『山海経』雑感 | 呉下の凡愚の住処

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春秋戦国の楚国、三国志の孫呉にすべてを捧げて生きています。
現在はあまり更新していませんが、
何も持っていなかった過去の自分が想定読者でした。
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『山海経』読了、って記事にこれを書くつもりでしたが
もう2ヶ月も前の記事となっていたので独立させることにしました。
トレスに取り掛かるまでに時間がかかった……
(↑取り掛かってからは数十分で終了)

最後のほうは結局自分の書きたいことをばーっと書いてます。
雑感です。雑記です。
感想になってないし、何より長すぎるのでご注意ください。

↓こっちのほうがまだマシな感想かも
「瑾瑜」の起源
http://ameblo.jp/ancyon/entry-11030376514.html


『山海経』は「妖怪ちゃん大集合」にしか見えない地理書です。
地理書なんです。
もとは地図が別にあったそうで、
「『山海経』本文は地図の解説書だったのだろう」と言われています。

山海経 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%B5%B7%E7%B5%8C
↑Wikipediaに概要が載っているのでリンクしておきます

この本のいちばんの見所はやはり挿絵。
一例を挙げてみます。(勝手にトレスしています)
このブログ、横幅が広い画像が縮小されるので
横幅が狭い形天さんがでかい画像になってしまった……

呉下の凡愚の住処-刑天
▲形天(海外西経)

呉下の凡愚の住処-カツ魚
▲【魚骨】(カツ)魚(東山経)

呉下の凡愚の住処-帝江
▲帝江(西山経)

なんというプリチーさ。
こんなにプリチー(?)なのに、
形天は黄帝と戦って敗れてもなお戦い続けた人
(↑首を斬られたが乳を目、臍を口に変えてがんばったらしい)、
カツ魚は姿を現すと天下に旱を起こすお魚、
帝江はその神々しい名が示すとおり「神」らしいんです。
みんなそれなりの背景を持っていたりします。
本の中には、心臓の弱い方にはおすすめできないような
危ない挿絵も多いです。体が大量にある魚とか。

私はそんな挿絵たちと、成立年代の古さに惹かれて読み始めました。
古代の人たちの想像した生物ってどんなだったんだろうと……
いや、想像じゃないかもしれませんが!
生態系の描写がとても詳しいので実際にいたかもしれませんが!(笑)
読んでみて本当によかったです。大満足。
黄帝・尭・舜・禹・夏后啓……そんな神話の話がたくさん読めました。
神様たちは今でこそ人間の姿をしているイメージがありますが、
『山海経』の中では↓こんな感じです。(勝手にトレス)

呉下の凡愚の住処-西王母
▲西王母(西山経、汪紱撰『山海経存』)

呉下の凡愚の住処-西王母
▲西王母(海内北経、蒋応鎬)

ひとりめの西王母もでかくなってしまった……
西王母は時代が下ると
女神と判別できる姿で描かれるようになりますが、
『山海経』では何が何だか分かりません。もはや性別不明。
2パターンの顔も違いすぎるし。

実はこの本に登場する生き物がどんな姿をしているかで
当時の人々が生き物に抱いていた感情を考察できるそうです。

たとえば『山海経』には「人面蛇身」の生物が大量に出てきます。
「神様」とされる方々は蛇を耳飾りにして、蛇に乗っていたりします。
訳者の高馬三良氏の「解説」には
上古の挨拶の它無它(つつがなきや)の它は蛇のことで、蛇の害も多かったのであろうし、それを自在にあやつるものが勇者であった。このことは経中の神がみの姿にうかがうことができる。
とあります。
現代に生きる私からすればただのグロ画像(……)なのですが、
神様たちのそんな変わった姿から、
当時の人々が恐れていたものを知ることができるのですね。

害をもたらす生き物が多く登場するということは、
それだけ人の力ではどうにもならない災害が多かったということなのでしょう。
逆に、食べるとおいしくて健康にもいい(らしい)生き物もいるのですが……
どこを食べるんだよ。とつっこみたい生き物多数。

実は意外と普通の外見をしたやつも多いです。(挿絵にもよるんでしょうが)
どうみても狼とか、どうみても鹿とか、どうみても魚とか……
現代に実在する生き物もいる(巻末の水木しげる先生の解説曰く)ので、
他の怪しい生き物もやっぱり大昔にはいたのかもしれません(笑)


