おでん屋 リリィ 第六章 | anemone-baronのブログ

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落書き小説根底にあるもの!
私の人生は、「存在しなければ、何を言っても正しい」という数学の存在問題の定義みたいなもの。小説なんか、存在しないキャラクターが何を言っても、それはその世界での真実なのだ。

 

 

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 篠田のオフィスは、高層ビルの静かな一室で、窓の外には都市のスカイラインが広がっている。ソファに座り、窓の外を見つめていた。

 

 部屋の壁には、彼のレーベルのアーティストたちのアルバムが飾られている。

 

柔らかい照明が部屋を照らし、外の喧騒とは別空間の静けさの中、彼の眼差しは、彼が立ち上げたレーベルの成功に浮かぶ誇りと満足感を反映していた。

壁にかかる金とプラチナのレコードは、彼の決断と努力が実を結んだ証だった事は言うまでもない。しかし、その成功の輝きの中にも、彼の心の奥深くには過去への微妙な後悔が潜んでいた。

彼の机の片隅には、昔のバンドメンバーたちとの古い写真が置かれている。その写真を見つめると、彼の心はジャズクラブでの夜へと飛んでいく。

彼らとの演奏、観客の歓声、そして共有した情熱を思い出し、彼の心は温かい懐かしさで満たされた。

 

 篠田は、レコードの売り上げやビジネスの成功よりも、音楽を愛し、共に奏でた仲間たちとの絆の方が重要だったことを思い出す。

 彼の頭の中で、健二のトランペットの音色が響き、田中のピアノの旋律が弾む。同じリズムパートの和夫との呼吸、彼らとのジャムセッション、即興で交わされた音楽的な対話、それらは篠田の魂の一部となっていた。

 

 篠田は、今の自分がジャズという情熱から少し離れてしまったことを感じてはいた。彼は、音楽業界での新しい役割を受け入れることには満足していたが、同時に純粋な演奏の喜び、一つの音楽ジャンルに身を捧げた若き日々に対する懐かしさを感じていた。

 

 篠田はゆっくりとコーヒーを口に含み遠くの景色を見つめて、過去の記憶に浸っていた。彼の心は、レーベルの成功と、失われたジャズとの時間の間で揺れ動いているなか、彼はふと自分の中にまだ残る音楽への情熱を感じ、かつてのように純粋な音楽の世界にもう一度戻りたいという思いが蘇るのを何時も感じていた。


 

 リリィの店

 
 

 外は木枯らしが吹き、時折の暖簾がめくりあがりガラス窓には霜が降りていた。店内は暖かい光とおでん鍋からの湯気が温もりを与えており、外の冷たい空気とは対照的だ。

店の角にある小さなテレビからは、メジャリーグで活躍するイチロー選手が日本人として初のMVPを受賞したニュースが流れている。TVどこもそのニュースで盛り上がっていた。

 

 リリィはテレビに向かって、「野球はよくわからないけど、こんなに盛り上がってるってことは、すごいことなのね?」と疑問を呈した。

 

 店のカウンターには篠田と健二が並んで座っていた。篠田はおでんをつまみながら、
「まあ、日本人がグラミー賞の主要4部門を受賞するくらい難しい」とリリィにわかりやすく説明した。

 

 リリィは少し考え込んだ後、
「グラミー賞より?凄いわね」と感心して言った。

 

 篠田と健二は笑いながら、
「まあ、そんな感じだ」と応じた。

 

 篠田はカウンター越しにテレビを見ながら、健二に対してしみじみと言った。「もう40年近くになるか……元気そうだな。健二、お前は今の仕事をいつからやってるんだ?」

 

 健二は、一瞬昔を思い返すように遠くを見つめた後、彼の目には、かつての熱狂的なステージが映っているようだった。
 

 「かれこれ15、6年は経つかな。一時は病院と施設を行ったり来たりしてたけど、今は落ち着いてるよ。」

健二の心の中では、かつての輝かしいステージの光景が蘇る。彼の指先が無意識にエアトランペットを模倣している。

 

 篠田の心には健二との数多くの演奏の思い出が蘇る。彼の心は、その日々を懐かしく思い、同時に、もう二度と戻れない時間への寂しさを感じていた。

 

 篠田の目には、過ぎ去った日々に対するわずかな後悔と感謝が浮かんでいた。「そうか……時間が経つのは早いな。俺たちも色々あったが、お前との演奏はいつも楽しかったな。」

 

