それはきっと、なんの解決にもならないけれど | &&&<な、なんだってー!?

&&&<な、なんだってー!?

プロデュース劇団・集団&&&の活動とか、メンバーの諸々とか。
「しゅうだんたいいくずわり」と読みます。
2012年10月 第二回公演『歩く、空想タイムライン』に向けて、準備中。
稽古本格始動は7月から。

御無沙汰しております、中空よおい(脚本提供・演出担当)です。
集団&&&第2回公演『歩く、空想タイムライン』
無事、公演終了致しまして、月日も流れまして、
公演参加者は、既に、それぞれの日常へと戻っております。

改めまして、このたびは、本当にありがとうございました。
ご来場頂いた皆様、公演製作に関わってくださった全ての皆様、
応援してくださった皆様、見守って頂いた皆様に、
そして、ここに至るまでの歩みに、機会に、出会いに、全てに、
心から感謝したいと思います。

どんな場合であれ、どんな形であれ、
ひとつの芝居を打つときは、いつもそうなのですが、
今回は特に、個人的にも、参加者である創り手それぞれにとっても、
大変、実りの多い公演となりました。
いま・ここでしか味わえない、本当に得難い経験をさせて頂いたと思っています。
本当に本当に、ありがとうございました。


  自立探偵「肝心なのは最初の一歩だ、リキみすぎると転んでしまう」
 (by『歩く、空想タイムライン』~空中散歩の最初の一歩を踏み出しながら)


旗揚げ公演『裸足のアリス』を経て、
一歩を踏み出し、歩き始めた集団&&&。

公演に際してのご挨拶は、
主宰からの言葉が既に掲載されていますし、
私と致しましても、初日の幕が上がる前に書いた記事にて、
軽いノリ、ではありますが、一度まとめさせて頂きましたので、
ここでは、今回の芝居を書いた動機について、
また、今回の芝居の中身について、記憶について、
脚本家として、演出家として、少しだけ詳しく、触れておこうと思います。


 「記憶を拡大して、覗きこんで、指を滑らせるけど感触はない、
  初めて3D映画を見に行ったとき、画面に向けて思わず手を伸ばしたのに、
  指先に感触はなく、ただ、空を切るばかりだったことを思い出す。
  この手で掴み取りたいのに掴みどころのない、
  私が見ているのは現実ではないのかもしれない、
  押し寄せる記憶の波に押し潰されていく、
  あなたにはこの世界が、どんなふうに見えていますか?…」
 (by『歩く、空想タイムライン』~空気コレクターの独白より)


2011年3月11日のことです。
あの、例の、震災の時、
私は、当時通っていた大学内の講堂で、当時在籍していた学生劇団での、
最後の芝居をしていました。

3日間公演の中日、マチネとソワレの間の休憩中でした。
「地震があったらしい」
役者達がケータイやスマホを覗きこんで、
うろたえた声を上げながら、囁き合っているのを尻目に、
私は、目の前の芝居のことに、かかりきりで、
どうやらそれが、大地震と呼ばれる類の規模の、
未曽有の大災害だと知ったのは、その日の夜になってからでした。
どうやら、大津波による濁流で、
東北の方が大変なことになっているらしい、ということを知ったのも。

私は、あの時、あの瞬間、何をしていたかと言われれば、
芝居をしていました、と答えます。
が、あの時、あの瞬間に、あの場所で、一体、何が起きていたのか、
「なんだかぼんやりとしか」理解していませんでした。
この、情報社会の中で、
地域は違えど、同じ日本という国にいたにも関わらず、
目は開き、耳は聞こえていたにも関わらず、です。

1週間ほどしてから、twitterというものを始めました。
ちょうど、twitterが、災害連絡網として思わぬ活用をされている、
しかし、デマが出回っている、安易な噂や風評には注意してください、と、
マスコミに騒がれ始めていたころです。

それは、マスコミが切り取る声に辟易し、
現地の、もしくは関東に住む人々の、生の声というものを知りたい、
という、罪滅ぼしにも似た焦燥感と、なにかせずにはいられないという不安感、
少しでも人の声に近い、より確かな情報に、すがりつくような気持ち、
そして、ちょっぴりの覗きの精神からの行動でした。

きっと、私が、そのような気持ちを抱いたのは、
画面の向こう側の風景の、あまりの現実感のなさと、
マスコミが切り取った情報を受け取ることしかできない状況で、
近いようで遠い、「被災地」ではない場所にいた、私達にとっては、
あの災害を「なんだかぼんやりとしか」理解できていなかったからだと思います。


  自立探偵「まっすぐに伸ばす」
  空耳スピーカー「僕らの日常」
  ポスト族「タイムライン」
  空気コレクター「震えてる」
  ポスト族「震えているのは心臓、地面」
  空耳スピーカー「電話の呼び出し、メールの着信」
  空中散歩隊「揺れているのは、僕らの日常」
 (by『歩く、空想タイムライン』~夜明けに向かって手を伸ばし、ながら)


どんな状況下でも「日常」は、人が生きていこうとする、営みの中で生まれます。
どんなに特殊で困難な状況下でも、その生活の営みが安定し始めれば、
その風景こそが「日常」となっていく。
その風景をめくった向こう側に、どんな思い、言葉が存在していたとしても。

あんなことがあったというのに、
画面の向こう側に「日常」の風景が戻ってくるのは、
いやに、早かったように思います。
それは、TVやネットが、あの風景を「被災地」と呼び、
「被災地で頑張る人々」を積極的に切り取るようになったというだけで、
その風景の向こう側へと、目を向けなくなったというだけかもしれません。