個人的にいちばんテンションが上がったのは「蚩尤」の記述です。
蚩尤は「黄帝と戦って敗れた者」っていうのが有名なところですが、
(↑なんで有名なのかなーと考えたら『史記』黄帝本紀に載ってるからですね)
『山海経』には若干違う話が載っているのでした。

「大荒東経」
大荒東北隅中,有山名曰凶犁土丘。應龍處南極,殺蚩尤與夸父,不得復上。故下數旱,旱而為應龍之狀,乃得大雨。

大荒の東北の隅に「凶犁土丘」という山がある。応龍は山の南端に住んでいる。蚩尤と夸父を殺してから、天に帰ることができなくなった。そのため天下はしばしば旱する。旱に遭ったときに応龍のポーズを真似ると大雨が降る。
「大荒北経」
有係昆之山者,有共工之臺,射者不敢北嚮。有人衣青衣,名曰黃帝女魃。蚩尤作兵伐黃帝,黃帝乃令應龍攻之冀州之野。應龍畜水,蚩尤請風伯、雨師,縱大風雨。黃帝乃下天女曰魃。雨止,遂殺蚩尤。魃不得復上,所居不雨。叔均言之帝,後置之赤水之北,叔均乃為田祖。魃時亡之。所欲逐之者,令曰:「神北行!」先除水道,決通溝瀆。

「係昆」という山がある。山上には共工の臺があり、射る者はあえて北を向かない。青い服を着た人がいる、彼女は黄帝の娘・魃。蚩尤が兵を挙げ黄帝を攻めたので、黄帝は応龍に命じて冀州の野を攻めさせた。応龍は水をたくわえて戦に備えた。蚩尤は風伯と雨師を呼び、大いに風雨を起こした。黄帝が天女の魃を下らせると雨はやみ、ついに蚩尤を殺すことができた。しかし魃は天に帰れなくなり、魃の居るところでは雨が降らなくなった。叔均がこのことを黄帝に告げたので、黄帝は魃を赤水の北に移らせた。叔均は田地を司る官に就いた。魃はときどき逃亡するので、彼女を追い出したいものはこう言うべし。「神様、北に行ってください!」と。そして、まずは水路や溝をきれいにしよう。
応龍って何者なんでしょうね。
神話の新しい一面を知るとはげしく興奮します。
応龍の挿絵はなかなかカッコいいです。イケイケです。
「確かにこのポーズは真似たくなるわ~」って感じ。
でも細かそうなのでトレスは諦めました……需要があったら描きます。

蚩尤をはじめ、神々たちの『史記』とは違った一面を見られたのが
『山海経』を読んでのいちばんの収穫だったかな~。
きっと『史記』は時代が下りすぎてて、妖怪っぽさがないんですよね。
みんな(やってることは人智を超えてるけど)人間として描かれている。
『山海経』は、ひとつひとつの故事はさらっと書かれているけど
それぞれの話が独特で、はっとさせられます。
中国神話が好きな人(俺俺)には絶対おすすめ。


最後になりましたが、「平凡社ライブラリーの『山海経』の感想」を。
今現在、これ以外にお手ごろ価格で買える
『山海経』の全訳は出ていないと思います。
山海経独特の意味不明な単語を原文のまま載せてくれており、
単語にはカッコで日本語の説明がついてます。おすすめです。
↑原文独特の単語が勝手に日本語訳されていると
 気になってしまうタイプなので……
ほんとにお手ごろ価格なのに、注釈も詳しい。
ただ残念なのは挿絵が少ないことです……
ページ数の都合で仕方がないのでしょうね……

横浜ちうかがいで買った中国版の山海経は挿絵モリモリだし、
原文のイメージを壊す勢いで現代語訳されているので分かりやすいです。
有名な古典ですし、種類も豊富に出ているかと思います。
「山海経に浸かりたい!」という方には中国版をおすすめします。


参考文献:
『山海経(図文珍蔵本)』李潤英・陳煥良註訳 岳麓書社出版社
↑2種類の西王母の絵、山海経の現代語訳(中文)。
『山海経~中国古代の神話世界』高馬三良・訳 平凡社ライブラリー
↑上3体の絵、引用箇所など

『山海経―中国古代の神話世界』 (平凡社ライブラリー) / 著者不明
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