えました。ドン・デリーロの『ホワイト・ノイズ』などの作品は、消費文化とメディアの役割を探求し、経済学の消費者行動理論とも関連しています。……」
 
「現代においては、経済と文学の関係は、さらに多様化して、経済学がますます高度化し、経済活動がグローバル化していく中で、文学は経済活動を多角的に捉え、その意味や価値を探求する役割を果たしていると思います。」

「村上春樹の『1Q84』は、バブル崩壊後の日本社会を描いた作品であり、経済の混乱が人々の精神に与える影響を描き出していますし……」

「また、マラル・ユースフザイの『ペシャワールの少女』は、パキスタンのタリバン政権下で教育を受ける少女の姿を描いた作品であり、教育の重要性を訴えた作品として知られています。」

 「このように、経済と文学の関係は、時代によって様々な変化を遂げてきました。」
 
「経済活動は、人々の生活や文化を形作る重要な要素であり、文学は経済活動を描くことで、人々の生活や文化を理解する上で重要な役割を果たしてきたと思います。」

 続いて私はイベントの進行方法やイベントのセッテイングについて話して言った。
 
 「……年表や資料をみんなで制作して、イベント会場にて経済の部分は経済学の教授の方々に、文学の方は文学部の教授方々にディスカッションしていただいて……」
 
 などと私は40分位説明していた。
 
 プレゼンが終わると、館長と学長が何やら話をして、私に向かって拍手をしてくれた。
 
「とても面白い内容で、イベント進行もわかりやすかったです。」と学長が言ってくれたのは、正直驚いた。
 お偉いさんがたが会議室を出る時、館長が私に向かって親指をたたてウィンクをしていった。
 
 私の提案は、上司と同僚たちから高い評価を受け、採用された。

「智恵さん、そのイベントのアイデア、本当に素晴らしいわ!」と同僚の一人が声をかけてくた。

「ありがとう、みんなの協力があれば、きっと素敵なイベントになると思うわ」と私は微笑みながら答える。

 このイベントの企画により、私のアイデアを採用されることが増え、チーム内での私の役割はより重要なものになっている感じだった。

 また、私は同僚たちとの関係も改善し、以前は控えめだった私が自信を持って意見を述べるようになり、同僚たちも私の意見に耳を傾けるようになった。

 

 ランチタイムには、同僚たちと楽しく会話を交わすことも多くなり、職場の雰囲気も明るくなった気がする。

「智恵さん、私たち全力でサポートしますよ!」と同僚が力強く声をかけてくれると、私は感謝の気持ちを込めて「皆さん。一緒に頑張りましょうね」と答えた。

 上司も私の成長を認め、新しいプロジェクトのリーダーに任命するなど、私の能力を信頼し始めていた。私自身も、モトキさんがいない間に自分自身を見つめ直し、仕事においても個人的にも成長を遂げいる感覚があった。
 

 

イベントの準備も一段落し、久しぶりにCafé Lumiéreへ足を運んだ。変わらぬ温もりと懐かしさで私を迎え入れてくれる。


 店内に流れるゆったりとしたジャズのメロディが、心地よい安らぎを提供してくれて、壁にかかった絵画と、木製のテーブルと椅子が時の流れを感じさせ。

 マスターはいつものようにうさぎのエプロンを身につけ、温かい笑顔で返答する。「おお、智恵ちゃん。随分とご無沙汰してたわね。どうしたの、宇宙旅行でもしてたの?」

 私はくすりと笑った。「いえいえ、そんな大それたことはしてませんよ。ただ、ちょっと忙しくて。」

 私はマスターの顔を覗き込むように「マスター、モトキさんから連絡とかありますか?」

 マスターはコーヒー豆を挽きながら、「ああ、モトキね。まったく。先日電話があったわ。アメリカで頑張ってるみたいだね。未だに携帯持っていないからね。まったく頑固で困ったもんだわ。自宅にも連絡しなさいって言っておいたわ。」

 マスターは呆れた様子で「奨学金が決まったら買うっていってたけどね。ホント連絡も取れないで困ったもんだわ。」

 私の心にわずかな期待が芽生える。「そうなんですね。早く決まるといいですね。」

 「智恵ちゃんも待ち遠しいだろうね」とマスターは私に温かい微笑みを向けた。

 「はい、でもこの間に私も色々変わったんです。自分自身でできることが見つかって。」

 マスターはコーヒーを淹れながら、「それは素晴らしいことだね。人間は、一人の時間があってこそ、成長するものだから。」

 「そうなんです。自分でも驚くくらい、色々なことに挑戦してみました。」と私は答えた。

 マスターはコーヒーカップを手に取り、ゆっくりとカップに注ぎながら、優しく「智恵ちゃん。あの子今まで誰にも相談とかしないで、生きてきてね。泣き言一つ聞いたこと無いの。」

 私は、コーヒーを飲みマスターの話を聞きながら、モトキさんの姿を考えてた。

「やっぱりね、両親に甘える時間がなかったから、甘え方や心の平穏を感じる時間をモトキには封印してきたのよ。必要なのよ、」

「智恵ちゃん。モトキをよろしくね。智恵ちゃんだけには心開いてる。そんなモトキを見るのが、とってもうれしかったの。」マスターの真剣な目に薄っすらと光り揺れるものを感じていた。

 私は、返事に困ってなんて答えていいか混乱していた。

 「もちろんです。私もがんばります。」と私は動揺する心を抑えて、元気に笑顔で応えた。

 「ただ、いくら甥っ子でも、うちも商売だから、コーヒー一杯で3時間は困るけどな~」と笑顔でウィンク。

「彼が帰ってきたら、すぐここに来ますね。」

 マスターは「ありがとう。コーヒーを淹れる手間は、心を落ち着ける魔法の時間だからね。」と言いながら、私にコーヒーをサーブしてくれた。

 私はその言葉を胸に、温かいコーヒーを一口飲んだ。Café Lumiéreの穏やかな時間が、私の心を優しく包み込んでいく。
 
 私は自分の過去を振り返りながらも、未来に向けての準備を始めているようだった。小説を通じて過去の恋愛を美しく閉じ、自分の人生の新しい章を開く準備を整える。
 
 新しい自分に向けて歩みを進めていた。