ともかく、その場所からは、近いようで遠い、
私が生活していた「被災地」ではない場所では、
支援の呼びかけが活発に飛び交う中で、
早々に、「日常」の風景を取り戻していったように思います。
そして、あんなことがあったというのに、
私自身の「日常」も、大きな変化はないままに、変わらず、流れ続けていたのです。


  切り取りジャック「…なんにも、変わらなかった?」
  自立探偵「始めから、バラバラだったんだ」
 (by『歩く、空想タイムライン』~夜明けを前に絶望して)


今年の1月に、集団&&&主宰の佐伯君から、今回の公演の話をいただいた時、
なにか、大きなドラマや、大きな事件のようなものを壮大に描くよりも、
日常のちょっとした風景を切り取ったような、そんな芝居がしてみたいと思いました。

時代とかいう、そんな大きな流れのようなものから見れば、
忘れられてしまうような、小さな事件、いや、事件どころか、
他人から見れば小さな悩みでしかないこと、
そんな小さな悩みを、大げさに抱え込んで生きている人々、
個人の悩みだからこそ、簡単に解決するわけではない、それぞれの思い、事情、
創り手である私達、等身大の若者の、空気みたいなものを切り取って、
舞台上に、描き出せればいいな、というふうに思いました。

あれから、一体、なにが変わったのか、なにが変わらなかったのか、
これから、一体、なにが変わっていくのか、
本当の意味での、当事者にはなりえない私に、会わせる顔を持たない私に、
一体、なにができるのか、じっくりと考えてみたいと、そう思ったのです。


  空気コレクター「手を伸ばしても、届かないよ」
  紙袋部「それでも」
  空気コレクター「太陽には、届かないってば」
  紙袋部「それでも!」
 (by『歩く、空想タイムライン』~夜明けに向かって、手を伸ばす)


仕上がった芝居は、私達が普段、実際に暮らしている街、「日常」からは、
近いようで遠く、まるで、ファンタジーのようにデフォルメされていて、
震災のことにも、ほとんど触れることをしませんでした。

しかし、ネットの繋がりや、不確かな情報に翻弄される若者達が、
互いの間をどうしようもなく分断された境界線を見つめながら、
希薄になった繋がりの向こう側に、あやふやな現実の向こう側に、手を伸ばす、
今の私に(私達に)できる、精一杯の芝居になったというふうに思います。


  ポスト族「遠くの方に山が見えて、ビルが立ち並んでいて、タワーが見えるって呟いてる」
  空耳スピーカー「東京タワーか」
  自立探偵「スカイツリー、だろ」
  ポスト族「通天閣じゃない?」
  空気コレクター「京都タワーかも」
  空耳スピーカー「どこかの鉄塔かもしれない」
  ポスト族「どこにでもある、景色すぎるよ!」
  自立探偵「だからって、これを、どこにでもある話にしてたまるか!」
 (by『歩く、空想タイムライン』~画面の向こう側の、どこかの誰かの呟きを覗きながら)


今年の5月に、金環日食があったことを覚えていますか。

みんなで、一斉に、太陽を見る。

ただそれだけのことが、
TVでは一大イベントのように扱われていました。
その翌日には、東京でスカイツリーが開業し、
多くの人々が、その行列に並ぶ風景がそこにはありました。
夏には、オリンピックがあり、
多くの人々が、寝不足になりながら、画面の向こう側の熱狂にかじりついていました。

それらのできごとに、演劇は、
大阪の小劇場で活動する私達の芝居は、
全くかなわないのかもしれません。
映像技術が発達した今、目の前にいる人の力に、
なにかを期待するなど、ナンセンスなのかもしれません。
けれども、それがたとえ、たった100分という短い時間だけだったとしても、
その場にいる全員が、確かに同じ景色を見て、感じている、
その一瞬の出会いを創り出す為に、私達は、日常を生きています。


  空気コレクター「私はあなたと同じものが見たい」
  紙袋部「きっと、この気持ちが重なることはない」
  空気コレクター「私はあなたと同じものが見たい!」
  紙袋部「きっと、この思いが共有されることはない」
  空気コレクター「だけど、今だけはきっと、私達みんな、同じ夜明けの空を見ている!」
 (by『歩く、空想タイムライン』~夜明けの空に息をのみ)


夜明けの太陽に向かって手を伸ばす、今回の芝居、
終演後に、私達に届いた感想は、おおむね好評で、
お客様それぞれバラバラ、三者三様の思い、言葉が綴られていて、
公演参加者一同、とても嬉しく拝見致しました。

日常へと戻った我々は、これからも、
前へ、前へと、それぞれの道を進みます。
またどこかで、お会いできる日を、楽しみにしております。


  空中散歩隊「それでも、僕らは、この街の空を歩く」
  
  「まっすぐ、まっすぐ、一歩、一歩。
   迂回、よじ登り、まっすぐ、まっすぐ。
   前へ、前へ。上を、目指して、時折、降りて。
   迂回、寄り道。一歩。転んで、すりむき、引っかけ、あいたた、
   手をつき、笑って、ため息、ため息。笑って、立って、深呼吸。
   まっすぐ、一歩、前へ、前へ。ふわり、進む、空中散歩」
 (by『歩く、空想タイムライン』~群唱、もしくは140字の決意表明)


中空よおい@いま・ここで、芝居を創る、ということ@LiaradioS