#39 万里の長城 | かふぇ・あんちょび

かふぇ・あんちょび

このカフェ、未だ現世には存在しません。

現在自家焙煎珈琲工房(ただの家の納屋ですけど…)を営む元バックパッカーが、

その実現化に向け、愛するネコの想い出と共に奔走中です。

 宿のフロントで、20元(220円)でニセ留学生証を作らないかと話を持ちかけられた。
当時の中国には外国人料金という二重価格制度があり、外国人は様々な場面において中国人の何倍かの料金を払わなければならなかったのである。
万里の長城の入場券の差額だけでも元は取れるらしい。

 何より面白そうだったので顔写真を渡すと、その場で簡単にはい出来上がり。
これによると僕は 「南京国際文化芸術交流中心」 という長ったらしい名前の学校で水墨画を専攻する留学生らしい。

 このゴム判を押しただけのチャチな学生証は、後の僕の中国の旅において、通用することもあり、しないこともあったが、けっこうな額の旅費を浮かせてくれたのは事実である。
これで僕も立派な犯罪者という訳なのだが。
それにしても、

 「ナンジンゴォジーウェンホアイェジュウジャオリュウチョンシン」

…どうせ嘘の学校をでっち上げるのなら、もっと簡単で覚えやすい名前にしてくれればよかったのに、と思う。
もっとも西洋人バックパッカー達は、「留学生」 という中国語すらしゃべれずに堂々とこのニセ学生証を使っていたが。

 僑園飯店には万里の長城に行くミニバスのツアーがあり、部屋の皆でこれに参加した。
テレビや写真でよく目にするのは、同じ長城でも 「八達嶺」 と呼ばれる所だそうであるが、貧乏旅行者の僕たちが選んだツアーでは、「司馬台」 と呼ばれる所が行き先であった。

 それは素晴らしい景色であった。
夏の緑に萌える山々の稜線に沿って、見渡す限りどこまでも城壁が続いている。
まるで、山上に龍がのたうっているような迫力である。
この壁が、東は渤海に臨む山海関という関所から、西は敦煌に程近い嘉峪関という関所まで、延々と続いている訳である。

 そしてこの万里の長城の何がいちばん僕の心に残ったのかといえば、これを築いた中国の偉大さというよりも、むしろそれほどまでに中国歴代の為政者たちを恐れさせた、この壁の北方に住む草原の民たちの事であった。

 城壁の上に立ち、心地よい夏の風に吹かれながら、僕は高校生の頃に読んだ、井上靖の 『蒼き狼』 に描かれていた、蒙古の戦士たちがこの城壁を越えてゆく情景を思い出していた。

 草原の国、モンゴルか…。