 健二は、篠田の言葉に心からの笑顔を見せ、「篠さんも、自分のレーベル立ち上げて大成功だよな。あの頃の俺は、頭の中がガキのまんまで、音楽のことと自分の事しか考えてなかった。迷惑かけて悪かったよ。」

 

 篠田は笑いながら、
「あの時代、ジャズしかやってない奴は俺も含めて全員ガキさ。気の利く奴はとっくに他のジャンルに転身していたからな。でも、お前と一緒に奏でた音楽は最高だった。今でも記憶の中に生きてるよ。」

 

 健二は、おでんを頬張りながら、
「他のメンバーたちは元気かい?」と尋ねた。

 

 篠田は少し顔を曇らせながら、
「もう殆どがあの世に行っちまった。田中も昨年逝って、残ってるのは俺たちだけだよ。」と静かに答えた。

 

 リリィが二人の会話を聞きながら、軽く笑って、
「あら、私もここにいるわよ。お二人さんの話、昔を思い出させるわね」と言った。

 

 篠田はリリィに向かって、
「これは失礼いたしました。リリーがいたから、健二と再会できたんだしな。」と感謝を表し、健二に向き直った。

「健二、お前とまたこうして飲めることに感謝してるよ。俺もいつくたばるか分からんからな。」

 

 健二はカウンターに肘をつきながら、深い感慨を込めて、
「俺も死にそこねてここにいるけど、篠さんと再会できて、本当に良かったよ。」とお湯割りを呑みながら答えた。

 

 リリィは明るく笑いながら、
「あなたたち、”くたばるとか”・”死にぞこない”とか、まるで老人のような話しね。ここは楽しい店よ。死ぬまで青春を楽しむのが私たちの仕事でしょ?」と言った。

 

 二人は笑って、「くたばるまで青春か、そうだな。」と同意し、篠田はおでんの卵を食べながら「この卵上手いな~げっホッげっホ」と咽こんだ。

 

 健二が「卵で咽こむようじゃ青春は難しいな」と笑い、

「チョット、気おつけてよ」とリリィが真面目な顔で
「御縁があって三人出会えたのに”誤嚥”されたら困りますからね。」

 

 リリィのダジャレに二人は一瞬、顔を見合わせてから大笑い。過去の思い出や現在の感謝、残りの未来への期待を共有しながら、夜を過ごしていた。

 

 健二は、手にしたグラスの中の梅干しを静かに回しながら、篠田との長い関係を思い返していた。彼の目には、過去への深い洞察と再会できたことへの満足感が見え隠れしている。

 

 彼は篠田との初めての出会い、一緒に音楽を奏でた日々、馬鹿騒ぎしていた夜、など共有した数えきれない思い出。

篠田は、健二にとって単なるバンドリーダーや音楽の師ではなく、人生の大きな影響を与える存在だった。

彼は篠田の音楽的才能、リーダーシップ、そして何よりも情熱とビジョンに深い尊敬を抱いていた。

 

 しかし、篠田がジャズから離れ、新しい音楽の道を進む決断をしたとき、健二は深い失望と怒りを抑えきれなかった。彼にとって、ジャズは生き方そのものであり、篠田がそれを離れることは裏切りのように感じられた。

その当時の健二は、自分の感情を制御できずに篠田との関係に亀裂を生じさせてしまった事など、走馬灯のように思い回していた。

 

 時間が経つにつれて、健二は篠田の決断が彼自身の成長と変化の一部であることを理解し始めた頃。

 

健二は篠田の成功を心から喜び、健二自身もさまざまな試練と変化を経験し、かつての怒りや失望を乗り越え、その過程で篠田の決断に対する理解と受容が芽生えていた。

 

 篠田と健二はカウンターでおでんとお酒を楽しんでいると、リリィは彼らの顔を覗き込むようにして、
意気揚々と「ねえ、ちょっとした提案なんだけど……あなたたちのバンドもう一度やってみない?」ふとした思いつきを口にする。

 

 その言葉に篠田と健二は思わず手にしていたおでんを口から離し、お互いの顔を見合わせ、篠田の表情は驚きからやがて苦笑いに変わり、健二は眉をひそめながらも興味深げな目でリリィを見つめて、篠田は足を叩きながら

「それは……なんていうか、美しい夢だけどね。俺たちももう年寄りだし、足腰だってこのとうり言う通りじゃない。な~健二。」と健二の肩を叩く。

 

 篠田の心は、リリィの言葉によって若かった日々の興奮を一瞬呼び覚し。ステージに立つことへの憧れはあるが、しかし、彼の現実の体が、その夢をすぐに否定する。

 

