12月24日の、今は午後11時。
「あのさ、アンドレ。一つ私はお前に聞きたいのだけれど。」
ガラステーブルに置かれているワイングラスのワインを一口飲むと、オスカルはおずおずとアンドレの方へ首を傾けた。
アンドレと言えば、終始ご満悦な表情でシャンパンボトルを手に彼女に背を向けている。
「ん~、何でしょう、お嬢様。」
「私が珍しく、チェスで大負けしたのは認めよう。でもそのペナルティーがこれ?」
そう・・・今宵のオスカルは、いつものシルクのブラウスにスラリとした長い足をブラックベルベットのキュロットで包んでいるのではなく、アフロディーテの再来か?と思わせるほどの柔らかな襞の多く入った白いドレスの装い。
凄く美しい・・・でもちょっぴり足がスースーするのと、めったに着ないドレスが気恥ずかしくてどうにも
落ち着かない。
それでも・・・恋人の前でドレス姿を見せたいという女の部分が最近とても顕著に自分の中に湧き上が
ってくることに、オスカル自身が戸惑っている。
でもな・・。それにしたって・・・。
「俺がさ、チェスに勝ったら今夜はドレス姿で迎えてくれよな。」という彼の条件に、「私が?
よ~し、うけてたとうか。チェスでお前に負けるわけがないしな。」
と…可愛げのないタンカを切った彼女は・・・ドレスを着る羽目になった。
はああ~。
そんな、情けないため息をついていると、黒曜石の瞳が彼女を覗き込んだ。
「でも、ため息が出るくらい、綺麗だよ。俺にとっては最高のクリスマス・プレゼント。」
またしても、最近首をもたげる女の部分が彼女をニヤケさせる。さき程までの不満はどこへやら、
恋人に「綺麗だよ。」と言われた事で、気分は目いっぱいあがってしまう。
「そ、そうか?実は侍女がニコニコして選んでくれたんだ。『脱ぎ着が楽なドレスにしておきますね。』
ってこれを選んでくれた。面白い事、言うだろ?」
・・・・気を利かせてくれた侍女の色っぽい計らいの意味を全然わかっていないオスカルにアンドレは
苦笑いしつつ、同僚の暖かい応援に感謝しかない。
それに・・・。あと1時間足らずでクリスマス。
オスカル、お前に贈り物を用意しないほど、俺は不実な彼氏じゃないよ?
ワインボトルはカモフラージュ。
彼の左ポケットにはクリスマスの鐘の音と共に彼女に差し出す、サファイアブルーのリングが
小さな箱に入って出番を待っていた。
そんな彼の、楽しそうな挙動不審を見ながら、オスカルはこれから起こるであろう、ちょっと
あやふやで、ロマンチックな時間を楽しみにしながら、グラスのワインを口に含んだ。
1日早いですけど、思い立ったので今日upいたしました。
皆様に素敵なクリスマスが訪れますように。