#21 常州 | かふぇ・あんちょび

かふぇ・あんちょび

このカフェ、未だ現世には存在しません。

現在自家焙煎珈琲工房(ただの家の納屋ですけど…)を営む元バックパッカーが、

その実現化に向け、愛するネコの想い出と共に奔走中です。

 僕の唯一の旅行指南書は、『地球の歩き方中国編』であったのだが、滞在していた揚州の紹介はほとんどないに等しかったし、今回到着した常州に至っては、記述すらなかった。
後に僕はこの重いガイドブックを、日常会話集のとこだけ破りとってあとは捨ててしまった。
参考書や医学書といった分厚い本には、受験勉強と大学時代でうんざりしていたのだ。

 で、到着した常州の町を、宿を求めて歩き始める。
繁華街らしい場所で高いホテルを何軒かはしごしていると、上海行の船上で会った宋中さんが、おーい! と自転車で追いかけてきた。
この町には彼とセイラに会いにきたのだが、今日の到着を告げていた訳ではない。
いぶかしく思い訊ねてみると、彼が友達とお茶を飲んでいる店先を、ザックをかついだ僕がふらふら歩いていたのだそうだ。
比較的安い宿まで連れて行ってもらい、大変ラッキーであった。
 
 これ以降の旅も、だいたいこんな調子で事がすすんだ。
行く先々で出会うバックパッカー達と宿の情報を交換したり、駅やバスターミナルで群がってくる客引きや運ちゃんとかに宿に連れられたりすれば、参考書は不要であったしドキドキが増すのであった。

 宋さんは帰郷後無事に新しい就職先が決まっていた。
沖電気と中国の合弁のコンピューター会社での通訳だそうだ。
専門用語が多くて大変ですよ と言っていたが、とても嬉しそうだった。
それはそうだろう。
日本で一生懸命勉強した成果でもって、故郷の町で新しい生活を始めたのだから。

 こうして無事宿も決まり、セイラとも電話で連絡がとれた。
翌日の夜は宋さんもセイラもそれぞれ友達を連れてきて、一緒に遊びましょう ということになる。

 まるっきり合コンの幹事気分である。
いかにも真面目でお堅いタイプの宋さんと、上海のディスコでガンガンに踊るセイラとが、外国人旅行者の僕を間にして自分の故郷の町で合コンするという不思議なシチュエーションは、なんとも痛快に感じた。