 健二も、彼の声には昔への郷愁と現実への諦めが混ざっていて「俺も、20年以上演奏してないし、それに他の連中ももういないしね。再結成って言ってもな~。」

 

 しかし、リリーは決してそのアイデアを諦める様子を見ず、彼女の目は輝き、熱意が溢れてる。

「だったら、新しい若いメンバーを加えたらどう?新世代にあなたたちの音楽を受け継がせてみては?」

 

 この言葉に、篠田は一瞬思考を停止し、健二も黙考にふけた。二人の心には、リリィの言葉が新しい火を灯したように。

 

 篠田が「若い才能か……それも面白いかもしれないな。うちには、才能ある若手が結構いるしな。」

 

 リリィは手を横に降って
「駄目ダメ、プロじゃなくて素人で!だって、篠さんの所の若手っていってもプロでしょう。プロだと譜面見せればすぐ形だけは出来ちゃうでしょう。」

 

 篠田と健二はリリィの話を聞き入るように見つめて、

「あなた達の音楽は譜面じゃないわよ。感情と魂の叫びと信頼よ。それを伝えるの!」
篠田と健二は、リリィの熱意に自分たちの若い頃を思い出すように。

 

 リリーは「プロではなく素人」と強調。彼女は、彼らの音楽の本質を伝えるためには、技術よりも情熱が重要だと、腕組みをしながら二人に伝えてる姿はまるで教師と生徒の光景だ。

 

 篠田と健二は、リリィの提案に少し戸惑いつつも、彼女の情熱に引き込まれリリィの提案に興味を持ち始め、彼女の熱意に共感するが
「しかし~そんな若者居るかな~?」と目をつぶって天を煽るように篠田は言った。
健二は対象的に目をつぶって下を見て考え込んでる。

 

 リリィは自信満々に宣言しました。「いるわよ!」篠田と健二は疑問を抱きながらも「誰?」と彼女を見つめました。

 

 リリィはニコリと微笑みながら言いました。「あなた達も知っている、うちの常連の三人組、ショウ、タカ、カズよ。」二人は、今度は揃って天を仰ぎました。

 

 リリィは彼らについて話し始めた。

「彼ら、演奏は全然ダメだと思うわ。私もミュージシャンだったから分かるの。でもね、彼らには何か特別なものがあるのよ。」

 

 篠田と健二は興味深く聞き入った。リリィは続け

「いつも三人でつるんで、バカで下品な会話ばかりしてるけど、音楽に対する情熱は本物よ。彼らは、憧れているミュージシャンの話をするし、バイトをしながらもバンド活動を続けているの。この店に、来るようになってからだけでも5年もよ。意外かもしれないけど、そんな彼らには音楽の魂があるのよ。」

 

 健二は少し頷きながら言いました。
「そうか、新しい風も必要かもしれないな。彼らの話を聞いてみる価値はあるかもしれないね。」

 

 篠田は考え込むように言いました。
「プロではない若者か。新しい挑戦だな。でも、彼らに本当に音楽を伝えられるのかな?」

 

 リリィは力強く答え「伝えられるわ。あなたたちの音楽は、ただのメロディーやリズムではないわ。

それは魂の叫びなの。彼ら若者たちにも、それを感じ取ってもらえるはずよ。私も歌わせてもらうわっ!」と微笑んだ。

 

 篠田と健二はリリィの言葉に心を動かされ、新しい冒険への第一歩を踏み出す決心が固まりつつあった。彼らの表情は、不安と期待が入り混じる複雑なものだが、同時に新たな始まりへの好奇心が湧いてくるようだった。

 

 篠田はおでんを食べる箸を止めて考え込んで、ポケットから手帳を出して見ていた。
 

 リリィーと健二が篠田を見てリリィが

「どうかしたの、ダメなの篠さん?」と心配そうに言うと、篠田は力強く

「いや!やろう、ただし期限付きだ!」

 

「どういう事?」と健二が怪訝そうな顔つきで答える。

 

「12月24日に招待ステージをやろう、場所は帰ってから決める。練習スタジオは俺がなんとでもする。それまで彼らに徹底的に叩き込む。」

 

 健二の心は、篠田の提案に内心驚いていた。彼は自分の中に眠っていた音楽への情熱が、まだ息づいていることに気づき、不安と期待が混じり合う複雑な感情に包まれていた。

 

 健二が笑いながら
「流石、大物プロジューサー!でも、篠さんに叩き込まれるんじゃ地獄だな、俺も真剣に練習しないとブランクが有りすぎるからな」

 

