私の知っている唇は・・・
オスカルは、その美しい外見とは裏腹に、異性との付き合いは、はなはだ奥手だった。もちろん今の年齢に至るまで、何もなかったわけではない。
小さな頃は体が弱かったせいもあって、絵本や書物を読むことが何よりもの楽しみだった。美しい絵や、物語の中で、自分は好きに、どこへでも旅することができた。そんな子供時代を過ごしていたので、健康になり、学生生活を送るようになっても彼女の活字と学問への追及は衰えることはなかった。成績優秀で、背も高く
美しいオスカルは、常に女子たちの憧れであり、彼女達はこぞって
彼女の周りに集まった。彼女はとまどいつつも静かにこの状況を受け入れていた。男子学生の何人かは、彼女にデートを申し込んだ。でも、生来の彼女の生真面目さと、高い教養は、彼らの望むデートの場面には全くと言っていいほど邪魔なもので、自然と彼らは彼女を誘わなくなった。特に寂しい、と感じることはなかったのだが、これではいけない、と感じたオスカルは、まるで受験参考書を読む様に同級生の女の子が好んで読むファッション誌や恋愛のテクニック本などを斜め読みしてみたのだった。
大学に進学するころには、オスカルもようやく、クラスメートの男子と学内のカフェでお茶したり、ランチを取るようになるまで成長した。そして、2年生の時、同じサークル内の男の先輩に映画に誘われた。アメリカのアクション・コメデイで、オスカルもちょうど見たいと思っていたので、二つ返事でOKした。日曜日の午後、駅で彼と待ち合わせて、映画館に入った。映画はとっても面白くて、終わった後は誘われるままカフェに行き、映画の感想などで話に花が咲き、先輩と楽しい時間を過ごせた・・・・はずだったのだが。
その後で、予期せぬことが起きた。
駅まで先輩と並んで歩いていた時、彼はビルとビルの間に彼女を引っ張り込んだ。物静かな先輩は、強い力で彼女を壁に押し付け、キスをした。「・・・・以前からずっと、好きだった・・・。」と。
ありったけの力で、オスカルは彼を突き飛ばした。
後はどうやって駅に向かったのかは覚えていなかった。ただ、アニメのスローモーションのように、青い瞳から涙があふれてとまらなかった。後日、謝りに来た彼のメアドを削除し、着信拒否設定をして、オスカルはこの件にピリオドを打った。サークルも、やめた。
その先輩を嫌いだったわけではなかった。ただ、彼の唇が自分の唇に触れた時、猛烈な違和感・・・嫌悪感とも違う・・・を感じたのだ。違う…!自分が行き着くべき唇はこれではない・・・!
それから何年もたった今日、初めて出会った男性アンドレ。自分の過去の出来事を話した時、すっぽりと自分を包んでくれた。
まるで洗いざらいの過去をまるごと包み込んでくれるかのような、広く暖かい胸だった。
彼の唇に触れてみたい…オスカルは部屋のベッドの中で、
一人つぶやいた。
続く
夢見がちな少女時代・・・のつもり。
