日本記録を上回る記録を出したタイの19歳ブーンソンの変化
2025年12月11日の東南アジア大会予選で、タイの19歳プリポル・ブーンソンが9秒94(+0.7)のアジア歴代3位の好記録をマークしました。ブーンソンのレース展開は、スタートで大きく出遅れて後半凄まじい勢いで追い上げるという、100mに本格参戦する前のノア・ライルズのようなレース展開をする選手というイメージを持っている方も多いと思います。事実100m本格参戦前のノア・ライルズのスタイルに近い選手だと思います。100m本格参戦前のライルズベストレースのひとつに2019年DL上海大会でコールマンを大逆転したレースがありますが、このレースのデータは9秒86(+0.9)1~16歩3秒0516~21歩1秒02歩数45.7歩二次加速ピッチ-0.02中盤以降のピッチ-0.12昨年のパリ五輪優勝時のデータは9秒79(+1.0)1~16歩3秒1716~21歩1秒04歩数44歩二次加速ピッチ+0.08中盤以降のピッチ-0.08ブーンソンの今年7月に行われたユニバのデータは10秒22(-0.7)1~16歩3秒0716~21歩1秒05歩数45.9歩二次加速ピッチ-0.12中盤以降のピッチ-0.24そして、今回のデータは9秒94(+0.7)1~16歩3秒1916~21歩1秒02歩数45歩二次加速ピッチ+0.20中盤以降のピッチ-0.02ライルズも今回のブーンソンも1~16歩の前傾区間を明らかに大きく走るようになっています。ブーンソンはライルズよりも大きくピッチアップしており、より最近のトレンドに沿った走りになっています。正直なところ、これまでのブーンソンの走り方だと10秒を切るのは無理だと思っていたので、先にこの記録を聞いた時に今までの延長線上の走りでこのタイムが出るのは理解できないと思いましたが、ガラリと走り方を変えてきたということでやはり大きく入ってピッチアップのレース展開の方がより効率的な走り方だと改めて感じています。以前のライルズやこれまでのブーンソンは、比較的最初からピッチを回すスタイルです。ピッチ型には大きく分けて二つのタイプあると思っていて、ひとつはスタートからエネルギーを使ってガンガンピッチを回してスタートから飛び出していくタイプ(後半失速が大きいタイプ)。もうひとつは、エネルギーをそれほど消費せずにコンパクトにスタートし、ピッチは比較的速いものの省エネスタートでストライドが短いためにスタートはかなり出遅れるものの、序盤のストライドが狭いために後半にかけてストライドを伸ばす余地が大きく、節約したエネルギーを解放するとともに後半の伸びで勝負するというスタイルです。スタートはコンパクトで後半勝負のスタイルの最大の問題点は、スタートでかなり出遅れて取り返せないほど致命的な差を序盤でつけられてしまう危険性があることです。後半の伸びがあることで見栄えは良いですが、レーストータルで考えると、大きく入ってしっかりピッチアップスタイルの全区間に渡ってロスが小さい走りと比べると100mトータルでのタイムは見劣りすると考えています。日本にも旧型ライルズ、旧型ブーンソンのスタイルで走る選手がいます。早稲田大学の井上直紀選手です。井上選手も後半の大きなストライドで後半の強さが売りの選手ですが、同格もしくは格上と走ると序盤で大きく出遅れます。覚醒後ブーンソンのように大きく入ってしっかりピッチアップ出来る選手になれば、もう1ランクも2ランクも上の選手になれる力を秘めていると思います。セビルが世陸で優勝したことからも、大きく入ってピッチアップする重要性がより知られてきているとは思うので、井上選手もそのスタイルを採り入れて来シーズン爆発してもらえればと思っています。