むしゃくしゃしてやった、双三極管は差動用だと思った (電子回路屋・半導体世代)
後学のためにNutubeを試してみました。
歪ませるにしても、まずはどの程度の特性が出るのか確認しないといけませんし、歪みの主成分が本当に偶数次歪みなのかも確認しておきたいのです。はたしてNutubeにはその素子特有の測定に表れにくい良さがあるのか、その音は特性によるものなのか。
・Nutubeとは何なのか
21世紀に登場した新しい真空管です。中が真空になっているかはわかりません。双三極管なので増幅素子が2個入っていますが、直熱管でありふたつのフィラメントで片側の端子を共用しています。この構造のため、使い方は限られます。(カソードの電位が違う用途…2段直結などは1パッケージでは困難です。)
実は出始めのころに一度試そうと思ったことがあるのですが、特性が期待できないこととコストの問題で断念でしたのでした。今回も半導体並みの特性が出るとは思っていません。個人的にはまず素性がわからないと使う使わないにも至りません。
・回路を考える
今回はNutubeの構造やデータシート上の特性から考え、1パッケージのNutubeを差動として使うことにしました。ただし、トランジスタほど性能がそろっていないでしょうしgmも小さな素子なのでゲインも低く、差動にしても大きな性能向上は果たせないことが予想できます。
またプリアンプにしてもヘッドホンアンプにしても、何らかの出力ドライバが必要です。Nutubeを使ったハイブリッドヘッドホンアンプは多いので、今回はうちでもヘッドホンアンプとし、出力ドライバは負荷が重くても歪みが小さなオペアンプ(実測した中から選らんだもの)でダイレクトに駆動します。
今回はNutubeで差動アンプを構成するためその部分の出力も差動出力になりますから、これを直接オペアンプで受け、合成し出力とします。(いくつか注意点があります。後述。)
こういった構造のため主電源は±9V、フィラメント電源はフローティングの約1.2Vとします。
・制作したものの測定値
手持ちの部品で動かしたので一部最適値ではなく、その部分を直せばもう少し値が下がりますがとりあえずとった測定結果を示します。Nutube部での歪みを見るために無負荷になっています。
ゲインは+2倍です。
つまり1V出力時の入力電圧は0.5V、4V出力時の入力電圧は2Vになります。Nutubeを入力部に使用したアンプとしては圧倒的な低歪みだと思います。また歪みの主成分は2次歪みであることを確認しています。
よく見るNutubeの使い方より歪みが小さいのはグリッドとカソード間の電位差の変化量が通常の使い方より小さいためでしょう。そのためアノード電流の変化も小さく、歪みが小さい領域を使用しているということです。
なお今回は歪みの主成分が2次歪みであることを確認していますが、真空管を用いたアンプだからといって必ず2次歪みが大きいわけではありません。たとえば波形の頭がつぶれていたら、そこは奇数次高調波を含みますし。
・注意点
<br>Nutubeは周波数特性が悪い(カットオフ周波数が低い)ため、初段をNutubeの差動とし
2段目以降を半導体のハイブリッドアンプとする場合は後段のゲインと周波数特性に注意が必要です。位相が180度回った時点で0dB以上のゲインがあると発振します(増幅回路の基本です!)から、このような構造にする場合は2段目以降を十分に低いカットオフ周波数で補償しておく必要があります。Nutubeはgmが極めて低いため、補償のためのコンデンサは現実的な容量のものが使用できます。(実際にデータシートから数値を計算して、補償値を計算してみると面白いと思います。)
同様の内容をホームページにもまとめてありますから、こちらもどうぞ。