 リリィが心配そうに
「そんな厳しくして大丈夫?彼らバイトも在るでしょう?」と言うと篠田は、
「目標を達成するためにどんな努力でも乗り越えることが、情熱ってやつだ!」と言っておでんを食べ始めた。

 
 

 バイト帰りの三人
 

 

 木枯らしが街を包み込む寒い夜、中野商店街を歩く三人組のショウ、タカ、カズは、コンビニでのバイトを終え、冷たい空気に肩をすぼめながら帰路についていた。街灯が照らす彼らの影は、地面に長く伸び、風に揺れていようだ。

 

 ショウが震える声で「今日は風も強くてマジ寒いな。早く帰ろうぜ。」

 

 タカは帽子を深くかぶりながら「帰ったって、部屋も寒いだろ。それよりも俺を温めてくれる女、どっかにいね~かな~」
 

「お前に水をぶっかける女なら沢山いるぜ!ギャハハ」ショウが笑いながらからかうと、

 

「水かけられる前に、俺のザー◯◯ぶっかけてやるぜ、ギャハハハ!」下品に笑う。

 

 カズは、手袋の指先から冷たさを感じながら
「おいおい、そんな事表で言うなバカ、ところでバンドの練習はどうするんだよ?」

 

 タカは、笑いながら「スタジオ代は高いし、今、金もないしな~。リリィの店なら、つけで飲み食いできるしよっ。」

 

 ショウは納得して「そうだな、金がある時に練習しようぜ。今はちょっとキツいし。」

 

「付けまだ残ってるけど、取り敢えずこの間払ったからな。いいか?」とカズも納得。

 

 三人は冷え切った手をポケットに突っ込み、顔を下に向けて歩き続け、彼らの足取りは軽く、会話からは金銭的な制約と寒さによる肉体的不快感が垣間見えている。彼らの音楽への情熱が試されているように。

 

 彼らの前にはリリィの店の灯りがほんのりと見え始めており、その温もりが三人を引き寄せていた。しかし、その心の中には、音楽を続けることへの迷いや、リリィの店での楽しい時間への期待とが混じり合っている。

彼らの未来は不確かでも彼らの足取りは、寒さに負けず、前に進もうとする彼らの意志をだけははっきりとしているようだった。下品さを除いて。

 

 
 

「Ninety Nine」 SONNY BOY WILLIAMSON

 サニー・ボーイ・ウィリアムソン(Sonny Boy Williamson II)の曲。

 彼の典型的なブルーススタイル。内容は間抜けな男の愛情表現か?

 

 

 

 Darling you know exactiy what happened,last year just about this time

 Yes you know exactiy what happened, lust about this time

 You asked me for one hunderd doars, and I didn't have but ninety nine

 Yes I'm in love with the little girl. just because she's so mice and kind

 I' in love, I'm love with the little girl, just because she's so mice and kind

 I was so sorry when she asked me for one huderd dollase,

 Icouldn't give her but ninety nine

 Yes my baby taken sick on July twenty-nine

 Yes the one she taken sick on July twenty-nine

 Her doctor billed her four hunderd dollase,

 And I didn't have but theree hunderd and ninety nine


 

 
 

 「I Want a Little Sugar in my Bowl」Nina Simone

 

 ニーナ・シモン(Nina Simone)が特に有名にしたブルース曲で、性的な暗喩を含む歌詞が特徴だ。

 

 歌詞の中で、「ボウルに少し砂糖を」というフレーズは、愛情や情熱的な関係を求める女性の声を象徴しているかのようで、ニーナ・シモンの深みのある声と解釈によって、この曲は単なる恋愛歌以上の、より深く、切なく、時には挑発的なメッセージを持つ作品です。 

 

(この曲女性しか歌えない、男性が歌ったら変な方行に行ってしまうw)

 

 

 

I want a little sugar in my bowl

I want a little sweetness down in my soul

I could stand some lovin'

Oh so bad

Feel so lonely and I feel so sad

 

I want a little steam on my clothes

Maybe I could fix things up so they'll go

Whatsa matter Daddy

Come on, save my soul

Drop a little sugar in my bowl

I ain't foolin'

Drop a little sugar in my bowl

 

Well I want a little sugar in my bowl

Well I want a little sweetness down in my soul

You been acting strangely

I've been told

Move me Daddy

I want some sugar in my bowl

I want a little steam on my clothes

Maybe I can fix things up so they'll go

Whatsa matter Daddy

Come on save my soul

Drop a little sugar in my bowl

I ain't foolin'

Drop some sugar- yeah- in my bowl.

 

 

 

つづく